47.青色の蓮、秘密の香り
心が洗われる様な穏やかな森の中、綺麗な鳥の声達が木霊する様に木々の隙間を通り抜ける。風に揺られ音を立てる深緑の葉も灼熱の日の光を遮り、柔らかな温かさを私達に伝えている。
何も変わらない、至って普通の圏外の森林公園。
・・・・ある二か所を除けば———
「人払いの領域は張りましたわ。一体どういう事なのか説明してくださる?」
私がそう言って振り返るとそこにいるのは違和感の原因であるクレアと、さも当然の様に彼女に寄り添う人喰いのマンティコア。そして・・・
「クレア様・・・」
クレアの膝に横たわり身体をべったりと密着させるスーの姿。それは、つい先ほどまで彼女を軽蔑していたとは思えないほど彼女の事を心酔した様子で、恐怖さえ覚えそうな敬愛の眼差しを彼女に向けている。
本当にもう、まるで人が変わってしまったかの様に———
「この子は・・・魔眼の、呪いに掛かったの。」
スーの豹変に対してクレアは伏し目がちに私の言葉にようやくそう答える。スーの豹変後、すぐに眼帯を付けて魔眼を隠した彼女はそれからずっと暗い表情で視線を落としたままこちらと目を合わせようとしない。
そのもどかしい反応に私は僅かな苛立ちを抱えつつ彼女の言葉をそのまま尋ね返す。
「呪い?」
「・・・魔眼、ブルー・ロータス。この青い蓮から出る花粉はありとあらゆる生物も服従させる。理性も、本心も塗り換えてただひたすらに私を求める従僕にしたてあげる。それが私の、魔眼の力。」
絞り出すような声でクレアは苦しそうにそう答えた。
スーの様子から大方予想はしていましたけれど、やはり絶対服従の魔法。洗脳魔法よりもより高位の精神操作魔法・・・・噂程度には聞いた事はありましたけれど、まさか、そんなおぞましい魔法を使える者がこんな近くにいようとは、夢にも思いませんでしたわ。
「では、マンティコアも?」
動揺で揺らぐ心を隠しながら私がそう言うとクレアは静かにうなずく。だから、このマンティコアは彼女の命令に従い、捕食対象足る私達を前にしても襲わないでいるんですのね。
とはいえ、人喰いの怪物が今正しく手の届く距離にいる、この異質な光景に私は思わず顔が歪む。先ほども私達を襲おうとしましたし、クレアに叱責され不貞腐れた様に大人していますけれど、またいつ襲い掛かってくるのかとヒヤヒヤしますわ。
「まあ、いいですわ。早くその呪いを解きなさいな。」
マンティコアの強烈な威圧を当てられ気が滅入る中、疲弊した声で私がスーの解呪をクレアに命じると彼女は唇を噛み言いづらそうに口にする。
「・・・出来ない。」
「・・・・・・はあ⁇」
クレアから返ってきた予想外の言葉に私は溜まらず声を上げた。正直言って、自分の耳を疑う。聞き違いなのでは?と。
でも、一方で彼女は何も答えない。ただただ言い訳を探す子供の様に俯いて目を合わせようとしないでいる。
「出来ないって、そんな訳ないでしょう?早く解きなさいな。」
「出来ないの。」
「ですから——」
「だから、出来ないって言ってんでしょ!」
私が必要にクレアを問い詰めると彼女は突然声を荒立ててそう反論した。彼女らしからぬ強く真剣なその声に私は驚く。そして同時に、それが変わらぬ事実である事を実感する。
「本当に、できないんですの?」
未だに彼女の言葉を呑み込めない私が虚ろにそう尋ねるとクレアは変わらず荒立った声で答える。
「だからそう言ってる。この呪いに解き方なんかない。だって、この呪いが解けた事なんて一度だってないんだから!」
「———っ!アナタ何故それを早く言わないんですの⁉」
「だから止めた!来るなって。」
「止めただけですわ!その理由が明確であれば私だって彼女を———」
そう言いかけて私は声を詰まらせた。
本当に?本当に私は彼女を止められたんですの?今、こうして豹変したスーの姿を目の当たりにしているからこそ彼女の言葉を受け入れていられている。けれど、それを知らないあの時、疑心を抱いたクレアの言葉を受け入れ、殺気立ったスーを私は止められましたの・・・?
