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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
31/64

27.Bブロックは波乱でいっぱいです!

 ———時は少し遡り、Aブロック終了直後———




「——見事、予選Aブロックを制したのは、イグレイン・ペンドラゴン‼決勝へと駒を進めました!」


 スタジアムに実況の声が響いた。それに合わせて会場は熱狂に包まれ、興奮した観客の熱が突風の様に伝わってくる。今、予選Aブロックの勝者が決まった。


「凄いね。あのイグレインって選手。殆どの選手倒しちゃった。」


 あかりに会いに行った後、無事に客席でAブロックの観戦が出来た(フレンダ)が唖然とした声でそう言うと同じ列の客席に座るエレナが辛辣な言葉を返す。


「あの選手が凄いっていうか、あのドラゴンが強いよね。」


 その言葉に私はそんな事あるかな?と首を傾げるが、私のすぐ隣に座るヘレンもエレナの肩にもたれながら彼女の言葉に力なく相槌を打った。まあ、確かにバトルロワイアルというより魔物狩りの様ではあったけれども——


 とは言いつつも二人とも存外楽しんでいた様で試合の感想を率直に話す。


「でもまあ、みんなレベルが高い。最初こそドラゴンに圧倒されてたけど、途中巻き返した場面が何度かあったし。」


「でも、あの子の方が一枚上手だった。」


 その二人の評価に私も静かに同意する。二人が言う様にみんな戦闘のスキルが高い。専科のシスターなんだから当然かもしれないけど、単純な戦闘能力だけじゃなく常に変化する戦況にすぐに対応していた。状況把握と判断力が高いんだ。私じゃ無理だなぁ・・・


「でもちょっとズルくない?」


 エレナ達と一緒に選手達の奮戦に感心する隣で一緒に観戦していたモニカが不意にそう言った。その意味をエレナが尋ねると彼女は不服そうな声で言葉を返す。


「だって実際には一人では戦ってないじゃん。みんな一人で戦ってるのに。」


「まあそうだけど、それ言ったら元も子もないでしょ。」


「身も蓋もない。」


 エレナとヘレンの呆れた声に私も苦笑いを浮かべた。言われてみれば確かにそうかもしれないけど、それを言ったらお終いよ、モニカ。


 それはさておき、予選のAブロックが終わり、いよいよあかりが出るBブロックだ。


「次だね、あかり。」


「頼むから即退場なんて悲しい事しないでよ?」


 応援しているのかそれとも煽っているのか、エレナが小悪魔の様な笑みを浮かべてそう言った。彼女に限ってそんな事——と、思いたいところけど、それでも一抹の不安は残る。本当に大丈夫なのか。あかりは決勝に勝ち上がれるのか。その時、その瞬間になってみなければ分からない。


 勝ってほしい。そう強く願えば願うほど不安が大きくなる。


「大丈夫、あかり強いから。」


 私の不安を感じたのかヘレンが気の抜けた、なのに芯のある声でそう言った。


 ・・・そうだよね。きっと、大丈夫。


「さあ!続いては予選Bブロック!こちらのブロックも猛者揃いです。先ず——」


 実況の声が再びスタジアムを包んだ。それと共にステージに続々と選手が入場し始め、観客は再び熱狂の声を上げる。観客はシスター他修道院関係者しかいないはずなんだけど凄い盛り上がりよう。まるで超人気アイドルのコンサートみたい。


 耳を劈く熱狂に晒されながらみんなで入場する選手団の中からあかりを必死に探しているとモニカが苦しそうに尋ねる。


「あかり・・・何処?」


 その言葉にエレナもヘレンも苦しそうに唸り声を上げる。私も目を凝らして探してるけど、どこにいるのか——


「・・・あ、いたいた!あそこ。端の方。」


 私はそう言ってあかりの場所を指さしてモニカに教える。すると、モニカは嬉しそうに「いた!」と声を上げるけど、エレナは「よく分かったわね。」と若干引いた声でそう言った。


 何とも心外である・・・・


 なんて、密かに思っているとモニカが突然不機嫌な声を漏らした。


「てか、キアラいるじゃん。サイアク~」


 その声に釣られてステージをよく見ると確かにいつかと同じキアラの姿がそこにあった。心成しか禍々しい魔力を放ちながら・・・


「彼女も一緒のブロックなんだね。大丈夫かな、あかり。」


「この前は結構梃子摺ってたもんね。まあ、本調子のあかりなら大丈夫よ。」


「フレンダ、しんぱいしょ~。」


 何ともお気楽な二人の台詞に私は肩が落ちる。友達が出る試合だっていうのにこうも落ち着いている二人の方がおかしいと思うんだけど?・・・ほら、もっと、こう・・・ソワソワしないの?


