49.仲間と泡沫の手掛かり
どうせ、あんたがやったんでしょ。
そうよ、あんたに決まってるわ。
何よその目は。
言っとくけど悪いのはあんたなんだからね!
あんたがあんな事しなければこうはならなかったんだから。
ちょっと!聞いてんの?
ほんと、私達にあんな事してただで済むと思ってんの?
ダメよ。こういうのはちゃんと教えないと覚えないんだから。
それもそっか!
あははははは、あははははは・・・———
「・・・・・・・・」
———眼前に広がる見慣れた寮の自室。狭い本棚と固い椅子、それから真っ白なベッドと低い枕。
今となっては日常となったそれら眺めながら、ベッドに横たわる私は吐き捨てる様にポツリと声を漏らす。
「はぁ・・・ほんと、酷い夢。」
「————という訳で、模擬戦の反省会ですけれど・・・」
重たい口調で徐にそう口にしたカチューシャは自身が引いた椅子に腰を下ろした。武骨で重い古椅子が彼女の身体を支えようとギシリと音を立てる。そんな、些細な音もこの静かな場所では不思議と大きな音に聞こえる。
「全然ダメだったね。」
カチューシャの向かいに座る私がその浮かない表情を眺めながらそう言うと、彼女はたちまち苦虫を噛み潰した様な顔をして私に言葉を返した。
「まったく、はっきり言いますわね。・・・その通りですけれど。」
講義終わりの穏やかな時間、ここは広い広い修道院の図書室の一角。西に傾いた日の光が室内に差し込み、冷房の効いた部屋の温度をジリジリと温めている。
そんな熱の篭った日の光を浴びる高々とそびえ立つ本棚。その前に置かれた長い机に座る私とフレンダは、ついさっき受けた散々なチーム戦演習の反省会をしようと言う事で、急遽うちのチームリーダー様に集められた。
———クレアは、相変わらずいないけれど・・・・
なんだかんだ仲直りはしても、二人の距離感というのは未だ変わっていないらしい。そりゃあ、まあ。そんなすぐに変わる物でもないだろうけど。さっきの演習でも度々口論していたし。
それでも、以前よりは二人のあたりは柔らかくなっているから、多少なりとも関係の改善は出来ている様だ。
一方で私のパートナーはというと、いつも通り私の隣に座っているんだが、こういった改まった雰囲気は苦手なのか机に身体を預けて上の空で虚空を眺めている。
そんなだらしない彼女の姿を見てか頬杖を突いたカチューシャが不服そうに声を上げた。
「大体、前衛を張る盾役がいないのが問題なんですわ。回復魔法が使えるフレンダはいいとしても、他三人まで前に立つタイプではないのはチームとしてあまりに致命的ですわ。」
確かに、明確な前衛がいないのは致命的と言える。悪魔に攻撃を与えるにしろ、逆に攻撃を防ぐにしろ、前衛の動きが重要だ。特に盾役の存在は戦闘の安定性に大きな影響を与える。
それは他のチームを見ていても明白。それがいないとなれば、動きに必ず迷いが出る。
迷いは、戦闘において死と同義だ。それがほんの些細な躊躇いであったとしても、悲惨な結末を招く事になる。カチューシャが危惧するのも当然のだろう。
吐き捨てる様なカチューシャのそんな言葉に私は固い背もたれに身体を埋めて言う。
「そうね・・・それもあるけど、その三人ともがそれなりに戦えるから余計にお互いの足を引っ張ってる感じ。それぞれが個々として戦ってるからチームとしてのバランスが崩れてる。」
私が何気なくそう言うと傍でカチューシャが眉をひそめて呆れた表情をする。そして、その何とも言えない呆れ顔のままカチューシャは私に言葉を返す。
「・・・あのねぇ。あかり?まるで他人事の様に言いますけれど、アナタのそれ、アナタも含まれていませんこと?というか、自分で言ってて恥ずかしくありませんの⁇」
「あと————」
「聞きなさいよ。」