「———っ・・・」
「・・・・・・」
「・・・はあ。それで、どうするんですの?彼女。」
頭を抱え疲弊した声を吐いた私は、自分の甘さにもクレアの言葉の少なさにも辟易しつつクレアに事の解決策を尋ねる。すると、彼女は私の事を一瞥したかと思えばまた衝撃的な事を徐に答えた。
「私が、定期的に花粉を与え続ける。」
「はぁ⁉そんな事をすれば余計酷くなるのではありませんの⁉」
最早意味の解らない発言に私が憤った声で問い質すが彼女は変わらず同じ主張をする。
「でも、そうするしかない。」
「何故⁉」
木の葉が漣の様に不気味に鳴く森の中を私の声が響く。いつの間にか鳥達の声は消え、心成しか冷たい空気が流れ始める。
けれど、そんな気味の悪い森の雰囲気をかき消す様に、今まで大人しかったマンティコアが私に鋭い目を向けた。その強い視線に当てられ僅かにたじろぐ私を余所にクレアは顔を歪めたまま苦しそうに語る。
「私の花粉を嗅いだ奴はその芳醇な香りに魅了されて私に服従すんの。だから、その香りを失えば私の花を求めて暴れ出す。理性を忘れ、自分を傷付けてでも、ただひたすらに私を求め続ける。」
それを聞いて私は思わず言葉を忘れ愕然とした。だって、だってそんなの———
「・・・・・なんですの。それ・・・・それではまるでドラッグ——」
「むしろ、それよりも酷い。違法薬物ならまだ断ち切れる余地がある。でも、私の花にはそれがない。言葉通り、命が尽きるまで花粉を求め続ける。」
正しく〝呪い〟というべき魔法。この先ずっとスーを苦しめ続ける呪縛。こんなものを彼女は密かに隠しいていたなんて———
「では、どうするんですの⁈解呪方法が無いのでしたら彼女は一生アナタに魅了されたままでいろと言うのですの?」
理不尽な現状の責任を押し付ける様に感情のままに私は声を荒立てる。けれど、何も言い返そうとしないクレアに私は更に気が立って言葉を連ねる。
「何とか言ったらどうですの!」
「私だってどうにかできるならそうしてる‼でも、どうにもなんないのよ!どうにもなんないから、こんな事にならない様に今まで人を避けてきたの‼」
私の言葉に感情を露わにしたクレアは膝にすり寄るスーを押しのけ立ち上がった。その目に零れそうなほど涙を溜めて彼女は顔を歪ませている。
「知ったような口で私に説教しないで!」
「——っ、クレア様!」
「来ないで!」
そんなスーの呼び声も空しくクレアは荒立った声を上げて走り去っていく。静かな森の中に消えていくその小さく悲し気な後ろ姿が何故か妙に私の目を引き付けて離さなかった。
「はあ・・・」
ここ最近、ため息が絶えない。その理由は言わずもがな彼女の所為でしょうけれど、こうも気持ちが沈み込むのはあの時あんな事を口にしてしまったから、ですわね。
クレアとあんな事があってから日も場所も変わり修道院屋外、太陽が真上に昇った正午を四十分ほど過ぎた頃、日傘を差し修道院内壁上部通路の欄干に肘を突いた私は眼下に朧気に広がる虚空を眺める。
『ブルー・ロータス』——魔物も人間も関係なく相手を服従させる精神操作魔眼。加えて、その実態は制御も解呪もできない危険な状態の魔法・・・
だから彼女は、これまで頑なに人との係わりを避けてきた。間違ってもその毒牙が私達に降りかからない様に。
今更ながら、私はとんでもない人とパートナーを組みましたのね。その気になれば私はおろか、世界すら支配してしまう魔眼の魔女。こんな面倒な人、いつもの私ならすぐに切り捨てていたでしょうに・・・・
「・・・・・」
なのに、どうしてかしら。あの時の苦しそうな彼女の顔が脳裏に張り付いて離れない。関わるべきではないって頭では分かっていますのに、いつの間にか彼女の事ばかりを考えている。