 ——まあ。それはさておき他に気になる選手は、実況も言っていたサラって子かな。他の子と比べても彼女からは強い魔力を感じるし。


 しかも太陽の魔法、か。確か、炎と光との複合属性で保有者が世界でたった数百人っていう希少魔法の一つ。その力は光の魔法に匹敵するとも言われてて、軍隊を一瞬で一掃するって言われてる。だけど——


「ねえ、太陽の魔法って実際強いの?」


 モニカが私の代わりに怪訝そうにそう尋ねた。すると、エレナが口元に手を当てて考え込む素振りを見せながらゆっくりとそれに答える。


「総じて強い力を持っているって言われてるけど、結局はその魔女の魔力量に影響されるんじゃないかな。光の魔法が最強の魔法だって謳われてるのもクラミナ家の影響が強いってどっかの雑誌で読んだ事あるし。」


「結局はその人の技量次第。」


「そうなんだー。」


 私達に訊いておきながらモニカはそう言っては実に淡泊な反応を見せる。その反応に真剣に答えた二人が膨れた表情をしている。


 だけど、実際問題。魔法の強さって魔女の保有魔力量に依存してる。個々の魔法によって差はあるけど特に自然系魔法はその影響が如実に出やすく、消費魔力も他の系統より多いから魔女の能力によってその強さは多様にも変化する。


 だから、結局はその人の実力が物を言う。という事になる。・・・でも、サラから感じる体内魔力量からして実力は相当ありそうではある。


「——ですが、数あるシスターの中でも注目株はやっぱり彼女でしょう。梅沢あかり!」


 実況がそう言うと会場が更に沸き上がった。まるであかりの出番を待っていたかの様に歓声を上げ盛り上がっている。


「やっぱりあかり人気だね。」


 何故かうれしそうなモニカの言葉に私も弾む声でそれに同意する。グリゴリ事件に始まり、キアラとの決闘、通り魔事件での活躍と彼女が残した功績は多くのシスター達の好感を買い、今や派閥と呼べるほど数え切れないほどのファンを持つ様になった。間違いなく彼女の優勝を願う人は多いだろう。


「あれだけの事をすりゃあ、そら期待値も高くなるはずだわ。」


「だよね~。あかりかわいいもんね~」


「・・・そういう事を言ったんじゃないんだけど、モニカ。」


「え?違うの?」


「う~ん、違う・・・かな?」


 エレナとモニカのやり取りに苦笑を漏しながらそう声を掛けた私はステージに再び目を向けた。色んな選手がいる中でステージの端の方に立つあかりは少し緊張した面持ちで周囲の選手を観察していて、なんだか落ち着きが無いように見える。


 でも、その様子に私は不思議とほっこりする。あれだけ強い彼女でも緊張する事があるんだなって——


 みんなとそんなこんなしていると、シミュレーターの地形投影が完了し、草が生い茂る古城跡の風景がステージに現れた。Bブロック、七十名の選手達が草原の中心に立たされ試合開始を張り詰めた空気で待つ。


 関係ないけど、ステージの地形はブロックごとに違うんだ。てっきり統一でいくものだと——


「さあ、お待たせしました。予選Bブロック、開始です!」


 実況の声と共に開始の合図が会場に響いた。その瞬間、選手達の戦闘が始まる。蛇の様にうねる炎の帯、城壁を砕く石の矢、地を這う虫の波。様々な魔法が一斉に飛び交い、閃光と激しい戦闘音を伴って激しくなっていく。


 そんな最中、あかりはというと——


「・・・あかり、逃げてる。」


 周囲の選手達が一様に戦いを仕掛けている一方で、何故かあかりは開始早々に選手達から距離を取り主戦場から離れている。それは他の選手をおびき出している様子ではなく、ただ逃げているだけの様に見える為に余計に目立つ。


「ホントだ。でも、どうして?」


 モニカもあかりの不可解な行動を目にしてそう口にした。いつものあかりなら真っ向から戦っていきそうなものなんだけど、どういう訳か今回は違う。襲われても反撃しない。だから本当に逃げてるんだ。


「多分、決勝の為に体力を温存しておきたいんじゃないかなぁ?」


 曖昧な口調でエレナがそう漏らした。その言葉に私もモニカも怪訝な表情をしながらその理由を尋ねると、彼女は首を傾げながら徐に自身の憶測を話す。


「ほら、バトルロワイアルっていうルール上、乱闘になるでしょ?そうなったら嫌でも体力も魔力も消費する事になる。だから、極力戦闘を避けて数が減ってきたところで一気に倒そうとしてるんじゃないかなぁ。」


