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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
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23.魔眼の魔女

「え、見つからなかった?」


 サリーの言葉に(あかり)は怪訝な声を漏らした。


 通り魔事件から一週間余り経ったある日の放課後、授業の終わりにサリーに呼ばれた私は第三区画の第五職員室を訪れていた。


「うん、事情聴取や事件現場とその周辺地域の捜索を行ったんだけど、あかりが言った魔導兵器は見つからなかったんだよ。」


 デスクの椅子に腰を掛けたサリーはそう言いながらマウスを手にしてノートパソコンを操作する。


 通り魔の犯人に魔導兵器使用の疑いが掛けられた事で捜査権がストレガ警察からイギリス教会に移行した様で、画面には私が被害に遭った現場の写真や魔力濃度の検査結果、加えて書きかけの報告書などが表示されいる。まさに、事後処理の真っ最中の様だ。


「でも、現場の痕跡や当時のあかりの身体情報を見るに、魔導兵器が有った事は確かなんだよね。」


「では、本当に誰かが持ち去ったと?」


「不本意だけど、そう考えるしかないでしょうね。現に物が無くなってるんだから。」


 私の言葉にサリーは困った様に肩をすくめる。私は顎に指を当て視界を落とした。


 やはり、あの銃は使用後に持ち去られたか。まあ、正直分かりきっていた事だが・・・しかし、イギリス教会が捜査しても行方知れずという事は、つまり——


「現場の痕跡から後を追えなかったのですか?残留魔力は多少残っていたと思うのですが・・・」


「それが、現場で不審な魔力は感知されなかったの。感知できた魔力は全部現場に居た人達のものだけで、手荷物検査で全員白だって事が分かったし、問題の魔導兵器の魔力も使用直前までの反応はあったんだけど、使用後は内蔵魔力が尽きたみたいで反応が消えちゃった。後を追うにも反応がないものは追えないし・・・」


 なるほど、それで捜索が困難であると・・・もし、現場にいた人間が手荷物検査を掻い潜って持ち出したとしても後を追えないのなら見つけるのは至難だろう。


 他に考えられるのは魔力が乏しく感知されにくい人間男性だが——


「ん?そういえば、クレアはなんと?」


 私が思い出した様にサリーに尋ねると彼女は少し困った表情をして答える。


「あかりの診察の後、彼女の聴取を取ったんだけど、やっぱり現場にいたみたい。あかりの証言の裏付けも取れたわ。ただ約束を破って路地を歩いてたものだから、怒られるのが嫌で私達が来る前に現場から逃げちゃったんだって。」


「ああ、なるほど。」


「現場に残っててくれれば変な疑いは掛からなかったのにね。因みに、彼女の荷物からも見つからなかったわ。念の為に彼女の痕跡を辿って捜索もしたけどそれらしい物は見つからなかった。」


「では、やっぱり彼女は白?」


「そうなるね。それはそうと、この中にその銃ってある?」


 そう言ってサリーはパソコンの画面を向けて尋ねた。画面には拳銃型の魔導兵器のリストが画像付きで掲載されており、スクロールバーの感じからして凄まじい量が掲載されている様だ。


 私はサリーに断りを入れてマウスを拝借するとリストの中から該当物を探す。すると、ある銃に目が止まる。


「・・・これだったと思います。」


 私が画像を指さしてそう答えるとサリーは画面を自分の方へ戻して物を確認すると言葉を漏らす。


「K-35か・・・なら、違法改造の線アリと・・・」


「違法改造?」


「ええ、教団の許可なく勝手に改造しちゃう人がよく居るの。中でもこのモデルは広く流通してる物の一つでね。そういった事が多いのよ。・・・やっぱり、そんな改造を引き受けた記録はなし、か。」


 サリーの話にイマイチ付いていけず私は徐に彼女に尋ねる。


「魔導兵器って改造をするのに教団の許可がいるんですか?」


 すると、サリーは意外といった表情をして答えを返す。


「ん?うん。魔導兵器の悪用を避ける為にね。魔導兵器は販売も含めて全て教団が管理してるの。」


「そうなんですか?」


「うん。既存モデルの販売やオーダーメイドの対応。販売個数や販売履歴、顧客情報、改造歴といった様々な情報を教団は全て登録して管理してる。今回みたいに悪用された時に備えてね。」


 教団に技術部がある事は知ってはいたが魔導兵器の販売管理までやっているのは初耳だ。てっきり国が提供している物だと・・・


 ともかく、魔導兵器の情報が教団にあると言うのであれば、持ち主の特定はなんとかなりそう・・・ではあるのだが——


「ただ、全世界の情報を管理してるもんだから特定が大変でね。持ち主が見つかるかどうかは五分五分ってところかなぁ。」


 そう言ってサリーは椅子の背もたれに体重を掛けた。


 まあ、そう簡単にはいかないか。魔導兵器は狩り人の補助武装としてだけではなく、一般の魔女の護身用武器としても流通している。その中でも広く出回っている物となれば特定が難しくなるのも当然だろう。


