51.魔法の杖、私だけの杖:前編
昼食の時間帯が過ぎて太陽がだいぶ西に傾き出した頃、秋口に入ったとはいえまだ温かい日の光を浴びながら私達は修道院の演習場に来ている。
具体的には第五区画、第三演習場。そこで大事な大事な休日を返上して特訓に勤しむ私はシミュレーターで生成された人狼の悪魔を捕らえようと奮闘する。
だけど、右へ左へと俊敏に駆ける悪魔に逆に翻弄されて、魔法で捕らえるどころか予防線として仕掛けた設置型の魔法の蔓まで出しても悪魔に掠る事すらない。
「ああもう‼うまくできない!」
何もかもうまくいかない苛立ちから私は声を荒立てて乱れた髪を掻いた。どうしてこんなにダメなんだろう?普通に魔法を使う時はこんな感覚にはならないのに、戦闘になると途端に思う様に魔法が出せない。
なんか、靄が掛ったみたいに魔力がうまく操れなくなる———
そんなヤキモキした感情を抱える私の横であかりが首を傾げながら絞り出す様にアドバイスを言う。
「うーーん。魔法操作はイメージだから、うまくイメージ出来てないんだと思うんだけど・・・どう思う?」
あかりは一緒になって特訓中のカチューシャの方を見てそう尋ねた。だけど、あかりの声も空しくカチューシャは苦しそうな声を上げてタコに夢中になっている。
「うひぃぃ・・・」
私の後ろで大きめのレジャーシートを広げ、いつもの日傘を差して固い地面に座るカチューシャは、今日も今日とてタコと格闘している。
カチューシャとしても少しでも早く苦手なタコを克服したいらしく、頻りにクレアとクレアのタコを連れ出してはこうして特訓している。・・・んだけど、パッと見た感じ、あんまり進捗が見られない。
・・・できれば、カチューシャの口からこんな情けない声は聞きたくないんだけどなぁ。
でも、この前あげたタコのぬいぐるみをしっかりと抱きかかえているあたり、ぬいぐるみになら触れる様になったみたいで少し安心した。あげた時は凄く嫌がってたけど。
「うううう・・・・」
———それにしても、ぬいぐるみを抱えるカチューシャ、可愛いな・・・
「カチューシャ?」
それはさておき、一向にカチューシャから助言が返ってこない事に痺れを切らせたあかりが名前を呼んで催促する。だけど、彼女は変わらず悶えた声を上げてタコと戯れているのであかりが「カチューシャ!」と語気を強めて再び呼ぶと彼女はようやく振り向いた
「・・・何ですの?」
「私じゃうまく教えられないんだから協力してよ。」
困った様に肩を落としてお願いするあかりにカチューシャは目に見えたため息をついて面倒くさそうに言う。
「基本的な事は出来ていますわ。そのまま反復練習すればいつかは出来る様になりますわ。」
「だって。」
「そんなぁ・・・」
落胆した私の声にあかりが返す言葉を誤魔化す様に苦笑を浮かべる。いやまあ、逆に練習を積めば解決する問題だと喜ぶべきなんだろうけど、今のところそのきっかけすら掴めないから素直に喜べない・・・
なんて複雑な感情を抱いているとカチューシャが仕方なさそうな表情で助言を続ける。
「そもそも、フレンダは魔力をうまく扱えていないんですわ。」
「えっ。どういう事?魔法はちゃんと使えてるよ?」
「私が言っているのは魔法ではなく魔力操作の事ですわ。」
「何が違うの?」
カチューシャの言葉の意味が理解できず考えなしに私が尋ね返すとカチューシャは呆れた様子で私に尋ねた。
「アナタが感じている違和感は、魔法の発動時に生じる少しのラグと生成位置のズレではなくて?」
「え⁉ウソ!なんでわかるの?」
余りに芯を突いた言葉に私は驚きを隠せなかった。どうしてそんな事まで分かるのか、カチューシャの正確な分析にただ純粋に感動を覚える。
そんなどこか憧れにも似た感情を抱く私を尻目にカチューシャは膝上のぬいぐるみをいじりながら言葉を続ける。