「なるほど~」


「でも、あかりの魔力ってそんなに少ない?それに、前にリン先生の授業で三十体近い悪魔を余裕そうに倒してたよ?シミュだったけど・・・でも。相手が本物の魔女になったからってそんな消極的になるかなぁ。」


「たしかに変。」


 とヘレンが私と同じ思いを口にした。そんな私達の反応にエレナとモニカは同様に首を傾げた。


 そう。らしくない。いつものあかりなら試合であろうと相手が誰であっても真っ向勝負をしようとするはずなんだ。だけど、目の前の彼女はあんなに消極的になってる。


 何かあったのかな——


「ちょっ、何あれズルくない⁈」


 突然、モニカが声を上げた。その声に釣られて彼女の視線を追うとあかりとは反対側になぜか多数の選手が円形の陣形を組んでいる。どうしてかと思ってよく目を凝らして見てみるとその陣の中心にはサラが立っていて陣を組む選手達は必死にサラを守っていた。


「サラを囲んで守ってる?」


 私が今までにない光景にそう漏らすと隣でモニカが「あんなの反則でしょ!」と一人憤慨している。だけど、そんなモニカに対して冷たくヘレンがその意見を真っ向から否定する。


「出場選手同士の協力は別に禁止されてないよ。」


 私がその理由を彼女に尋ねるとヘレンはサッパリした声で「最後に一人になればいいの。」と断言した。それを聞いてエレナが思い出した様に言葉を付け加える。


「そう言えば確かに大会の注意事項に協力は禁止なんて書いてなかったかも。というかそもそもルールなんてそんな無かった気が——まあでも、なんであれあれは・・・試合映えはしないわね・・・」


「確かに。」


 私は視線をあかりの方へ戻した。彼女は依然として選手達から逃げていてよっぽど戦いたくないのか襲い掛かる攻撃を全て軽快に避けながら帯まで使って主戦場から離れている。その鮮やかな動きに流石と言うべきなのか、それとも逃げる様に呆れるべきなのかだんだん分からなくなってくる。


 そんな彼女に一つの影が迫る。


「あ、キアラがあかりに!」


 私は思わず声を上げた。キアラだ。キアラが早速あかりに襲い掛かる。彼女は鏡の転移であかりの傍まで飛ぶとあかりを蹴り飛ばした。あかりは城壁の床へと叩きつけられ苦悶の表情を見せて床に倒れ込む。


「最初からあかり狙いみたいね。他の選手には見向きもしない。」


 エレナがそう言う様にキアラはあかり以外の選手には見向きもせずにあかりに集中攻撃をする。リボルバーの銃口が光り、同時にあかりの帯に火花が散る。それでもあかりは諦めず逃走を図るけどキアラはそれを逃さない。


 一方的なキアラの姿勢にモニカが語気を荒げる。


「もうなんなのアイツ!あの時負けたんだから付きまとわないでよ!」


 だけど、逃げようと試みるあかりを決して逃さないキアラの執念は凄まじいものでエレナも「・・・にしても、しつこいわね。あかりを逃がそうとしない。」と呆れ混じりに声を漏らすほど。そのしつこさにはあかりも呆れている様で、僅かに肩を落とした。


 そんな事を気にする様子もなく、キアラの攻撃は更に激しさを増していく。


「・・・また、だ。」


 また、あかりは着物を着ない。あれだけキアラに攻められておきながら帯で応戦するだけで一向に着る気配がしない。今日は間違いなく本調子のはずなのに。


 どうして?着ればあんな状況逆転できるはずなのに——


 思い返せば、彼女はいつもそうだ。最初の授業の時も、エカチェリーナと模擬戦をした時も、キアラの時も。いつも彼女はすぐには着物を着ようとしない。あのグリゴリと戦った時だって危なくなる直前まで着物を着ようとしなかった。


 あかりの目的が体力の温存だったとしてもこんなに頑なに着ないのは少し変な気がする。きっともっと別の理由があるんだ。でもそれは?