「あからさまにカチューシャがクレアのタコに気を取られてる。」
「——っ・・・煩いですわ。」
カチューシャの突っ込みに構わず続けた私の指摘に対して彼女はポツリとそう口にしてまた苦い表情をする。その顔はまるで子供の様で、私から視線を逸らして不機嫌に口を歪ませている。いつもの生真面目な面影はそこには無い。
そんなカチューシャの情けない表情に机に突っ伏したフレンダが笑みを零して楽し気に言う。
「ほんと終始凄い顔してたよ・・・」
すると、すぐにカチューシャは鋭い目つきをフレンダに向けて反論する。
「それを言ったらフレンダだって何ですの?あの拙い魔法制御は。悪魔を拘束するどころかクレアを縛り付けていたではありませんの。」
「あれは・・・まだその、練習中だから・・・」
痛いところを突かれフレンダは思わず言葉を詰まらせた。苦い表情を浮かべて腕に顔を埋めて口を尖らせる。
そんな彼女にカチューシャは一切の躊躇なく更に追い打ちをかけて言葉を重ねた。
「そんな言い訳は通用しませんわ。下手にも程がある。演習じゃなかったら確実に死んでいましたわよ。」
「うう・・・ごめんなさい。」
カチューシャから厳しい言葉を浴びせられしょんぼりとしたフレンダは肩を窄めて縮こまる。まるで鷹に睨まれた兎の様に縮こまったフレンダと、それを睨む鷹のカチューシャの姿に思わず私は乾いた笑いを漏らした。
そんな和やかな二人を眺めつつ私は話を本題へと戻す。
「とにかく。自分達の事を棚に上げる様だけど、前衛云々の問題より、先ずはカチューシャのタコ克服が最優先だね。せめて戦闘に集中できるくらいには慣れて貰わないと役割も連携もないよ。」
「・・・・・その通りですけれど・・・・全くもってその通り、ですけど・・・・」
覚束ない口ぶりでそう漏らすカチューシャは苦しい表情をして視線を落とす。彼女自身、現状をかなり重く捉えているらしく表情がどんどん暗くなっていく。
「そういえばカチューシャ、クレアは?」
そんな表情が沈み込むカチューシャを余所にフレンダが思い出した様にクレアの事を尋ねた。すると、カチューシャは暗い表情のまま彼女の言葉に答える。
「誘いましたけれど、「エカチェリーナのタコ嫌いが悪い」と一言言ってどこかへ行きましたわ。」
「ふふふっ、クレアにも言われてる。」
「随分と言う様になりましたわね、フレンダ。ここで叩き止めしても良いんですのよ?」
そう言ってカチューシャは不気味な笑みを浮かべながら掌に天使の円環を生成した。
光を集め始める円環、突然のカチューシャの戦闘態勢に焦ったフレンダは、慌てて上体を起こし両手を前に出して「わあああ‼ごめんごめんごめん!」とカチューシャを制止する。だが、それでは止まらなさそうなくらいカチューシャはフレンダを威圧している。
しかし、そんな表情もすぐに曇り、暗い表情が返ってくる。
「・・・・・分かっていますわ。現状、私が一番の問題なのは。ただもう少し、時間をくださる?次までには何とかしますわ。」
魔法を解いたカチューシャは重い口調でそう零す。その何とも言えない辛そうな姿に揶揄っていたフレンダも優しい声で彼女に言葉を掛けた。
「ぜんぜん。焦る事ないよ、無理させてるのは私達も十分分かってるし。校外での実戦訓練だってしばらく先だって話でしょ。ゆっくりやろ?」
「そういう訳にはいきませんわ。校外実戦の前に連携を含め戦闘訓練を積んでおかなければ予期せぬ事態に対応できませんわ。」
「それは、そうだけど・・・」
優しさにも甘えず責任感の強いカチューシャにフレンダは思わず言葉を忘れて言い淀んでしまう。その横顔には心配と不安。そして、責任を押し付けている様な罪悪感を抱いている。
「人の心配も良いけど、フレンダも魔法の練習しようね。」
フレンダの気を紛らわす様に私がそう言うと、彼女は途端に顔を歪ませて申し訳なさそうに言葉を返す。