「アナタが持っているその余りにも膨大な魔力。それが良くも悪くも魔法行使に影響が出ているんですわ。それそのものは実に強力ですけれど、膨大であるが故に魔力を魔法という形に成形する事が難しくなっているんですの。例えるなら魔法の焦点が合っていない、とでも言うべきかしら。」
「ええっと、つまり?」
「要するに〝大雑把〟なんですわ。フレンダの魔法は。」
「大雑把・・・・」
カチューシャの鋭角高めの言葉が私の胸に深く刺さり込んだ。
でも・・・うん。全くもってその通りなんだけど、こうはっきりと言われると流石に傷つく。・・・・いやほんと、その通りなんだけど・・・
しかし、その理不尽なりとも正論な言葉の槍をカチューシャは無常にも続ける。
「今まではそれである程度魔法が扱えたんでしょうけれど、戦闘という一瞬で状況が変化する環境では通用しなくなってきているんですわ。」
「うう・・・それは・・・具体的にはどうすればいいの?」
「ひたすらに練習。」
「そんなぁ・・・」
やっぱり、結局はそこに行きつくよね・・・それは当然の事だと思うし、そうしなきゃいけない事も分かってる。だけど、それが何だかもどかしい。今は一日で早く、戦えるようにならないといけないのに、足踏みをしている様で。
もっと手っ取り早くうまくなる方法って、ないのかなぁ・・・
なんて、なんともわがままな考えが私の頭をぐるぐると廻る中、カチューシャが不意に尋ねる。
「というより、フレンダ。」
「ん?」
「アナタ、杖は使わないんですの?」
「杖?」
予想もしなかった言葉に思わず訊かれた言葉をそのまま返すとカチューシャは私の方を見て率直な言葉を言う。
「ええ。杖を使えば今より魔法操作も楽になるでしょう?」
「・・・杖。杖ねー・・・」
そう言い淀んで私は答えを誤魔化す様に私の手から逃れた悪魔の方へ視線を向けた。
けれど、ムカつく事にその悪魔は完全に脱力し切った身体で呑気に大きなあくびをしている。いくらシミュレーターで生成された偽物とは言っても、その舐め切った態度には流石に必死に抵抗した私を侮辱しているとしか思ない。
「何かあるの?」
そんな苛立ちも隠せない私を余所にあかりが怪訝な表情をして尋ねる。私はすぐに表情を戻すと首を振って困った様に歯切れ悪く答える。
「ううん、別に。ただ・・・」
「ただ?」
「その、なんて言うか、ね。ほら、杖ってなんか、カッコ悪くない?」
「・・・そう?」
「ほ、ほら!なんと言うか・・・補助輪みたいと言うか、魔法下手な子が使うイメージがあるって言うか・・・・」
「何ですの?その根拠のない持論は。」
もう半分自棄になっている私の言葉をカチューシャは呆れた表情で一蹴する。
「だってそうでしょ?なんか子供っぽいというか・・・」
それでも、まだ羞恥が勝る私は苦しく反論すると、カチューシャは肩を落として私の曲がった知識を正した。
「別に杖にそんな意味合いはありませんわ。あくまで魔法操作を手助けする為の魔術具であり、それ以外の何物でもありません。実際、使わないよりずっと楽ですわ。」
「カチューシャ、使った事あるの?」
「ええ、幼い時に。」
不思議そうなあかりの声にカチューシャは愛想なく短くそう答えた。その二人を眺めながら私は腕を組む。
「う~~~ん。でもなぁ~~~」
カチューシャの言葉にいよいよ私の感情が揺らぐ。カチューシャの言う通り杖を素直に使えば魔法操作はずっと楽になる。実際、私も小さい頃は使ってたし、専科のシスターの中でも杖を使っている子はちらほらいる。
けど、私はまだ・・・羞恥心というか、感覚的に受け入れがたい。
そんな迷いが私の頭を悶々と巡る中、呆れた表情を私に向けるカチューシャがため息交じりに言う。
「それに、杖を使う魔女なら一番有名な方がいらっしゃるじゃありませんの。」
「えっ。だれ?」
「・・・そういえば。司教が使ってたよね、すっごい大きいの。」
思い出した様にあかりがそう言って私もようやく思い出した。そういえば確かに身長の二倍はありそうな杖を司教は使ってたっけ。あれを、杖と言えるかは怪しいけど・・・