 そんな事を考えていると他の選手があかりに襲い掛かった。あかりは帯で攻撃を防ぐけどカトラス剣があかりの顔に迫る。戦況がだいぶ変わったみたい。主戦場があかりの方に移動して多くの選手があかり達に襲い掛かる。


「あかり・・・」


「完全に乱闘ね。まだ選手は半分以上残ってるし。これじゃ、あかりでも苦戦を強いられるかも。」


 殺気に満ちた選手達に囲まれたあかりにエレナが不安気にそう言った。その不安が伝わったのかヘレンももたれていた身体を起こして真剣な眼差しであかりを見つめる。その傍ら、モニカは汚い声で声援を送る。


 時間が経つにつれ光に群がる虫の様に続々とあかりの周りには選手達が集まっていく。その数の多さに流石のあかりも圧倒されて全方位からくる攻撃を避けるのに手一杯になっている。


 そんな状態のあかりをキアラが見逃すはずもなく、彼女の攻撃があかりを襲う。


「妖光の鏡。」


 キアラの周囲に浮かぶ三枚の鏡が光を集めて光線を放つ。忽ちステージを破壊しながら選手達を光が蹂躙する。ブーストが砕ける音が木霊する様に響き、やられた選手達が消えていく。


「凄い威力・・・」


 土煙が晴れて露わになったステージに私はそう声を漏らした。いくらシミュレーターによって投影された物とはいえ、城壁諸共土を抉る威力というのはいくら何でも度が過ぎてる。それも復数発同時に放てるというのだから恐ろしい。


 余りの高威力の魔法を目の当たりにしてエレナが深刻な口調で言う。


「あんな魔法使えたんだ。こりゃ、本格的にヤバいかも。」


「え、それってあかりが負けるってこと?」


「そんな訳ないでしょ!あかりはまだ着物を着てないんだから。」


 モニカの焦った声に私はすぐにそう反論した。でも、その隣でヘレンが「でも、なんでまだ着ない?」とあかりの行動に疑念を抱く。


 なんで?あれだけ追い詰められてるのに、なんでまだ着ないの?——


 そう思った瞬間、不気味な魔力をステージ上に感じた。


「——終幕は来たれり。」


 どこからか聞こえたその声と共にその悪寒の正体が分かった。


 サラだ。今までどうやって隠していたのか分からないけど、非常に強い魔力を彼女から感じる。そして、それは今もなお増幅して更に大きく膨らんでいく。


「これは原初より出でる始まりの火。あらゆる財を溶かし、私達を終わりへと導く最後の光。——」


 観客・選手全員の注目がサラに向けられる中、そうサラは言うと胸の前で包むように握られた両手を掲げてその手を開いた。すると、サラの手の平から小さな火が零れゆっくりと揺られながら宙へと舞い上がる。


 それはもう、少し風が吹けば消えてしまいそうな小さな火。だけど、その火は尋常じゃないほどの膨大な魔力を宿して——


「——原始にして決別の日ラ・サン!」


 彼女はそう声を上げた。刹那、スタジアムが眩い閃光に包まれる。堪らず私が目を閉じると、それと同時に凄まじい衝撃と耳を劈く爆音が会場を揺らした。


 正直、一瞬何が起きたのか分からなかった。突然視界が真白になったと思ったらこの大きなスタジアムが揺れるんだから。それが膨大な魔力の爆発だという事に気付くにはだいぶ掛かった。


 しばらくして閃光で眩んだ眼がようやく光から視界を取り戻し、私はゆっくりと目蓋を開けた。すると、驚くべき事に目の前にあったのは元の平坦なステージだった。


 今まで選手たちが戦っていた古城跡の様な景色は跡形もなく消し去り、スタジアム本来のタイル張りの様な質素なステージが広がっている。それどころか、そのステージでさえ一部の床が熱で溶けて抉れていた。


 この余りにも予想外の光景に私も含め観客全員が動揺を露わにする。みんな理解が追い付かないといった様子だ。


 ただ、それでも一つだけ分かるのは・・・


「流石にこれは・・・」


「誰も、耐えられる訳ないわよね・・・」


 あの魔力量の攻撃なんだ。当然、ステージ上にはサラ以外には誰もおらず、彼女一人が残っているだけだった。というか、いくら自分の魔法とはいえ彼女もよくあの爆発を耐えたよ。下手したら自分まで吹き飛んでたんじゃ・・・


「それにしても、凄まじいわね・・・シミュレーターの術式を完全に破壊してる。それどころか防壁一枚にヒビまで入ってる。三重の防壁が無かったら客席まで被害が及んでたところだったわ。」


「でも、シミュレーター自体にも防壁効果はあったはずでしょう?それすら破壊するって・・・一体どんな威力よ。」


 愕然としたそんな声が近くの観客から漏れ出る。どうしても現実を受け入れられず、どこかうわ言の様に言葉を連ねている。でも、彼女達が呆気にとられるのも無理はない。


 だって・・・常軌を逸している。


 シミュレーターの防壁効果を破壊するというは一般的な町の結界を破壊するのとほとんど変わらないはず。それなのに、彼女は更にそれを越えて純粋な防壁まで損傷させた。たった一度の攻撃で——


