26.開戦にて再戦
「——見事、予選Aブロックを制したのは、イグレイン・ペンドラゴン‼決勝へと駒を進めました!」
開始から数分後、Aブロックの通過者が決まった。
イグレイン・ペンドラゴン、彼女は召喚系魔法でドラゴンを操っていた。ドラゴンの体長は五メートル程だろうか。本で目にするような典型的なタイプだが、何分魔女とは体格差があり過ぎてバトルロワイアルというより悪魔討伐戦の様にも見えた。いや、正確には魔物討伐というべきか・・・
まあ、それはそうとして——
「いよいよか・・・」
流石にBブロックというだけあって出番が早い。Aブロックの戦闘自体、かなり速いペースで進んだ為に試合時間が短くなった。・・・私個人としてはもう少し考える時間が欲しかったところなのだが、文句を言ったところで仕方がないか。
とはいえ、戦闘の大まかな方針は決まった。あとは戦闘状況に応じて臨機応変に対処するしかない。が、心なしか嫌な予感しかしないのは気のせいじゃない気がする。
だが、しょうがない。出番だ。
「あかり!」
私がステージに向かおうと重たい腰を上げて立ち上がった瞬間、視界の外から私を呼ぶ声がした。
「キアラ?」
声がした先に居たのは何時ぞや私にケンカを吹っかけてきたエカチェリーナ大好きキアラだった。彼女は私の前に立つと苛立った様子で私に詰め寄る。
「あなたもBブロックよね?今日はこの間の様には行かないわよ。今日この大会で雪辱を晴らしてみせる。覚悟なさい。」
「そ、そう。期待してるわ。」
返す言葉に困った私が言い淀みながらそう言うとキアラは「そんな態度を取れるのも今の内よ!」と不機嫌な声でそう言い残して足音を立ててステージへ向かった。
ああ、不安要素が増えた。
「さあ!続いては予選Bブロック!こちらのブロックも猛者揃いです。先ず名が挙がるのは鏡の魔女キアラでしょうか。彼女の鏡が作り出す独特な世界は、今大会にどれ程の奇跡をもたらすのでしょうか?いやいや、彼女の存在も見過ごせない。太陽の魔女サラ!彼女の太陽の魔法という希少な魔法はどんな波乱を巻き起こすのか?ですが、数あるシスターの中でも注目株はやっぱり彼女でしょう。梅沢あかり!多くのシスターから絶大な人気を誇る着物の魔女、今日もその華やかな姿で勝利をつかみ取るのか⁈間もなく、予選Bブロック開始です!」
やめてよ、恥ずかしいから——と、あの実況者にすぐにでも文句を言いたいところだ。こっちは出来る限り目立たない様にしようとしてるのに。
それに、貴女が言うほど私はそんな大層な魔女じゃない。称されるほど強い訳でもない。
「あれがあかり?」
「着物の魔女ってそんなに強いの?」
「あんな小っちゃい子が?まさか。」
・・・しかし、随分と私の名前も知られる様になったものだ。あの実況者と同様にここにいるほとんどのシスターと私は間違いなく面識はない。はずなのに、みんな私の事を知っているらしい・・・正直これは想定外だ。これほど私の名前が広まるなんて。本当はもう少し大人しく過ごすつもりだったのに。
これじゃまるで有名人——
「はぁ・・・」
今日だけで何度目か分からないため息を吐きながら、ステージに立った私は帯に魔力を通すと二本の帯は私の意志に答える様にゆっくりとはためき始める。
——戦闘術式、展開——
そのタイミングで選手全員の入場が完了した様でステージのギミックが動き始めた。魔術による仮想空間がステージを包み込み私達を別の場所へと誘う。投影されたホログラムの様な半透明の背景は色を持ち次第に実体を持つ物質へと変化していく。
平坦なステージが青々とした草原へと変わり、朽ちた石造りの建物が点々と現れる。いうなれば古城跡の様なステージが形成され、穏やかな風が青草を撫でていく。
・・・てっきりAブロックと同じ火山地帯になるかと思ったら、地形はブロックごとに違う様だ。とはいえ、余り障害にはならないが。