どうしてあの時あんな事を言ってしまったのか、ですとか。どうしてあの時彼女を責め立てる様な言い方をしてしまったのか、ですとか。何故あの時、彼女を追いかけなかったのか・・・とか。
「・・・・・」
そう、思ってしまうのはきっと・・・・・彼女が————
「・・・・・・はぁ。」
「貴女がため息なんて珍しいわね。」
急に背後から声がして私は驚いて振り返った。すると、そこにいたのは鞄を携えたあかりの姿。相も変わらず悩みが無さそうな呑気な表情をする彼女に私は眉をひそめて顔を歪める。
「何ですの?」
「いや、別に。たまたま通りかかっただけよ。武装系の授業は第十四演習場だもの。」
「・・・・・」
確かに、十四演習場ならここを降りてすぐでしたわね。それより、そういえば午後の授業がもうすぐ始まりますわね。クレアの事ばかり考えてしまって危うく忘れるところでしたわ。全く、この私をここまで悩ませる彼女には賞賛すら送りたい気分ですわね・・・
などと、一人下らない事を思っているとまるで心を覗いたかの様にあかりが私の心の声を言い当てる。
「悩んでるのは、クレアの事?」
「・・・よくわかりましたわね。」
余りに的を射た言葉に私が引きつった声でそう返すとあかりは苦笑を浮かべて言う。
「だって、貴女にため息を吐かせるのなんて私とクレアくらいでしょう?それにこの間、そんな様な事話してたし。」
「それも、そうでしたわね。」
納得のいく当然の答えに何も言えなくなった私は素直にそう漏らすと再び通路の欄干に肘を突いた。眼下に望む広い演習場、そこに人が集まってくる様を私は朧気に眺めながらゆっくりと息を吐く。
そんな思い詰めた私を心配そうに見つめるあかりは静かに欄干にもたれ掛かり徐に私に尋ねた。
「そんなに嫌ならパートナー組み替えてもらえば?事務所に再編申請出せば組み替えられるでしょう?」
できれば、そうしたいところですわ。ですけれど———
「それでは問題の解決にはなりませんわ。私が悩んでいるのは、そういう事ではありませんもの。」
「そうなの?」
「ええ。」
「・・・そう。」
「何ですの?」
「いや、別に。」
幾分も含みのある反応に私はあかりを睨みつけた。けれど、その意味ありげな言葉を最後にあかりは急に口を閉ざした。まるで、私の言葉を待っているかの様に何も言わない。ただただ、欄干に身を預けて生暖かな風に髪を揺らしている。
そんな物静かなあかりの姿に、私はある事を思い出した。
「・・・・そう言えば、あなた魔力を感じ取れないとおっしゃっていましたわね。なら、どうやって魔法を使える様になったんですの?感じられなければそもそも魔法なんで使えないでしょう?」
以前、海水浴で聞いた衝撃の彼女の真実。それを基に私がそう尋ねるとあかりはこちらを見て首を傾げた。
「ん?そりゃあ、手あたり次第の試行錯誤よ。」
彼女から返ってきた言葉に私は言葉を失う。いいえ、ある程度予想できたとは言えこうもキッパリハッキリと答えられると———
そんな困惑を抱える私にあかりが若干呆れた表情を見せながら言葉を続ける。
「別に、感知できなくても魔力を送れば何かしらの魔法は出るでしょう?いうなら、耳は聞こえなくても声は出せる。みたいな?実際それと同じかどうかは分からないけど。」
「ですけれど、その魔力を流す感覚が一番重要ですわ。」
「そう。だから、その感覚を掴むまでが一番大変なんだよね・・・」
答えになっていない発言に私は苛立ちを見せつける様に眉をひそめた。けれど、そんな私を余所に苦笑いをしたあかりは徐に空を仰ぎ空に向かって手を伸ばした。