 それにその強大な破壊力もそうだけど、いくら他の選手の援護を受けていたとはいえ、それほどの膨大な魔力を溜め込んだ事も、それを終盤まで誰にもバレない様に隠してたのも・・・何もかもが色々とおかしい。


 あれじゃ流石にあかりも——


「ともあれ、これで勝敗は決したわね。」


 そう誰もが思った時、一人の観客が声を漏らす。


「ねえ、ちょっと。何あれ・・・」


 その言葉に引っ張られる様にステージに目を向けると平坦な床の上に一つ、奇妙な物が転がっている。


「何?あの赤い玉・・・」


 玉、とは言っても実際には直径二メートルほどはある大きな玉。それがサラと対角に位置する様に不気味にもステージ上に静止しているんだ。もちろん試合前にも試合中にもあんな物は無かった。無かったのに、爆発を境に突然現れた。


 唯一ステージに残るサラもその見るからに怪しくて場違いな玉に警戒の視線を向ける。あの一撃で力を使い果たしたのか呼吸を乱しながら。


 ・・・でも、あれから感じる魔力って——


「・・・・まさか・・・」


 私がそう漏らした途端、赤の大玉が解け始める。


「花帯・芒——」


 聞き慣れた声と共にひらひらと薄く幅の広い帯が一枚、二枚、三枚、と形作っていた物を解き始める。そして、最後には八本の帯がゆっくりと花を開かせる様にその形を崩してその怪しげな中身を明かす。


「『芒に月』。」


 そう言葉を零したあかりが帯玉の中から凛とした表情で姿を現した。カランと下駄を鳴らして現れたその姿はあの華やかな花魁衣装。なのに、見とれてしまうほどとても綺麗なのになぜか凍てつくような冷たさを感じる。


「うそ、でしょ・・・」


 どこからかそんな声が漏れた。だけどそれは、誰もがそう思っただろう。


 だって、信じられない事実が目の前にあるんだから——


「あの魔力量の攻撃を防ぎ切った?」

「馬鹿言わないで!そんな訳ないでしょう⁈」

「じゃ、じゃあ、どう説明するのよこの状況!」

「だ、だって、だって・・・」


 動揺が観客の間に伝播していく。当然、それは私にも。だって、防壁をも食い破る爆発魔法を受けてもなお耐え切った物が平然とした様子でステージに立ってるんだ。こんなのを見て平常心でいられる訳がない。


 異常なまでに静まり返る会場。つい数分前まで会場を包んでいた熱狂が嘘の様にみんな言葉を失い、優麗なあかりの姿に目が離せなくなっている。でも、そんな静けさも一瞬で、ようやく現実を受け入れたサラがあかりへ攻撃を仕掛けた。


 けど、瞬きの間にあかりの帯がサラを切り伏せる。


 途端にサラの肉体保護が音を立てて砕け散り彼女は膝から崩れ落ちた。ブーストを失い戦えなくなった彼女は、そのまま転移魔術でステージから退場し会場には再び不気味な静けさが返ってくる。あかりは彼女が消えるのを静かに見届けると着物を解いて肩を落とした


 正真正銘、あかり一人となったタイミングで呆気にとられ今まで黙り込んでいた実況が言葉を詰まらせながら声を上げる。


「しょ、勝者!梅沢あかり‼」


 だけど、静かに響くその言葉に誰も歓声を上げない。ただただ、閉じない口を見せ合って唖然とするばかり。あかりもそんな観客の様子を気にする様子もなく静かにステージから立ち去った。


 そんな中、私の隣で一人悶絶するモニカが声を漏らす。


「あかり・・・・カッコいいいぃぃぃぃぃぃぃ。」


 そう言って興奮したモニカは私の肩を掴み「すごいすごい!」と私の身体を揺らす。その興奮に鬱陶しさながら私はモニカに落ち着く様に言うと隣でエレナが動揺冷めぬ様子で言う。


「あれを、防ぎ切るなんて・・・薄々気付いてたけど、いよいよ只者じゃないね。あの子。エカチェリーナが目を付けるのも頷けるわ。」


「少なくとも、同期のシスターの中で最も強固な防御力を持ってる。」


 エレナの言葉に同意する様にヘレンが彼女らしからぬ真剣な声でそう答えた。その言葉に私は余計に声が出なくなる。


 分かっていた事だけど、改めて実感した。あれがあかりの本来の実力なんだ。彼女の魔法である着物を着た彼女の全力。・・・でも、どういう訳か本人はこの力を隠してしまう。というより、その力を使いたがらない。


 どうして?これだけの力があるのに、なんで——

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