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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
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38.みんなと楽しいショッピング!

「まーた、何も分からなかったの?」


 少し前に受けた私達の課外授業での一件を聞いたエレナが呆れた様子で言葉を漏らした。今日は修道院の休みを使ってエレナとヘレン、あかりと一緒に修道院の外周、ストレガの商店街へショッピングに来ている。今はあかりの服を選んでいる最中だ。


「うん。授業を担当していた先生は悪魔の気配を感じなかったって言うし、現場にも魔力的痕跡が残って無かったんだって。」


 手にしていた服を陳列ラックに戻しながら(フレンダ)がそう答えると、エレナは肩を落として更に呆れた声で言葉を返す。


「それじゃあ、グリゴリの時と同じじゃない。」


「うん。だから、事件との関係性を調べてるって言ってた。」


 とはいっても、出たのは熊の悪魔(グズリー)だから、グリゴリの時ほど大々的な捜査はされないかもってあかりは心配してたけど・・・


 なんて、少し前のやり取りを私が思い出しているとエレナが憐れみを滲ませた声で私達に言う。


「にしても。ホント災難な目に遭うわねー、あんた達。チームだってあのエカチェリーナと一緒なんでしょ?」


「そうなの!もう、ほんとにイヤ。偉そうでわがままだし、口を開けば文句ばっかり、挙句には私達の話を聞こうともしない。おっぱいはデカいし本当にイヤな人。」


「最後私怨が入ってない?」


「とにかく、ほんと嫌なチーム。あかりとパートナーになって嬉しいのに、あの二人じゃ素直に喜べないよ・・・」


「ホントに災難ね・・・」


「さいなん。」


 エレナとヘレンからの視線が憐れみから同情に変わるのを感じて私は余計に悲しくなる。本当に、どうしてあんなチームになっちゃったんだろう。それこそ、クロエと一緒になれればよかったのに・・・


 そんな嫌な事をいつまでも思い出しても仕方ないから、頭を振って無理やり落ちる気持ちを切り替えて今度は私がエレナ達のチームに尋ねる。


「エレナ達は?チーム分けどうだった?」


「どう、と言われても、普通だったよ?テキトーに好きな人同士で組んでって感じ。」


「いいな~・・・ねえ私達もくじじゃなくてそっちが良かったよね?」


 エレナの口から出た意外な言葉に私は羨望の声を漏らしながら試着室にいるあかりに声を掛けると、あかりはカーテンの隙間から顔を覗かせて何故か気落ちした声で私に尋ねる。


「それより、さ。これ、本当に着なきゃいけない?」


「え~、だって着なきゃ分かんないじゃん。サイズとか、似合ってるかとか。」


「そうそう、観念なさい。」


 私に加えエレナにまでそう言われてあかりは無念そうに声を漏らしながら泣く泣く試着室に戻っていく。


 カーテン越しに服の擦れる音が聞こえる。この薄い布一枚向こうであかりが服を脱いでいると思うと・・・なんだかちょっと、いけない気持ちになっちゃうのはおかしな事かな?


 なんて密かに思っているとあかりがカーテンの隙間から顔を出して弱々しい声で報告する。


「着たよ?・・・」


 その言葉と共に皆の期待があかりに集中する中、あかりは焦らす様にゆっくりとそのカーテンを開ける。すると、そこに現れたのは、ゆったりとした淡い水色のTシャツに紺色のミニスカートを着て、青いリボンをあしらった白色のベレー帽を被ったあかりの姿。キラキラで艶々の真っ黒な髪が滑らかに肩から流れ落ち、スカートから覗く艶やかな脚はとても綺麗でついつい見とれてしまう。


「ど、どう?」


 恥ずかしそうにそう言ってあかりは可愛く下ろした手の指先を合わせる。その姿はまるで恋する乙女の様で、好きな子を前に緊張して硬直してしまう女の子のそれだった。


「かわいいいい‼」

「かわいいいい‼」


 想像以上に愛らしいあかりの姿に私とエレナが揃って歓喜の声を上げた。その反応にあかりは更に顔を赤らめて顔を背ける。その反応もまた可愛くて私は堪らずあかりにお願いする。


「ねぇねぇ!次っ!次これ!」


「これもこれも!」


「えぇ・・・」


 エレナも興奮した様子で新しい服をあかりに差し出し困惑したあかりが声を漏らす。


 でも、ちょっと高圧的な私達に気圧されてあかりは渋々新しい服を受け取ってカーテンの奥に消えていく。カチカチというハンガーが鳴らす金属音と一緒に再び服の擦れる音が試着室から漏れ始める。