「通り魔の彼はあの銃の事をなんと?」


「あれは貰った物だって言ってたわ。素性を訊かない事を条件に。それでも、ある程度犯人像は話してくれたけど。まったく、勝手な譲渡取引も犯罪なんだけどなぁ・・・」


 ウンザリとした様子でサリーがそう言うとデスクの向こうから声が聞こえてくる。


「こらサリー!あんまりシスターに捜査内容教えないの!」


 そう言ったのはケイだった。彼女は両手に資料を抱えて呆れた表情をサリーに向けている。その表情にサリーは苦笑を浮かべつつ言葉を返す。


「はぁい。ともかく、今日訊きたかったのこれだけ。ありがとうね、来てくれて。」


「いえ、当然の責務です。」


「責務って。」


 私の言葉にサリーは笑みを浮かべた。


「まあ、連続通り魔事件も解決に向かってるし、もう心配する事は無いわ。魔導兵器も・・・まぁそのうち見つかるでしょ!」


 楽観的な言葉を口にしたサリーに私は少しの心配を抱きながらも先生方に断りを入れて静かに職員室から退室する。


 結局、通り魔事件は解決の方向へ向かっているものの、魔導兵器の方は相変わらず進展はそれほどないというのが現状の様だ。いや、クレアからの証言が得られただけ進展と言えなくはないが・・・


 しかし、本当にどこへ行ったというのだろう。現場にいた人間以外に侵入した形跡はなし、サリーの話ではクレアが立ち去った直後に現場に到着したというから、魔力痕跡の残りにくいに男性がいたとも考えにくい。


 警察、況してやイギリス教会が現場調査、手荷物検査を疎かにしたとも思えないし、通り魔を逃したなんてもっと考えられない。というより、逃げられる様な状態の者は恐らくいなかっただろう。


 そもそもの問題として魔力痕跡を追えないのが捜索を困難なものにしている。せめて僅かでも魔力が残っていれば結果は変わっただろうが・・・・・無いものをせがんだところで意味は無いか。


 ・・・駄目だ、考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。どんな結果も考えられるし、どの結果も考えられない。憶測の範疇を出るものはない。もういっそ、先生の誰かが持ってるんじゃないか?


 流石にないか。そんな事をする意味が無い。


 悶々と考えながら私が静かな廊下を歩いていると曲がり角の陰から人が音もなく現れる。その突然の出来事に私はぎょっとして後退った。そして気付く。


 現れたのはクレアだった。


 彼女は黒いパーカーにタイトなスキニー姿、スニーカーを履いており、パーカーのフードを深々と被っている。フードの陰には暗い表情をした彼女の顔、六芒星が描かれた帯状の眼帯が右目を隠し、残った左目が私の顔をじっと見つめる。


 お互い鉢合わせて動揺したのか沈黙がしばらく続いた。だが、すぐにクレアは目的を思い出した様に顔を下げて私の脇を抜けてこの場を後にする。


「クレアさん!」


 私がそう言って彼女を呼び止める。すると、彼女は足を止め僅かにこちらに顔を向けた。


「通り魔事件の時の事、ありがとう。助けてくれたんだよね?」


「別に。たまたま通りがかっただけだから。」


 私の言葉に彼女は静かにそう言った。


「それでも助かったわ。あの時は本当に危なかったから。召喚系の魔法、だよね。私、初めて見たけど素敵な魔法だね。」


「・・・それだけ?」


「あっ、いや、その・・・ねぇクレアさん、事件の時に男が持ってた魔導兵器の事、何か知らない?」


「知らない。」


「・・・そっか。」


 やっぱり彼女は何も知らないか。もしかしたら、なんて甘い考えだったか・・・


「それより——」


 クレアはそう言って私の意識を遮る。そして、重々しい様子で言葉を続けた。


「あんまり私に関わらない方が良いよ。」


「・・・どうして?」


「私に関わると碌な事にならないから。じゃあね。」


 そんな気掛かりな言葉を残して彼女はこの場から立ち去った。私、何か気に障る様な事を言っただろうか。・・・もしかして「素敵な魔法」なんて言ったのが間違いだったか⁈


 ——でも、確かにサリーが言ってた通り明らかに人を避けている雰囲気だった。態度といい話し方といい、あまり人と関わらない様にしているといった印象を受ける。


 その理由が魔眼にあるのかどうかは彼女本人に訊いてみないと分からないが、なんとなく、彼女はどこか私に似ているところがある気がした。


「あかり~」


 遠くからフレンダの声が聞こえ私はその方向へ身体を向けた。視界に映る彼女は楽しそうに私の元へ駆け寄ると首を傾げて私に尋ねる。


「用事終わった?」


「ええ。」


「じゃあ、Hexe行こ!エレナ達もう着いたって。」


「うん。」


 私が同意するのを確認するとフレンダは私の手を引いてHexeへと向かう。彼女にされるがまま引かれる私が不意に後ろを振り返ると、そこにはもうクレアの姿は無くがらんとした廊下が広がっていた。

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