「魔力を流すという感覚を手探りで探して、それからどういう魔法が使えるのか、それがどういう効果なのか。それを一つ一つ地道に確認して、私は魔法というものを習得した。——要は、そんな感じ。・・・まあ尤も、その制御さえも私は演算魔術に投げてるんだけどね。」
そう言って彼女は笑った。———簡単に言いますのね。それは他ならないあなたが並々ならぬ苦行の果てに得た、無二の業でしょうに。
あかりの静かな表情に肩を落とした私は一番訊きたかった事を率直に彼女に尋ねた。
「・・・では、もし制御できない力があったとして、それを制御する為の試行錯誤もできないとしたら、あなたはどうしますの?」
あかりがキョトンとした顔で私の顔を見つめる。余程予想外の質問だったのか彼女は困惑した様子で瞬きをしながら硬直している。
そりゃあ、驚きますわよね。私からこんな事を訊かれれば。———でも、訊きたい。あなたの口から。あなたならどうしますの?そんな雁字搦めの状況に置かれたら、あなたは、どうそれと向き合うんですの?
そんな私の期待も知らず硬直している彼女はしばらくして我に返り、唇に手を当て熟考した末に絞り出す様に答えを返す。
「・・・・『塞ぐ』、でしょうね。」
「ふさぐ?」
「その力が制御できないのなら、その力で誰かが傷つくというのなら、その力を存在ごとひた隠す。決して誰も傷つかない様に、誰にも知られない様に、全身全霊を以って封じ込める。」
「・・・・だから、塞ぐ。と?」
「ええ、それが出来得る最善の抵抗だから。」
「・・・そう、ですの。」
少し、期待外れでしたわね・・・
あかりの考えも、クレアと同じ。制御できない力は懐柔するのではなく、その存在を秘匿し押し殺す。・・・人を、延いては自分を守る為に。でも、それでは———
「・・・・なるほど。クレアの魔眼は、そういう類の物なんだね。」
何かを察したのかあかりがポツリとそう言葉を漏らした。まあ、ここまで口にすれば嫌でも察しは付きますわよね。
「・・・・・クレアの魔眼は、あらゆる生物を無差別に服従させる。人も魔物も。——」
私は話すべきか迷いを抱きながらも彼女にクレアの魔眼の事を知っている限り全て話した。魔眼の効果、効力切れに起こる禁断症状、そして、それらの呪縛が決して解けない事も含めて。全て。
彼女であれば話しても問題ないでしょうし、同じチームとして彼女は知っておくべき事でしょうから。
「そ・・・か。彼女が人を避けるのはそういう事だったんだね。」
「見放す事は簡単ですわ。けれど、あのまま彼女を放っておくのは・・・なんだか違う気がして・・・・」
「それで悩んでると。」
私の話を聞き終えそう言葉を返した彼女は私の事を一瞥すると天を仰いで息を吐く。その、いつにも増して無口な彼女に細やか緊張を感じる私も、同様に口を閉ざした。
私達の間に静寂が訪れる。あかりの呼吸音。吹き抜ける風。演習場から響いてくる声が鮮明に聞こえてしまうほど、静まり返った空気が彼女の言わんとしている言葉を表している様だった。
分かっていますわ。私にできる事など初めから無い事くらい。魔眼なんて代物、私達が計り知れるところではありませんもの。
けれど、何か力になりたい。秘密を知り、それに苦しむ姿を知ってしまった以上、それを救いたいと思うのは決して邪な事ではないはずですわ。
でも、言葉が出ない。あかりに対しても、クレアに対しても。
第一、魔法が制御できないなどという事態を私は経験した事がない。私が望めば、いつだって魔法は如何様にも応えてくれましたわ。求められれば、私はそれを形にする事ができた。様々な障害を抱える彼女達とは違う、私は幾分にも恵まれた環境にいた。