「うっ・・・ごめんなさい。」
「とはいえ。急ぐのと焦るのとでは意味が違うわ、カチューシャ。早くどうにかしなきゃいけないのは分かるけど、焦って事を急げば必ず予期せぬ事が起こるものよ。フレンダの言う通り、焦らず行こう。私達もできる限りの協力はするわ。」
フレンダの事も気にしつつカチューシャにそう言葉を掛けると彼女は気負う様に肩を落として小さく「助かりますわ。」と零した。変わらず追い込まれた様な暗い表情をしたまま彼女は視線を落とす。
でも、正直カチューシャの焦りも分かる。現状、私達以外のチームの状況からして私達はかなり遅れている。連携が取れていないから当然成績は芳しくなく、危険な場面も見られる為に実戦訓練は当分見送るべきとリン先生から判断されている。
同様に訓練を受けてきたクラスメイトが無難に課題をクリアしている姿を見れば嫌でも焦りを覚えるだろう。
「あかり~。私も、魔法の練習付き合って~」
「別にいいけど、そういうのはカチューシャに頼んだ方がいいと思うよ?」
「そんなぁ~・・・・」
「フレンダ、私では不服ですの?」
とはいえ、焦っても良い事なんかない事も事実だ。実際、生理的に無理なものを克服するなんて突飛な事、そう簡単にできるものでもない。というより、下手をしたら無謀とも言える。
だって、それが出来ない者なんてそれこそ、この世にはたくさんいるだろう。
そんな大それた事をやろうとするカチューシャの意気込みには感服するけど、それを急がせるのはなんか違うと思う。
「あっ、いた!あかりぃ~~~」
そんな事を考えていると唐突に私を呼ぶエレナの声が室内に響く。見れば教材を抱きかかえたエレナがヘレンを引きつれて私の元へ駆け寄ってくる。
そして、抱えた教材を私の前に広げると一点を指差して情けない声で言う。
「ここわかんないの。教えてぇ~」
「エレナ、図書室では静かにだよ。」
フレンダにそう注意を受けてふと我に返ったのかエレナは申し訳なさそうにキョロキョロと周囲を確認する。そして、これまた気付いてなかったのかカチューシャの存在を認知すると途端に嫌な顔をして声を漏らす。
「ゲッ、カチューシャ・・・」
「ゲッ、とはなんですの?何かご不満?」
エレナのあんまりな反応に流石のカチューシャも顔を歪めて不機嫌な声でそう返した。その怖い怖い顔に対してエレナはやさぐれた様に「べっつにぃー」とそっぽを向いて言葉を返す。この二人の仲も相変わらずの様だ。
でも、二人からは嫌悪している雰囲気は感じない。関係としてはかなり良好らしい。二人としては全力で否定しそうではあるが。
「ほら、どこ教えてほしいの?」
そんな和気藹々とした二人の様子に笑みを零しつつ私が話を戻してエレナにそう尋ねるとエレナは一言謝罪を口にして本題を話し始めた。
「そういえばこれ見た?」
反省会がいつの間にか勉強会になった頃、不意にエレナがそう言ってスマホの画面を私達に見せてきた。そこに映し出されていたのは、前に私が関わった通り魔事件に関するニュース記事。
なのだが、そこに書かれていた内容に私は思わず目を見開く。
「通り魔事件の被告人、独房内で悪魔化してたみたいでその場で討伐されてたって。まあ、魔導兵器使ってたって話だし、こうなるのも当然かもだけど。」
———そっか、彼が・・・
エレナが記事の内容を読み上げた途端に在りし日の記憶が鮮明に蘇る。私に銃口を突き付ける彼の姿と憤りに歪んだ表情、打ち付けられるバッドから伝わる憎悪の念には吐き気すら覚えた。
彼は・・・どうしようもない偽善者だった。理屈も、根拠もめちゃくちゃな本当に馬鹿な人だった。けれど、こうして亡くなったという話を聞くと何とも言えない気持ちが湧き上がってくる。
「なんですの?それ。」