 なんだかんだ言っても、素直に着てくれる辺りあかりはやっぱり優しい——なんて、反省の色も無くあかりの登場を待っていると試着室の中からあかりが半ば呆れた声で尋ねる。


「ねぇ・・・なんでスカートはどれもこんなに短いの?」


「え?ダメ?」


 少し不服そうなあかりの声に対して私がおどけた様にそう返すと、彼女は困惑気味に言葉を選びながら慎重に答える。


「えっ、いやー・・・ダメって訳じゃないけど・・・・・ちょっと、恥ずかしい・・・かなぁ、って・・・・おもって・・・・・・」


「え~!なにそれ、かわいい~!ねぇねぇ、これも着て?」


「えっ⁉まだ増えるの⁈」


 そんな感じで、その後も色んな服をあかりに渡した。オーバーサイズのだぼだぼパーカーとそれに隠れそうなミニスカートだったり、ピンクのブラウスとショートパンツだったり、白いストライプのワンピースだったりと私とエレナの趣味全開の服を全部あかりに着てもらった。


 店に入ってから一時間以上、もはや試着室一つを占領しながら私達はあかりのファッションショーを存分に楽しんだ。




「いや~、楽しかったね。」


「良かったね・・・」


 語気の上がった私の声にあかりが疲弊した声で答えた。あの後、散々私とエレナに遊ばれたあかりは私達が選んだ服の内、気に入った数着を買い上げて店を後にした。


 開けた商店街の通り道、大きな紙袋を肩にかけて疲れた様子で歩く彼女に流石の私達も罪悪感を覚えてエレナがあかりに謝りながら尋ねる。


「ごめん、無理させた?」


「え?いや、無理とかそういう訳じゃなくて。あんな試着会なんてした事ないから、純粋に疲れたというか・・・」


「だって、あかり。男の子みたいな服しか持ってなかったんだもん。あかり可愛いんだからもっと可愛い服着なきゃ!」


「そうそう、素体は良いんだから。」


 私とエレナが純粋な思いでそう言うと、急にあかりの表情が曇る。嬉しい様な、でも悲しい様な、色んな感情が入り乱れた様なそんな複雑な表情——


「もしかしてイヤだった?」


 その表情が気になって私がそう尋ねると、彼女は我に返った様に明るい表情をして私の言葉を否定する。


「・・・えっ?いやいや、そんな事ないよ!ちょっと疲れちゃったけど、皆とのショッピングは楽しいよ。」


「そう?無理してない?」


「ええ、無理なんかしてないわ。」


「——なら良かった!」


 あかりの言葉に安心して私が笑みを浮かべるとあかりも笑みを返してくれる。・・・うん、可愛い。だが、その可愛いあかりの陰からエレナが憎たらしい顔が出てきて私達を茶化す。


「あ~あ、白昼堂々イチャイチャしちゃって、こっちが熱くなっちゃうわ~」


「ちょっとエレナ!」


 意地悪なエレナに私が怒ると彼女は楽しそうに笑って逃げる。いつも意地悪な彼女に今度ばかりは仕返ししてやると思って私はエレナを追いかけるが、なかなか逃げ足が速くてちっとも捕まらない。


 だけど、何故か彼女は急に立ち止まった。


 突然止まった彼女に反応できず私は思わず体当たりをしてしまい、勢いのまま私はそのふくよかな胸に埋もれる。エレナの大きく柔らかで強烈なおっぱいの圧に当てられ私は溺れてしまいそう。


 そんな私を当のエレナは無慈悲に無視して真剣な声であかりに尋ねる。


「ねえ、この魔力って悪魔?」


 その言葉に私は背筋が凍った。


 ——悪魔?まさか、こんな町中に?


「恐らくね。」


 あかりもさも当然の様にエレナの言葉を肯定していて私は動揺が更に増していく。そして、二人の言う事を証明する様に遠くに悪魔の魔力を確かに感じ取れる。


「ど、どうしよう?」


 動揺した私の声に反応してあかりが困った様に言葉を漏らす。


「どうしようって言ったって——」


 だが、それを遮る様にエレナが強く叫ぶ。


「とにかく、現場に行くよ!」


「え、ちょっとエレナ⁉」


 慌てたあかりの制止も聞かずエレナは悪魔がいる現場に走り出してしまう。更には彼女に続いてヘレンも走って行ってしまい、私とあかりは仕方なく二人の後を追うしかなかった。


 エレナとヘレンに引っ張られる様に悪魔の魔力を辿って辿り着いたのは多くの人で賑わう大通りの広場。いろんな人たちがこの場を行きかい、広場の一角には出店も建てられていて、本当にこんな場所に悪魔がいるのかと疑ってしまう程に活気に溢れている。


