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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
22/64

20.Answer.不機嫌の理由

「ブーストもそろそろ限界ね?残念だけど、これで最後よ。」


 銃口があかりに向けられる。すると、今まで黙っていたあかりが口を開く。


「なるほど、そう言う事か・・・」


 そう言って重そうに立ち上がるあかりは腑に落ちた様子で言葉を続ける。


「貴女は鏡に私の姿を映して、その映り込んだ鏡像の私を魔法で止めていたのね?それを分からなくする為にわざと別の鏡を大量に展開して。」


 鏡像を・・・止める?


「・・・ご名答。」


 あかりの言葉に不敵な笑みを浮かべたキアラがそう答える。じゃあ、理屈はともかくあの無駄に展開した鏡はあの瞬間移動の為だけじゃなく、その『動きを止める鏡』の囮も担っていたのか。


 だけど、一体どういう事?鏡像を止めると動きが止まるって・・・


 一人頭を抱えているとキアラは答え合わせをする様に手の平にその鏡を出して自慢気に言う。


「『明鏡止水』。これぞ、私の誇る最高の鏡よ。」


「逆因果の魔術ね?『実像が止まる』と言う原因から『鏡像が止まる』と言う結果が生まれるのではなく、『鏡像が止まる』と言う結果を先に作る事で『実像が止まる』と言う原因を生み出している。私も見るのは初めてだけど、厄介ね・・・」


 困った様な面持ちであかりはそう答えた。なるほど?鏡の自分とは表裏一体だから片方が止まればもう片方も止まるって事か・・・そうだよね?


 なんて、また一人考えているとあかりが徐に和傘を出現させた。キアラは少し不自然なその行動を気にする様子もなく優しく彼女に告げる。


「心配しなくても、あなたには何もできないから大丈夫、よ!」


 キアラが銃を構えたその瞬間、あかりは和傘を開きそれを急に左肩を隠すような角度で差すとあかりはその傘を手離して走り出した。


 すると、あろう事かあかりの和傘だけが空中で静止しており、あかりの身体は止まる事なく急速にキアラに迫る。


 ・・・うそ・・・まさか、傘で身体を隠してキアラの魔法を突破した⁉それも直前のキアラのフェイクを見抜いた上で⁉そんな、鏡は何十個もあるんだよ?その中の一つを瞬時に割り出したって言うの⁈


 ——ありえない。


 キアラも突破されると思っていなかったらしく咄嗟にリボルバーを撃つ。だが、今更そんな物があかりに当たるはずもなく、最小限の動きで躱して行く。苦しい表情をしたキアラは後退しながら更にリボルバーを乱射する。でも、撃った銃弾は全てあかりの帯に阻まれて届く事はない。


 あかりはキアラが眼前に迫った所で帯を地面に叩きつけて自身の身体を浮き上がらせると体を捻って帯を大きく振りかぶる。


 だが、その瞬間あかりの身体が再び静止する。


「ああ!」


 思わず(エレナ)は声を上げる。あと少しだったのに、寸でのところでキアラの魔法に捕らわれてしまった。これじゃ、魔法を突破した意味が——


 あかりの反撃に動揺を隠せないキアラは乱射して空になったリボルバーをリロードする。だが、余程予想外だったのか呼吸が乱れリボルバーを持つ手が僅かに震えている。


 何とか銃弾の再装填を終えたキアラは弾倉を銃身に戻すと銃口をあかりに向けて静止した彼女に語り掛ける。


「まさか、傘で自分を隠して鏡から逃れるなんて・・・でも、それならもう一度捉えるだけよ。」


 そして、キアラの人差し指が引き金に掛かったその時、何かがキアラのリボルバーを弾き飛ばした。突然の事でキアラは驚きを隠せてないが、リボルバーを弾き飛ばした何かの正体はすぐに理解する。


「帯⁉何で!あかりはまだ止まって——」


 そう、あかりの帯だったんだ。


 突然現れた帯はリボルバーを弾き飛ばしてすぐにキアラの腕に巻き付きあかりの方へ引き寄せる。帯の元を辿るとその帯は地面から伸びていて、引き寄せられたキアラは上体が地面に向かっていく。


 咄嗟にキアラは帯に対抗する。だが、彼女はそれに気を取られ過ぎた。


「花帯——」


 あかりに掛けられた魔法の効力が弱まり、彼女の身体がゆっくりと動き出す。そして——


「桜!」


 硬直から解けたあかりの帯が振り下ろされキアラに直撃する。途端にキアラは地面に叩き付けられながら数メートルほどを跳ねながら転がり倒れる。でも、帯に撃ち飛ばされたキアラはすぐに体勢を立て直してリボルバーを拾いに走り出す。それを阻止しようとあかりは更に帯で追撃する。


「鏡面叛射。」


 だが、キアラはあの瞬間移動で攻撃を回避する。そして、矢継ぎ早に「我が下に。」とキアラが口にするとリボルバーが彼女の手に吸い込まれていく。その行動を目にしてあかりはすかさず帯を振りかぶって彼女に迫る。