「さあ、お待たせしました。予選Bブロック、開始です!」
その言葉と共に試合開始の合図が鳴った。
途端に選手達が一斉に魔法を発動する。辺り一帯に炎や矢が飛び交い穏やかだった城跡のステージが忽ち戦場へと変わっていく。
よし、一先ず選手達から距離をとろう。これは一種の消耗戦だ。試合終了までどれだけ体力を温存できるか、これに掛かっている。気がする・・・
もう少し対戦相手が少なければ短期決戦が出来るかもしれないが、予選ブロックは七十人だからな・・・流石にこの数を一気に片付けるのはリスキー、と言うか体力が持たない。だから、出来る限り体力を温存して数が少なくなったところで一気に片を付ける。『漁夫の利作戦』だ。
・・・色々と酷い作戦だが、他に思いつくものがないのだから仕方が——
「あかりぃぃぃぃぃ‼」
私が主戦場から逃れる最中、キアラの嫌な声が大音量で響いてくる。あからさまな嫌な予感がする声の方へ渋々視線を向けると、案の定鬼の形相をしたキアラがこちらへ向かってきていた。
私はすぐに帯を延ばしてキアラから距離を取った。だが、キアラに距離という概念はなく、周囲に現れた鏡が彼女の位置を変え瞬く間に私の隣に現れる。
私は即座に防御姿勢を取った。その瞬間、キアラの左脚の蹴りが私の脇腹を抉り、私は古城跡の石煉瓦に強く叩きつけられ床をゴロゴロと転がった。
痛みは軽い。だけど、ブーストの肉体保護がガリガリと削られているのが身体に伝わってくる。
だが、そんなのお構いなしにキアラは間髪入れずリボルバーを私に向けて連射する。私は横たわる身体に鞭を打って無理やり起こしどうにか銃弾を躱す。すると、冷たい銃弾が私の脇を掠めていく。とにかく体勢を立て直さなければ、そう思った私は帯で防御姿勢を取りつつキアラから離れる。
けどその瞬間、私の身体が硬直する。
——っ、これはもしかしなくとも・・・
「明鏡止水。」
その声と共に再び銃声が連発する。銃弾は狂いなく私に命中し、私の身体を撃ち飛ばし肉体保護を削り取っていく。初っ端から飛ばし過ぎでしょ!これじゃあ、後半まで体力も魔力も持たないでしょうに——いや、持たせる必要がないのか。最初から狙いは私みたいだし・・・いや、だとしてもだなぁ・・・・!
「はあ・・・」
大きなため息を吐いた私は伸長させた帯を収縮させ倒れ乱れた姿勢を立て直す。身体強化及び肉体保護を再構築、演算処理を十五%上げて帯の動きを向上させる。それから、増幅魔術で魔力補強を——
これで何とかなるか?と、密かに思う向こうでキアラも連射したリボルバーを再装填する。
しかし、これはどうしたものか。何時ぞやの戦闘は勝てたものの、あの時は彼女の慢心を煽って無理やりどうにかしたっていうのに。油断も慢心も隙もない完璧な状態の彼女をどういなせと?こんな周囲に殺意が溢れる中で?
無理だ。ゼッタイにムリだ。
なんて頭痛が酷くなる私を差し置いてキアラが銃口を再びこちらに向ける。私はすぐに回避に移——
「鏡弾。」
急に、嫌な気配が銃口から別の所に変わった。冷たく刺すような気配が何故か私の右側面から感じる。どういう事だ?何で急に・・・
私の悪寒を余所に銃声が響く。それと共に銃口から放たれた銃弾は真っ直ぐ私に向かって飛翔する。先ずその銃弾を私は難なく躱すが、その直後、私の感性通り何もないはずの右側面からどういう訳か銃弾が飛んできた。
銃声はしなかった。
「——っ!」
幸いにも銃弾は私の腕を掠めるだけで、そのまま石煉瓦の床を跳ねていく。だが、一体何が起きたのか。
再び銃声、私はまた銃弾を躱すが今度は左後方八時の方向から銃弾が飛んでくる。続いて前上方一時方向、右側面下方、どれも銃口の方向や位置関係からして銃の弾道としては異質な軌道を描いている。彼女の魔法が関与しているのは確実だが、一体どうやってこんな事を?