 でも、そんな広場の中心にこの場には不釣り合いで不自然な邪悪な魔力——人間に擬態した悪魔の姿。


 その容姿は一般男性そのもので、やせ形で背丈は百七十センチくらい。ジーンズに緑色のパーカーを着て黒色の帽子を被っている。


「悪魔って、あの人?」


 私が恐る恐るエレナに尋ねると彼女は真剣な面持ちで静かに答える。


「そ。でも、あんなに自然に紛れ込んでる。周りの人は誰も気付かないの?」


「周りに魔女いない。だから誰も気付かない。」


 ヘレンの言葉が重く聞こえる。私たち以外にこの異常さに気付けないなんて、なら私達はどうすれば——


 私達が次に取るべき行動に迷っているとあかりが異様に落ち着いた声で指示を伝える。


「とりあえず、修道院に報告して私達はこのまま監視を続けましょう。」


「えっ、それって何もしないって事?」


 困惑するエレナの声を余所にあかりはスマホを操作しながら冷淡に「ええ、そうよ。」と答えた。


 あまりにも冷たいその反応にエレナはあかりの手を掴み静かに激昂する。


「どうしてよ?悪魔は目の前にいるのよ⁉」


「こんなところで騒ぎを起こしてどうするのよ。とにかく、修道院に通報を——」


「主は、ここに来たる。」


 そこへ私達とは違う別の声が響く。広場にいた人々、それとエレナとヘレンが突然響いたその声の主を探す中、私とあかりだけはその声が誰のものか明確に分かる。


 この、プライドが高くて融通の利かないお嬢様の様な声は——エカチェリーナだ。


 彼女は高らかに祈りの言葉を発し、それを聞いた周囲の人達が動揺と困惑の表情を浮かべている。


「ああ、あのバカ——!」


 あかりの焦りの声も届かずエカチェリーナの祈りは最後の一節に辿り着く。


「——魔に呑まれた者よ、その魂に救済を。Amen. (アミン)


 そう言い終えるとエカチェリーナは同行していたキアラと一緒に悪魔に対して攻撃を開始する。途端に楽し気だった広場の雰囲気は一変して悲鳴が響く混沌とした空気になり、エカチェリーナの光線が飛び交う戦場へと変貌した。


 あかりはこの惨状を目の当たりにして頭を抱えて呆れた声で語気を荒立てる。


「ああもう——フレンダ!エレナ!私と一緒に市民の避難誘導!ヘレンはこれ持って修道院に緊急電、急いで‼」


 あかりはそう言って抱えていた紙袋をヘレンに押し付け、人ごみの間をすり抜けていく。唐突に起きた戦闘、それに圧倒されて呆然としていた私達もあかりの声に煽られて急いで市民の避難誘導を始める。


 でも、避難誘導なんてこの間授業で軽くやっただけで、どこにどうやって誘導すればいいかなんて分からなくて、私はとにかく必死に「とにかくこの場から離れて」としか伝えられなかった。


 問題の悪魔も、障害が多くて思った様に戦えないみたいで苦戦してなかなか悪魔を倒せないでいる。


 混乱する広場、怒号や悲鳴が絶え間なく響く中、なぜか一人の声だけは明瞭に聞こえる。


「皆さん‼落ち着いて!慌てず押さず、前の人に続いて避難を!」


 透き通る様なあかりの声。こんな、息も詰まりそうな状況なのにあかりは不思議なくらい冷静で、流れる様に避難する市民を誘導している。その証拠に彼女の周囲の人は落ち着いて行動している様に見える。


 ・・・こんな状況でこんな事を思うのは不謹慎かもしれないけど、その凛々しい姿はとても綺麗でカッコよくて、思わず私はその姿に見とれた。


 ——見とれてしまった。


 突然、あかりが私の方を睨む。それと同時に周囲の人の声を割ってエレナの声が劈く。


「フレンダ‼‼」


「え?」


 エレナの声に引かれ彼女の方へ視線を向けると、大きな槍の様な物が私に向かって勢いよく迫ってきていた。鋭く尖った切先、そこから感じる冷たい恐怖が私の思考を奪っていく。


 でも、槍は止まる事を知らない。


 逃げなきゃ。逃げなきゃ、死ぬ。殺される。・・・でも、動けない——


 私が死を覚悟したその瞬間、襲ってくる強い衝撃と共に私の身体が揺れ落ちる。傾く視界、その先には真っ赤な血飛沫が覆い尽くす様に広がった。

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