でも、司教が杖を使っているなら幼稚臭いと言うのも違ってくる気がする。
なんて、何気ない二人の説得でどんどんと私は逃げられない方向へ追いつめられていく。そして、更に追い打ちを掛ける様にあかりが分かり切った提案する。
「物は試しで使ってみたら?」
既に逃げ道が見えない私は唸り声を漏らしながら言葉を返す。
「でも、私。杖持ってない。」
「それでしたら技術研究室に行ってみたらいかがかしら?」
「技術研究室?」
私の苦し紛れの逃げの言葉もカチューシャが悉く潰す。聞いた事ない言葉だけど字面からしてどんな場所かは予想が付く。でも、カチューシャは構わず話を続けた。
「ええ。第六区画の端に技術学部の研究室があるんですわ。そこへ行けば杖の一本くらい用意してくれるでしょう。もし必要になれば製作から使用申請もそこでできますわ。」
「詳しいね。」
「キアラの付き添いで一度行ったことがあるんですわ。その時に色々と伺ったんですの。」
「なるほど。」
そこまで話が進んだところで私は全てを諦めた。まあ、あのカチューシャがそこまで言うのだから、きっと今の私にはそれが必要なんでしょう。
それに、まさについさっき手っ取り早く上達する方法が無いか考えてたばかりなんだから、そもそもカチューシャの提案を断る理由も無い。
気恥ずかしさはまだあるけど使う事で今の状況が変わるならそうすべきだ。
「さて、ウダウダと悩んでいても仕方ありませんわ。一先ず行きますわよ。」
その言葉を合図にする様にカチューシャは立ち上がると手早くシートを片付けてクレアを伴って歩き出す。ぬいぐるみを抱えて背の高いクレアと並んで歩くその後ろ姿はどことなく親子の様な、姉妹の様な和やかな雰囲気を感じる。
そうしてしばらく二人の後ろ姿を眺めていると、私達が付いてきてない事を察したカチューシャがこちらへ振り返って眉をひそめる。そのなんとも可愛らしい姿に私達は何を言うでもなく顔を見合わせて仄かに笑った。
とまあ、そんなこんなで第五区画の第三演習場から移動して第六区画の角に位置する例の技術研究室へと私達はやってきた。周囲には技術学部の履修生であろう厳つい顔をしたシスターや武骨な眼鏡をかけたシスター達が部外者の私達を警戒する様に睨みつけてくる。
「ほんとにここで杖貸してくれるの?」
あかりの腕をしっかりと掴み震えを抑えた声で私がそう尋ねると、カチューシャはさっきの自信はどこへやらといった声で「おそらく。」とテキトーな事を漏らす。
そのいい加減なカチューシャの返事に私は細やかな不満と不安を抱きながらつい本音を漏らす。
「なんか、みんなすごく怖いんだけど・・・」
「何か御用かしら~?」
「ぴゅああああああ‼」
急に左耳から女性の声が鮮明に聞こえて私は思わず悲鳴を上げた。咄嗟に掴んでいたあかりの腕を支点にあかりの正面へと回り込んで彼女を盾に身を隠す。
動揺した私の言動にも全く動じないあかりを余所に、私は彼女の陰から声の主を確認すると、そこにいたのは淡い桃色の髪の女性だった。
「あらあら、驚かせちゃったかしら?ごめんね~」
おっとりとした雰囲気の彼女はハーフアップの少し長い癖っ毛をなびかせて困った様にそう言う。
服装はフリルのブラウスに編み上げのハイウエストスカートを着ていて、髪には水色のリボンを巻いている。単に容姿だけを見て言えば、技術学部のシスターと言うよりクラスに一人いるアイドルの様にも見える。
また、周囲のシスター達との容姿の差が見るからに激しいから余計に彼女の場違い感が否めない。
そんな彼女にカチューシャは驚く事も躊躇いも無く話しかける。
「雪。ちょうどよかったですわ。この子の杖を見繕ってくださるかしら。」
「それはいいけれどー・・・・チェリーちゃん、そのタコはな~に?」