などと、一人思い耽っていると横でカチューシャが手にしたペンを頭に当てながら怪訝な表情をして声を漏らした。その反応にフレンダが思い出した様に「え?あそっか、カチューシャは知らないのか。」と言い、事情を知らないカチューシャに丁寧に説明した。
すると、それを聞くなりカチューシャは呆れた様な、馬鹿なのと言う様な複雑な表情をして私を見る。
いや、そんな顔されても・・・
そんなカチューシャの反応を余所にエレナが話を続ける。
「で、本題はここからなんだけど、この悪魔化事件を受けて反魔女派が更に過激になっているんだって。なんでも修道院の魔女が彼を悪魔にしたんだー!って、噂が立ってるみたいでデモも起こってるみたい。」
デモ、か・・・実に馬鹿な事だけれど、無理もないのかもしれない。
なにせ、あの事件に魔導兵器が絡んでいた事はメディアには伏せられた。それは未登録の魔導兵器による犯罪という事の重大性と、それに伴う民衆の混乱を避ける為だ。
でも、そんな事、反魔女派からすれば知った事ではない。むしろ明かされている事実だけを列挙すれば彼らの反感を買うのは当然と言えるだろう。
とはいえ、そんな根も葉もない噂を信じて修道院の魔女達を非難するのは反魔女派の気が知れないところではあるが。
「ほんとうに下らない記事ですわね。ただの噂話をまるで事実であるかの様に書き立てて民衆の不安を煽ってる。明らかに意図的な印象操作ですわ。記者の性根が伺えるようですわね。」
辟易したような顔でそう漏らすカチューシャに私は苦笑を浮かべながら「否定はしないけど、言い方よ・・・」と言葉を返した。
しかし、カチューシャの意見も尤もだ。こんな書き方をされれば誰だって誤解する。これじゃ、過度な印象操作だと言われても無理もないだろう。不安を煽り、デモを誘発する危険な記事だと。
いや、むしろそれが狙いか。
反魔女派支持者の共感を煽り、それをあたかも真実であるかの様に書き立てて民衆の関心を『魔女の陰謀論』へと向けようと言う事なのだろう。カチューシャの言う通り、実に下らないし、気分が悪くなる。
そんな気色の悪い記事に気分を害す中、私はふとエレナのスマホに映る別の記事に目が留まる。
そして、同時に息が止まる感覚が私を襲う。
「これは?」
胸が閉まるような動悸を抑えながら私は恐る恐るエレナにそう尋ねた。
それは、さっきの物と同じ様なニュースの記事———だが、その見出しが『一本角の悪魔、再び現る』となっている。
エレナ達からすれば、気に留める事もない大した事のない物だろう。
だが、それを目にした私は、たかだか十数文字に汗が身体中からにじみ出る。
脳裏にちらつくかつての記憶。親の仇たるあの悪魔と同じ特徴をもつそれに、私は知りたいという欲求と、煮えくり返る様な憎悪が湧き上がってくる。
———もしかして、あの時の・・・・———
そんな、私の内情なんて知る由もないエレナは、他愛もなく軽い口調で問題の記事を開いて内容を話し始めた。
「ん?あーこれ?なんか最近、各地で目撃情報が上がってるっていう悪魔だよ。額に真っ直ぐな角を生やした人型の悪魔でね。なんでも、決して人を襲わず、突然現れては魔物だけを喰い殺すっていう変な悪魔。」
「人型・・・魔物、だけを?」
「うん。主に狙われているのは狼とか熊とかの肉食の魔物だって話だけど———」
「それって———」
「それ、ただの作り話ですわよ。」
前のめりになって尋ねる私に釘を刺す様にカチューシャが私達の会話を割ってそう口にする。その言葉を聞いた途端に私の急激に高ぶった感情が一気に冷めていくのを感じた。無意味な期待を抱いた自分に嫌気すら湧いてくる。
「どゆこと?」
反省会も勉強もすっかり忘れて暇そうにノートに絵を描いていたフレンダが呑気にそう尋ねる。すると、カチューシャはあからさまなため息をついて呆れた様に続けた。