再び銃声が響く。放たれた二発の銃弾が直線を描いて私に向かって飛んでくる。私はそれを回避するとその軌道を目で追う。すると、私の後方にもキアラの鏡が浮いており銃弾はその鏡へ侵入する。
その瞬間、別の場所から銃弾が私の元へ飛来する。まさかと思い銃弾が飛んできた方を見るとそこには別の鏡が浮いていた。
なるほど。撃った銃弾を鏡から別の鏡へ移しているのか。それであんな変な軌道を。
はあ、これまた面倒な技を・・・人も銃弾も転移させられるとなれば、いよいよ逃げ道がない。私がどれだけ早く移動しても無駄だ。彼女の手はすぐに私を捉えるだろう。周囲の鏡を割って回るのも無意味だろうし、これじゃあ必死に考えた漁夫の利作戦が早速破綻だ。
なんて悶々と考えている間にキアラがリボルバーの再装填を終え銃口をこちらへ向ける。仕方ない。嫌でもここは彼女と相対するしかないか。と覚悟を決めた瞬間、左側から殺気を感じた。
その気配にすぐに帯で防御姿勢を取ると別の武装系選手が私に襲い掛かる。手に握られたカトラス剣が私の帯に押し付けられギリギリと嫌な音を立てながら火花を散らす。
主戦場が変わったのか?選手たちが続々と私の方へ近づいてくる。
カトラス剣を抑え込みながら周囲の状況を確認すると、試合開始から比べて三分の一ほど選手が減っている。
ああ、なるほど。それで、のんびりやっていたこっちまで選手が回ってきた訳か。それを表す様にキアラにも別の選手が襲い掛かっている。それでやられてくれればいいのに、彼女はそれを軽くいなし相手に銃弾を二発叩き込む。
しかし、これはチャンスなのでは?彼女が他の選手に気を取られているこの隙をついて何とか逃げれるのではないだろうか。そう思って私はカトラスの選手を弾き飛ばして逃走を図る。
だが、勘が良いのか、それとも執念か。キアラは私の逃走にいち早く気付きすぐ隣に瞬間移動してくる。
そして、銃口が鼻先に当たるほどの超近距離で引き金を引いた。
私は慌てて顔を逸らす。すると、目に見えて銃弾が私の頬を掠めていく。けど、僅かに肉体保護を削るその銃弾もまた例外なく鏡を通って私の元へ帰ってくる。
私はすぐにキアラを蹴り飛ばし帯で銃弾を弾く。耳に響く嫌な音を立てながら銃弾は明後日の方向へ飛んでいき姿を消した。やっぱり、キアラを無視する事は出来ないらしい。意地でも彼女は私を倒したい様だ。
そのしつこさに私はうんざりしながら肩を落とし、石煉瓦の床を抉りながら帯をキアラに向かって振り上げた。だが、それをキアラは素早く回避する。そして、お返しと言わんばかりに私に銃弾を放つ。
それを私はまた帯で弾く。・・・駄目だ、彼女に若干押されている。最初から逃げ腰だった私も悪いがこれじゃ彼女の思う壺だ。どうにか形勢を逆転させなければ。
でも、どうやって?
頭を抱えながら続く攻防の最中、ちょくちょく周囲の選手がちょっかいを掛けてくる。だが、私達二人の戦闘を止める事は叶わない。せめて妨害するくらいの事をしてくれれば私はこんなに悩まないのだが・・・まあ、高望みしても仕方がない。
ただ、ちょっかいが入る度にキアラの意識が僅かに逸れる。これをうまく利用すれば彼女に付け入るスキが出来そうではあるが、流石選考会を通過しただけあってこの野次馬も決して弱い訳じゃない。だから、少しでも油断すると——
「おわっ!」
私の顔のすぐ前をカトラス剣が横切った。
・・・・こうなる。
厳しくなってきた。こういう乱闘を避けたくてあんな作戦を立てたっていうのに、これじゃあ本当に本末転倒だ。ただでさえキアラだけでも脅威なのに、私を狙う彼女らにも構いながらキアラを相手にしないといけないなんて。はぁ・・・まったく、これをどう掻い潜ろうか。
とにかく、どうにかもう一撃くらいキアラに与えたい。けど、選手が増えてきた所為で回避するのが精一杯——というより、野次馬の処理で手一杯だ。それなのに——
「鏡弾。」
銃声が響き私の背後から銃弾が襲ってくる。こうやってキアラの銃弾が私をしっかりと捉えてくる。彼女からすれば、銃弾は任意の場所に飛ばせるから照準も何もないんだ。
・・・はっきりと言って、ズルい。
まあ、私も銃弾が防げないという訳ではないのだが・・・いや、もっと言えば着物を展開すればこの状況さえもどうにかできなくもない。だけど・・・いやそれも・・・な・・・・・
などと、うだうだ私が迷っているとキアラの周りに浮く鏡が妙な動きを見せる。
突然、浮遊していた鏡が三つ葉の様に重なり始め、その中心に眩しいくらいの光を集め始める。そして、その奇妙な三つ葉がキアラの周囲に三つ浮遊し——
「妖光の鏡!」
キアラの声と共に鏡に集められた光が光線となって放たれた。
私は本能的に後方へ飛び上がった。すると、三条の光は周りの選手達を巻き込んで襲い掛かり石煉瓦の城跡も草原の地面もまとめて全てを抉り取る。
選手達が、次々と脱落していく。大会の規定上、ブーストを失った選手は安全の為に転移魔術で場外へ飛ばされ姿が消えるのだが、だからこそ、後に残るのは無惨な傷が残る荒地だけ。
それでも、私を狙う光は何度も放たれる。それこそ私を倒すまで。
ああ、ここにきて広範囲攻撃か。いよいよ手加減なんかしてられないかもしれない。臆すればこっちが食われてしまう。
正直に言って、ここで力を使うのは避けたかったんだが、こうなったらもうしょうがない。
花衣・梅花、展——
「・・・・・・」
急に、嫌な予感がした。
キアラからじゃない。もちろん、もう残り少ない周りの野次馬からじゃない。もっと別の所からのこれ以上ない悪寒。一体どこから・・・
「終幕は来たれり——」