シュエと呼ばれた彼女はカチューシャの事を変な呼び方をして彼女の抱きかかえたぬいぐるみの事を尋ねる。すると、途端にカチューシャは居所悪そうに視線をそらして「訊かないでくださる。」とポツリ答えた。
そのもどかしいカチューシャの反応が気になりつつもシュエは肩を竦ませながら傍に立つ私達を見て彼女に関係を尋ねる。
「ふ~ん・・・?ま、いいや。またお友達?」
「ええ。この子の魔法操作がうまくいかなくて。」
シュエの言葉を素直に認めたカチューシャに私は不覚にもドキッとしてしまった。
ほんの一月前までは聞けなかっただろうその言葉にじわじわと嬉しさと気恥ずかしさが湧いてくる。
でも、当のカチューシャは私の動揺なんか気づいてない様子で話を続けている。
「えぇっと、どなた?」
なんて事を私が思っている前でイマイチ状況がつかめないあかりが困惑気味にカチューシャにひっそりと尋ねる。
けど、その声が聞こえたのかシュエが申し訳なさそうに話し始めた。
「あっ。ごめんなさい。自己紹介もしないで。私は技術学部第一課3年の陳 雪児です。気軽に雪って呼んでね~」
「以前来た時にお世話になったんですわ。雪、こちらは私の友人でチームメイト。左から順にフレンダ、あかり、クレアですわ。」
カチューシャが簡単な私達の紹介をして私達がそれぞれ名乗ると雪は小さく手を振りながら「よろしくね~」と優しい笑顔を見せた。
すごく和やかな雪に若干圧倒されながらあかりが会釈をするので私もそれに倣って彼女に会釈をする。そんな私を雪は前屈みになって覗き込んで「可愛い」と一言言ってはにかんだ。
そして、カチューシャに流し目で「チェリーのお友達にしては、とっても。」と不思議そうに付け加える。
雪の悪意のない失礼な発言にすぐさまカチューシャが不機嫌そうに「うるさいですわ。」と反論すると、雪は冗談だよと言いたげな様子で両手を上げてカチューシャに素直に謝罪をする。
「それはそうと、杖だったよね。ちょっと待ってて。」
カチューシャが大きなため息をつく横で雪は誤魔化す様に話を戻してそそくさと研究室の奥へ消えていく。
けれど、その後ろ姿はどこか楽し気でカチューシャはまたため息を吐いた。
雪の姿が見えなくなった後、私はあかりの陰から出てきて不安を隠せない声でカチューシャに尋ねる。
「大丈夫なの?カチューシャ。」
「何がですの?」
「いや、あの・・・なんかイメージと違う人が出てきたから。」
「大丈夫ですわ。・・・たぶん。」
平然と返す言葉の中に不安な言葉が聞こえてきて私は一層不安が高まる。いや、カチューシャが紹介する人だからきっと、きっと大丈夫だよね。
たぶん、大丈夫。
「何ですの?」
私の疑念の眼差しがカチューシャにも伝わったらしく嫌そうに目を細めてそんな事を口にする。その反応に私が誤魔化す様に「別に。」と答えるとカチューシャは一層険しい顔をした。
そんな怖い怖いカチューシャを余所に呑気なあかりが密かに引っ掛かっていた謎を彼女に尋ねる。
「ところでカチューシャ、チェリーって何?」
すると、カチューシャは途端に気恥ずかしい様な難しい表情をして視線を逸らした。忘れてほしかったと言うか気づかないでほしかったと言いたげな声色をして彼女は言葉を返す。
「彼女が勝手に言ってるだけですわ。気にしないで。」
「エカ『チェリー』ナ?」
「あー」
「あー」
クレアがそれらしい答えを言って私とあかりは納得の声を漏らした。安直だけれどカチューシャには似つかわしくない甘い名前に私は思わず笑みが零れる。
その緩んだ私の頬をカチューシャが膨れた顔をして「何か言いたげね、フレンダ?」と不機嫌極まった声と一緒に引っ張る。
「いらいいらい。」
「この口がいけないんですわ。」
そんなこんなで私達が歓談していると何本の杖が差し込まれた木箱を抱えて雪が戻ってくる。
彼女は奥の部屋から持ってきた重そうなそれを乱雑に床へ置くとガサゴソと漁って一本の短い杖を私に差し出した。
「これはどう?」
「・・・えっと・・・」