「少し考えればわかるでしょう?どうして悪魔が人間を殺さず魔物だけを殺すんですの?彼らにとっては・・・・言ってしまえば、どちらも食料でしかありませんのよ。それにその目撃情報って言うのも信憑性に欠けますわ。その悪魔は、圏外でしか確認されていないのでしょう?なら一般人が目撃する訳はありませんし、教団関係者が外部に情報を漏らす訳もありません。話題欲しさにでっち上げたガセに決まっていますわ。」
「そうなんだー」
「そうなんだー、って納得しないでよ。にしてもそこまで言うかね。まったく、カチューシャは夢が無いなぁ・・・」
素直に納得するフレンダとは相対してエレナは理想的な考えからか現実的なカチューシャを憐れむ。が、その反応に当のカチューシャは気にしないと言った素振りで肩を落として言葉を返す。
「夢も何も事実そうですわ。これが本当の事だと信じてる人など居ませんわ。」
それでも変わらないカチューシャの態度にエレナは小さく肩を竦ませた。そんな二人を見てフレンダが可笑しそうに笑う。
そんな彼女達を眺めながら私は視線を落とした。
やっぱり、気になる。・・・・今まで幾度となくこういった情報は聞いてきた。でもどれも私が思うものではなく、そもそも人型ですらないものばかりだった。
———でも、今回は違う。
額に真っ直ぐな一本角、人型。例え作り話だとしても、これほど特徴が一致するものに今まであった事は無い。むしろ。これほど一致していること自体、奇跡とすら思える。
もしかしたら、と期待せずにはいられない。
私は、二人の様子も余所に曇り燻る感情のままに改めてエレナに尋ねた。
「その悪魔って、どんな姿してる?」
「あかり?」
「えぇっと確か・・・」
「あかり、今の話聞いていました?作り話ですのよ、訊いてどうするんですの?」
一本角の悪魔について言及した私に理解できないと言った様子でカチューシャがそう尋ねる。でも、私はカチューシャの言葉を無視してエレナに尋ね返す。
「いいから。聞かせて。」
「・・・えっと、名前の通り一本角が特徴の悪魔でね。さっき言った特徴の他に背中に一対の蝙蝠の羽根、ドラゴンの様な尻尾、それと黒い服を着てたって話だよ。ほんとかどうかは、知らないけど・・・」
その後、エレナは記事に添付されたイメージ画像を私に見せてくれた。
人型、蝙蝠の羽根、黒い服。そして、一本角・・・あの悪魔と特徴が何もかも一致する。
再び、湧き上がる怒りと憎しみ。それと、ささやかな恐怖。
私の復讐。親の仇。あの日からずっと、ずっと探し求めた悪魔・・・その、僅かな手掛かり。もう、作り話だとかどうでもいい。探し続けた私にとっては信じたいと思わずにはいられなかった。
早く調べなければ、この情報の出所を。その信憑性を。そして、それが事実なら———
「何か気になる事でもあるの?」
現実から離れていた私の意識がフレンダの声で現実に引き戻された。私の知らない内に余程深刻な顔をしていたのか、フレンダが怪訝な表情で私の顔を覗き込んでいる。
「いいえ。別に。」
そう返すのが、やっとだった。
きっと私は動揺を隠せてないのだろう。ずっと探し求めていた手掛かりに、胸が高鳴り、心情が掻き乱される。この感覚を。
それでも、この燻り曇る感情を、心を、必死に押し殺して平常を装う。取り乱しては駄目だ。冷静に物事を判断し、見極めなければ。
ようやく。ようやく見つけた、手掛かりなんだから・・・・
「それはそれとして、ここもなんだけどさ・・・・あかり?」
「え?ああ、ごめん。どこ?」
「ここなんだけど————」
エレナの声に再び現実に引き戻された私は勉強会を再開する。これが終わったらその悪魔について調べる。そんな逸る気持ちを抑え込みながら———