そんな私が、彼女達に対してかける言葉などきっと元からないのでしょうね。何か助けになればなどと幾ら息巻いても、それは結局のところ私のエゴでしかない。
「あぁ、いけない。そろそろ時間だから、私行くね。クレアの事、講義終わったらまた話そ。」
思い詰める私を気に留めつつも講義開始の時間が迫っている事に気づいたあかりはそう言い残してもたれ掛かった身体を起こした。そして、私の背後を横切ってこの場から立ち去ろうとする。
その後ろ姿に私は声を上げた。
「あかり!・・・最後に一つだけ訊いても?」
あかりは足を止めて振り返る。
「ん?なに?」
「強大な力を持っているとしたら、あなたはそれを塞ぐと言った。」
「ええ。」
「でも、その力とどう向き合うんですの?」
真剣に尋ねる私に対して彼女は一瞬驚いた表情を見せると真面目な表情を浮かべて私と正面に向かい合う。
「隠すにしても、覚悟がいる。勇気がいる。辛い事もあるでしょう。隠し通せない事だってありますわ。それを、あなたはどうやって塞ぐんですの?」
「・・・・・」
私の言葉にあかりは目を伏せ視線をそらした。その表情に私は我に返る。
何を、口走っているのかしら。そんな事を彼女に訊いたところで答えなど返ってくるはずはありませんのに・・・・はぁ、全く。クレアと関わってからというものの、ずっと私らしくありませんわね———
「ごめんなさい、忘れてくださる?」
「———恐れない事よ。」
諦めて立ち去ろうとする私にあかりが背後からそう口にする。そして、その言葉に私が振り返ると彼女は私の目を真っ直ぐと見て更に続けた。
「それが『力』である限り、恐れれば、力は必ず人を蝕むわ。どんなカタチであってもね。そして、その蝕まれた人から恐怖は伝播し、周囲の人達さえも力は蝕んでいく。」
「————っ。」
「だから、恐れない。それがどんなものであったとしても、その力を恐れた瞬間、力に支配されるのよ。」
「・・・あなた、———」
「なんて、偉そうな事が言える質じゃないわね。私は。」
私の声を遮る様にそう口にして彼女は誤魔化す様に笑みを浮かべた。その表情に私は悟る。
もしかして、彼女も———
・・・いいえ。それは違いますわね。
彼女が誤魔化した彼女の中での『力』とは、他でもない自身の魔法の事。元より、魔力を感じられない彼女にとって、魔法そのものが未知の物であり制御の利かない強大な力なんですわ。
だからこそ、これほどまでに言葉に重みがあるんですわ。
「それじゃあ、カチューシャ。またあとでね。」
そう言って私に背中を向ける彼女に私は何も言えず、ただ呆然と立ち尽くした。
恐れない・・・か。確かにそうですわね。恐れという感情は人の感覚を鈍らせますもの。使う・塞ぐに問わず力を正しく扱うには、あかりが言う様にそれを恐れず真っ直ぐに向き合う事が一番の方法なんですわ。
でも、今のクレアにはきっとできない。
あらゆる生物を支配する魔の花、ブルー・ロータス。それが齎す全てのものを彼女は恐れている。だから、彼女には救いがないんですわ。
「・・・・・・はぁ。」
本当に、厄介な人とパートナーを組んだものですわ。こんな事なら、最初にキッパリと断っておくべきでしたわね。
そんな、細やかな後悔と一緒に私は諦めた様に肩を落とした。
結局、私にできる事は初めから一つだけ。あかりと話をして、悩んでいた事の全てが晴れた訳ではありませんけれど、少しは気持ちが楽になった。
あとは、私の問題ですわ。
そう覚悟を決めた私が不意に視線を上げると、目の前にいたあかりが何故か欄干に手を突き柵の下を見つめている。
その姿を私が訝し気に見ていると、突如下から大きな音と地響きが響いた。