突然手渡されたそれに困惑していると雪は仄かに笑い肩を竦めて言う。
「ほら、何か魔法使ってみて?」
「ええっと、じゃあ・・・」
その言葉に甘えて私は杖に魔力を流した。簡単な花を生成する魔法、それを使おうとした瞬間、持っていた杖が閃光と共に凄まじい音を立てて爆発した。
「うわぁ‼‼」
突然の爆発に声を上げて驚く私は持っていた杖の残骸を手放した。手から離れた杖はそのまま何の抵抗もなく床へ落ちて部屋に軽い音が響く。
その虚しい音と一緒に何とも言えない気まずい空気が漂い始める。
「わぁお、こりゃ驚いた。増幅魔術の許容量を超えちゃった。」
一連の出来事を目の当たりにした雪は目を丸くして開けた口から言葉を漏らした。
「わわわ‼ごめんなさい‼」
ようやく状況を飲み込めてきた私はすぐに謝罪を口にする。けど、雪は気にしないと言った様子で手を振り私の手に触れて心配そうに言う。
「あ~いいのいいの。それよりケガはなぁい?」
「ない・・・ですけど、その、杖・・・」
「ん?あー、気にしないで?これね、研究用に作った試作品でいっぱいあるの。」
「え、でも・・・」
「それよりさ、こっちはどお?」
私の心配もそっちのけで雪は喜々とした様子でガチャガチャと木箱を漁り両手に杖を携えて私に迫ってくる。そのキラキラと輝いた目に圧倒されながら私は流されるまま渡される杖を順に試していく。
———・・・ええっと。まあ、その大半を壊してしまうんだけど・・・・
その度に私は肝を冷やして謝罪をするけど、雪はまったく気にしていない様子で朗らかに笑い次の杖を渡してくる。ホントに次から、次へと。
その傍らでカチューシャが信じられない物を見る様に引きつった表情をするのを見て、私は知らないわよと言う様に顔を引きつらせた。
そんな事を繰り返している内に私はある一本の杖に心を惹かれる。
「あ、これすごい。」
それは赤みが混じった茶色の木を削りだして作られた三十五センチくらいの杖で柄の部分に赤い布が巻かれている。
その杖に私が魔力を流し込むと今まで感じた事もないくらい明瞭に魔力を感じ取る事ができる。まるで、今までの苦労が嘘だったみたいに———
未知の感覚に私が不思議そうに杖を眺めているとデスクチェアに腰を下ろした雪がうっとりとした表情で話す。
「いいでしょ~、それ。昔ながらの木製の杖。今は戦闘での実用性と耐久性を考慮して魔鉱石を加工した金属製の物が主流なんだけど、魔力伝導率ではやっぱり木製の杖には敵わない。フレンダちゃんには、そっちの方が合ってるかもね。」
「こんな感覚、初めてです・・・今まで、こんな思い通りに魔法使えた事なんてなかったのに。すごい不思議な感覚。」
「当たり前でしょう。それが、杖の本質ですもの。」
呆れた口調でそう言うカチューシャに対して私は口をとがらせながら「そうだけど、改めて使うと凄いなって。」と改めて痛感した事実を口にした。
でも実際、思った以上の効果を私は実感する。今まで靄の様にどこか不明瞭で霧散的だった私の魔力が、杖を通した途端に集束していく感覚がする。それと同時にそれが手足の様に明瞭にエネルギーの流れを感じ、操れる。
幼稚臭い。なんて、嫌厭していたのが阿保らしく思えてしまう程に、今、私はかつてないほど魔力を感じている。
杖がこんなにも偉大な物だったなんて思いもしなかった。幼かったあの頃とは違って、使える魔法も多くなったからかな。見えていた世界が百八十度ひっくり返った様な感じ。
こんなスゴイ物なら杖を使いうのも悪くないのかもしれない。
「杖、使おうかな・・・」
自ずとそんな言葉が私の口から漏れ出た。すると、雪が満面の笑みを浮かべて興奮気味に私に迫る。
「じゃあ、本格的に色々と決めなきゃね。」
そう言って雪は目を輝かせて私の手を両手でしっかりと握り込んだ。私は再び彼女に圧倒されながら苦笑交じりに頷くと、彼女は鼻歌を歌いながら軽快な足取りで奥の部屋へ消えていく。