 だが、キアラは迫るあかりにあの魔法を掛けて静止させる。


 再び硬直するあかり。振りかぶった帯も同様に石の様に固まって動かなくなる。キアラはこの隙を逃さず、自身の手に吸い込まれるリボルバーを掴むや否や銃口を迫るあかりへ向けた。


 だが、その引き金を引く前にキアラは急に前のめりに倒れた。見れば足にあかりの帯が絡みついていて後ろ手に足を引かれた様だ。その帯はさっきと同じ様に地面から伸びている。


 帯に捕まれたキアラは逃れようと必死に帯に向かって発砲する。だが、そんな事をしたところで効果は無く、帯はキアラの足をそのまま持ち上げ勢いよく地面に叩き付けた。更に、帯はもう一度キアラを地面に叩きつけると大きくしなって彼女を投げ飛ばす。


 それによって不幸にもキアラは集まっていた野次馬の方へ飛んでいく。当然、野次馬は慌ててそれを避けるが、これまた不幸にもそれによってキアラは堅い壁に打ち付けられてしまう。


 壁に打ち付けられたキアラから喉が詰まる様な痛々しい声が漏れた。


「逆因果魔術の弱点は、その操作の難しさと対象物を的確に捉えなければならない事。だから、使用するにはかなり精密な魔術制御を強いられる。その性質上、術に掛けられる範囲・対象物はかなり限られたものになる。貴女の場合、術に掛けられるのはこの中にあるたった一枚の鏡に映る物に限定される。そうでしょう?」


 あかりの言葉にキアラは苦しい表情を見せる。その原因があかりの言葉か痛みかは分からないけど。


「鏡に映る物が止められる。なら、そもそも鏡に映らない様に帯を通せばいいだけよ。」


 つまり、あかりは鏡に映らない様に地面の中を通して帯を動かしていたって事か。鏡に映っている対象と範囲を計算した上で。それも、あかりの帯の端が鏡に止められていたという事は、帯を伸ばしていたのは地面に設置していた僅かな部分から——いやいやいや、やってる事が滅茶苦茶だ・・・


「ついでに言えば、貴女は逆因果の魔術を使っている間は他の魔法を使う事が出来ないんでしょう?だから、攻撃を魔導兵器に頼らざるを得ない。貴女が魔導兵器主体の戦闘をするのは、それを悟られない様にするた——」


 あかりの口を封じる様にキアラは彼女を静止させる。そして、身体を片腕で押さえながら上体を起こしあかりに銃口を向けて言う。


「馬鹿ね、ご丁寧に説明しちゃって。そんなだから——」


 その時、突如現れたあかりの和傘がキアラの頭を捉える。見るからに物凄い衝撃が彼女の頭部に伝わってキアラはその場に倒れ込む。


 明らかにただ事じゃない音と衝撃を目の当たりにしてモニカが思わず「Oh・・・」と声を漏らして視線を逸らした。でも、どうやらその一撃で許容ダメージを超えたらしく、キアラのブーストの肉体保護が音を立てて解けた。


 そこへ魔法の解けたあかりが浮遊してきた傘を手に取り呆れた様子で声を掛ける。


「言ったでしょう?映らない様に帯を通せばいいって。私の帯は何も、腰のこの二本の帯だけじゃないわ。この傘も私の魔力で作った私の魔法で私の帯よ。」


 そう言うと彼女は開いた傘を肩に掛けキアラの目の前で前屈みになり「忘れてたでしょう?」と言って微笑んだ。


 勝負あり。一時はどうなるかと思ったけど、最後あかりが巻き返してキアラを制した。しかし、モニカが言った通り彼女は頭のネジが外れているかもしれない・・・


 少しの沈黙の後、周囲から歓声が上がる。勝利したあかりには称賛の声が掛けられ、敗北したキアラには悲観の視線が向けられる。


「あかり~~‼」


 緊張の解けたフレンダが両手を前に突き出しながらあかりの元へ駆けて行った。その半ば突進気味のフレンダをあかりは優しく受け止める。


 何とも微笑ましい二人の様子を眺めながらそれに続いて私達もあかりの元へ掛け寄る。すると、モニカが興奮した様子であかりに感激を伝える。


「もう!ホントあかりサイコー!あんな事できる?フツー!」


 ・・・なのに、彼女の表情は険しいままだった。私はすぐにその理由を訊こうとしたが、キアラの声がその邪魔をする。


「待ちなさい・・・」


 何故か未だに傘を差したままのあかりが振り返るとキアラが必死に起き上がろうとしていた。頭を強く打った所為か上手く立ち上がれない様だけど、彼女の目はしっかりとあかりを捉えて離さない。


「まだ!終わってない・・・こんな、こんな結果を認める訳には——」


「キアラ、そのくらいになさい。」


 誰かがキアラの言葉を遮って彼女の行動を制止させた。何となく嫌な予感がしつつも私はその声がした方へ視線を向けると予想通りの人が立っていた。


 縦に巻いた金髪をサイドに束ねて、華やかな刺繍をあしらったドレスを身に纏っている見るからに上層階級の少女。あのエカチェリーナが腰に手を当ててすぐそこに立っていた。


「カチューシャ⁉で、ですが——」


「見苦しいですわよ。」


 未だ諦めきれないキアラにエカチェリーナは強い口調で彼女を黙らせた。これには流石にキアラも現実を受け入れたのか静かになる。エカチェリーナはその様子を確認するとあかりに向き直り言葉を掛ける。


