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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
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48.2.あの後・・・

 和気藹々と講義終わりのシスターで賑わう放課後の第四区画。所狭しと並んだ飲食店が並ぶ道を(フレンダ)は足早に歩く。


 というのも、受ける授業の違いからお昼休みに別れたあかりと合流しようと彼女に連絡を入れたら、カチューシャと一緒にHexeにいるというので、私は波の様なシスター達をかき分けてお店に向かっているのだ。


 そして、やっとの思いでHexeへたどり着くと突然屋外席の方からカチューシャの声が響いてくる。


「———うひゃい!やっぱり無理ですわ!」


 モラルもマナーもあったものじゃないその騒がしい声の方を覗くと声の主のカチューシャと私が探していたあかり、更にその奥に珍しくクレアが一つのテーブルを囲む様に椅子に座っていた。


「ほらほらそんな調子じゃ一向に進まないよ?」


「いちいち大袈裟。」


「大袈裟って何ですの⁈これが順当な反応ですわ‼」


 あかりとクレアの言葉にいつもなら冷静なカチューシャが人目を気にせず声を上げる。その姿はまるで無垢な乙女の様で、いつもの雰囲気と余りにもかけ離れていて頭がおかしくなりそうだった。


 思わぬ光景にポカンと放心状態になりかけていた私は首を大きく振って無理やり意識を戻すと、駆け寄ってきた店員に断りを入れて徐に三人の元へ歩み寄る。


 よく見れば、三人が囲む机の上には一匹のタコが鎮座していてカチューシャが二人に文句を言いながらそのタコに手を伸ばしている。


 ・・・・罰ゲームでもしてるのかな?


「ひゃい!今、今確実に触りましたわよね⁈というか触りましたわ‼」


「いや、触れてないよ?」


「掠ってもない。」


「アナタ達の眼は節穴ですの?!!」


「・・・・何してるの?」


 動揺しながらも三人の元にたどり着いた私が困惑気味に三人にそう尋ねると平然とした様子であかりがこちらを見て簡潔に答えてくれる。


「ん?ああ、フレンダ。いやね、カチューシャの苦手克服の特訓。」


 そう言うあかりの声の裏でもカチューシャとクレアが何やら言い争っている。その何とも微笑ましい光景も一瞬でかき消すほどのカオスな状況に、置いてけぼりを食らう私はどうにかあかりに言葉を返す。


「苦手克服って・・・カチューシャ、タコ苦手なの?」


「というより軟体動物全般が苦手なんだって。だからカタツムリもダメだって。でも、これからクレアのパートナーを務める以上、それじゃあこれからの行動に支障が出るからって、強引にでも今それを克服してるの。」


「へ、へえー。」


 意外な形でカチューシャの苦手なものを聞いしまって私は思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。そして、そのこの上なく単純で強引な克服の方法にも。


 止めどなく押し寄せる情報に呆然とする私は一先ず空いた席に静かに腰を下ろした。すると、急に疲弊した様子のカチューシャが立ち上がり退屈そうなクレアに向かって声を荒立てる。


「随分と偉そうな事おっしゃりますけど、そう言うアナタは当然触れるんですのよね‼」


 まだ強気なカチューシャの挑発に肩を落とすクレアは何の躊躇もなく机の上に乗ったタコを抱きかかえる。そして当然の様に言う。


「当たり前でしょ。」


 クレアの何気ない言葉がカチューシャに突き刺さる。


「く————っ!」


「馬鹿なの?」


「まあ、自分の使い魔みたいものだもんね。」


 呆れた声のあかりと私にカチューシャは目に見えて気を落として崩れる様に椅子に座り込む。余程悔しかったのか机の縁に額を付けて落ち込んでいる。


 そんな暗いカチューシャを無視してマイペースなあかりが思い出した様に私に尋ねた。


「そういえば、フレンダは平気そうに見えるけどタコは大丈夫なの?」


「そうですわ!フレンダもこちら側ですわよね?」


 助け船の様に出てきたあかりの言葉に縋る様にカチューシャも私に尋ねた。熱烈な二人の視線を受け思わずたじろぐ私は、気を紛らわせる様に視線を泳がせながら二人の言葉に答える。


「え?いやぁ・・・得意かと言われるとそうでもないけど、触れなくはないよ?たぶん。」


「裏切者・・・」


「なんでよ。」


 低いカチューシャの声に理不尽な寒気を感じながら私はそう反論する。ほんと、よっぽどタコが苦手なんだろうね。本当に見た事ないくらい顔がタコの嫌悪で歪んでいる。


 そんな超不機嫌なカチューシャを横目に傍らで余裕そうに苦笑を浮かべるあかりを見て私は不意に彼女に尋ねた。


「———って、そういうあかりも平気そうだね。なんで?」


 何気なく私がそう尋ねる傍でもあかりはいつもと変わらない穏やかな表情をしている。クレアと同じでタコを見ても嫌悪感を抱いている様子はない。


 ———今にも、タコに風穴を開けそうなカチューシャとは大違いだ。


 それはそれとして、私に尋ねられて怪訝そうに首を傾げたあかりは平然とした表情でさらっととんでもない事を口にする。


「え?だって、日本だとタコ食べるから。」


「え・・・」

「え・・・」

「え・・・」


「え?」


 あかりの衝撃的な言葉に引きつった声を漏らす三人に反して意味が解らないと言った様にあかりは言葉を漏らす。


 しばらくの静寂。ある意味凍り付いた空気感が漂う。


「正気ですの!!!!????」


 カチューシャの当然の言葉が空気を切り裂いて響く。たぶん、偶然近くにいたシスター達も彼女の発言には酷く動揺したと思う。


 そして当然、私もクレアも息を合わせた様にカチューシャの意見に同意する。


「あかり・・・それは流石に・・・・」


「食べないでよ?」


 私の言葉の傍でクレアがそう言って腕に抱いたタコを守る様に抱き締めた。その反応に心外だと言わんばかりに今度はあかりが声を上げる。


「流石に食べないよ?!!」


 そんな言葉も空しくクレアに不審な視線を向けられあかりは一層不服そうな声を上げた。


 結局、この後もカチューシャは一度もタコに触れられず、ただただあかりへの誤解が増えただけだった。


「食べないってば・・・」


 なんか、クレアとの距離が縮まったのか遠ざかったのかよく分からないけど、一先ずカチューシャはクレアと仲直りできたみたいでよかった。


 私もいつか、クレアとあんな風に仲良くできたらいいな・・・


 なんて、騒がしくも和やかにケンカする二人を見て私は密かにそう思った。


 ———ちなみに練習台にされていたタコはクレアの使い魔で「パウル」という名前が付いていた。

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