「連れの無礼をお詫びいたしますわ。(わたくし)の管理不足故にこの様な事態を招いた事、深く謝罪申し上げます。・・・けれど、どうか彼女の無礼を許してくださる?彼女自身、悪気はないと思いますから。」


「何を偉そうに——」


 相変わらずの彼女の図々しい態度に堪らず私がそう言いかけた時、私の言葉をあかりが止めた。


「・・・意外ね。」


 真剣な面持ちであかりがそう言った。その言葉に眉をひそめてエカチェリーナはあかりに尋ねる。


「何がですの?」


「てっきり貴女も何か言ってくる思っていたから。ほら、入学して間もない時に調子に乗るなって言っていたでしょう?」


 あかりがそう尋ねるとエカチェリーナは小さくため息を吐き呆れた表情をして渋々それに答える。


「魔法を、力をひけらかす為に使うのと仲間の為に使うのとでは、意味が全く違いますわ。アナタは彼女達の為に戦ったのでしょう?でしたらそれは非難するものではなく、賞賛すべきものですわ。噂がどう広まろうとも。」


 意外な言葉が返ってきた。今まで彼女は嫌味ったらしい人だと思っていたけど、意外と良識ある人なのかもしれない。・・・と、私は今更ながら思った。


「私はそこを履き違えたりするほど愚かではありませんの。それでは、ご機嫌よう。」


 そう言い軽い会釈をして彼女は立ち去る。その後を追ってキアラもふらふらと立ち上がってこの場から立ち去って行った。


「はあ・・・もう、限界・・・」


 急にあかりがそう声を漏らして膝から崩れ落ちた。


「あかり⁉」


 突然のあかりの異変にフレンダが動揺の声を上げた。すると、へたり込んだあかりが弱々しい声で「フレンダ・・・」と言って彼女を手招きする。それに招かれるままフレンダがあかりの隣に座り込むと彼女は口に手を当てて耳打ちをする。


「え?」


 何を言われたか分からないけど驚いた声を漏らすフレンダにあかりは小さく「おねがい。」と懇願した。


 フレンダは急いで立ち上がるとどこかへ駆けて行った。




「大丈夫?」


 個室から出てきたあかりにフレンダが心配そうな声を掛けた。あかりはお腹に当てていた手を下ろし少し不自然な笑みを浮かべると苦しそうに答える。


「うん。少しすれば薬も効いてきると思うし、もう大丈夫だよ。」


「もう、何事かと思ったら・・・フローおばさんが来てるなら最初からそう言ってくれれば、あんなに連れ回す事なかったのに・・・」


 ようやくこれまでの異変の理由を理解した私は彼女にそう言った。まさか、生理だったとは——そうだよね。あかりも女の子だしね。


 場所は変わってキアラと戦ったあの場の近くの共同トイレ。あの場にへたり込んで動けない彼女をどうにかここまで運び込み。一人、生理用品を買いに行っていたフレンダと合流した後、・・・まあ、色々と終わったところ。


 因みにモニカは興奮が収まらない様子だったからあかりが崩れた後すぐに別れた。


 あかりはヨタヨタと生まれたての小鹿みたいな足取りで洗面台まで歩いてくると不貞腐れた様に言葉を漏らす。


「キアラとの決闘が無ければ寮まで我慢できたのよ。」


「だからって・・・」


「それに、その・・・こう言うのはあまり人に言うものじゃないと思って。」


 そう言って彼女は洗面台で手を洗い始める。


 まったく、この子は遠慮がちと言うか、一人で抱え込みやすいと言うか。そう言う時こそ頼ってほしいのにね・・・


「ナプキン、持ってないの?」


 フレンダが怪訝な表情であかりに尋ねた。すると、彼女は洗い終えた手をハンカチで拭きながら答える。


「今日に限って寮に忘れちゃって。あ、そうだ。お金、いくらだった?」


「いいよ、奢ってあげるから。それより早く寮に戻ろ?」


 そう言ってフレンダはあかりの手を引く。あかりはフレンダの厚意に少し申し訳なさそうな表情を見せるが、彼女の純粋な顔を見て受けれた様に笑みを零す。


 そして、何気なくそろそろ出ようかとなった時、私はあかりの前に立って彼女の頬を両手で包み込み視線を合わせる。


「あかり?今度からはそう言うのは隠さず言いなさい。辛いのは、私達もよく知ってるから。」


 私が優しくそう言うと彼女は小さく「うん。」と言って頷いた。


「さて、今日は贅沢にケーキでも買って帰る?」


「さんせ~い。」


「ちょっと、やめてくれます?恥ずかしいので。」


「ん?恥ずかしいってどういう事?」


 嫌そうに言ったあかりの言葉にフレンダが首を傾げる。どうやらあかりは『ケーキを買う』の意味が分かるらしい。


 惜しい。

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