18.Fan.人気と嫉妬は紙一重?
「エレナ!一生のお願い!私にあかりを紹介して!」
午後の授業がちょうど終わり放課後。私とヘレンが帰り支度をしていた時、徐に友達のモニカが私の元に近づいて来たと思ったら開口一番にそんな事を口にした。肩に掛けたショルダーバックが重力に従ってだらりと垂れる。
「別にいいけど・・・モニカ、自分で行ったら?」
私が首を傾げてそう言うとモニカは私の隣に座ってピンクのポイントカラーが入った黒い髪を指で回しながら不満そうに答える。
「え~。だって、一人で行くの怖いじゃん。」
予想の斜め上の発言に私の顔は歪む。コミュニケーション能力の塊のような彼女が一体何を言うのか・・・
「ほら、あかりって穏やかで綺麗で品があるじゃない?なんか、こう・・・おいそれと近づきがたいって言うか・・・こういうのって、何て言うの?」
「高嶺の花?」
言い淀むモニカに私が言葉を教えると彼女は指を鳴らして楽しそうに話を戻す。
「そう!高嶺の花!だから、一人で行くの怖くって。」
「そう?そんな事ないと思うけど?」
「エレナは普段から会ってるからそう感じるだけでしょ?知ってる?今、あかりは人気急上昇中なんだよ?あのグリゴリを一人で撃退したっていうその強さ!実力もさることながら端麗な容姿!身体は小さいけど高貴な立ち居振る舞い!おまけに着物の魔女っていうThe日本美!あれこそまさに日本の女性、ヤマトナデシコって感じよね~」
「う、うん・・・そうなんだ。」
モニカの怒涛の言葉に圧倒されて私は言葉を詰まらせた。でも、彼女から見るとあかりはそう映るらしい。まあ、理解できないと言う訳でもないけど、少し過大評価な気が否めない。
それと、何だか噂が独り歩きしてる・・・確かあかりの話だとグリゴリを撃退したのはリン先生だった気が・・・
なんて思っているとモニカが不満気な表情をして私に言う。
「あ~、信じてないな?・・・ねぇ?今あかり人気だよね?」
そう言ってモニカは近くにいたシスターに尋ねるとすぐに答えが返ってくる。
「うん、彼女結構話題だよ。強いし綺麗だし、成績も優秀で非の打ち所が無いって皆言ってるわ。なのに、謙虚で優しいって聞くじゃん?どっかの金髪より好感持てるよね~」
見た限り彼女が嘘を言っているようには感じない。どうやらモニカが言う事は周知の事実のらしい。よく分からないけど・・・
それと、話の最後に出てきたそのどっかの金髪って言うのはもしかしなくともきっと彼女の事なんだろうなぁ。
「ねぇ、エレナ~紹介してよ~」
「分かった、分かった。取りあえずあかりに訊いてみるから、ちょっと待って。」
私の腕を掴んで身体を揺すり懇願するモニカに私は仕方なく了承しあかりにメッセージを送った。すると、すぐに彼女から返事が返ってくる。
「『いいよ。』って。」
「やた~!じゃあ早速行こう。」
心底嬉しそうにモニカはそう言ってまるで子供の様に私の腕を掴んで促す。
「はいはい、ほらヘレン起きて!あかりのとこ行くよ?」
「ん~」
モニカに促されるまま授業中ずっと寝ていたヘレンを起こして私達はあかりの元へ向かった。
場所は変わって噴水広場。噴水がある広場だから安直にそう呼ばれている場所だが、集合する場所には打って付けの場所だ。
「ねぇ、あかり何処?」
着いて早々モニカがそわそわしながらそう漏らした。確かに、ここで待ち合わせだったはずだが彼女の姿が見当たらない。それどころか一緒にいるであろうフレンダの姿も見えない。
「この辺りに居るはずなんだけど・・・」
私は落ち着かないモニカにそう言った。それより私が気になるのが人の多さだ。いや、集合場所の定番だからいつも人が多い場所ではあるんだが、いつも以上に人で溢れ返っている気がする。
「あ、エレナ~!」
すると、聞き慣れた声が聞こえてきて人ごみの中からフレンダが現れた。しかし、そこに肝心のあかりは居ない。
「もしかして待った?」
私達に近付いてきたフレンダはそう尋ねる。私は首を振ってそれを否定するとすぐさま彼女に尋ねた。
「それよりあかりは?」
「あー・・・それが・・・」
私の言葉にフレンダは苦しい表情で言い淀んだ。その反応に私達は一様に顔を見合う。状況が分からないままフレンダはその理由を説明する様に私達をある場所へ連れて行く。
「何これ・・・」
そこは一際人が集まっている場所で、言い例えるなら・・・そう、有名人が居てファンが集まっている様な状況なんだが、その中心に居るのが他でもない私達が探していたあかりだった。
「いや・・・ちょっと座って待ってただけなんだけど、どういう訳か何処からともなくシスターが集まってきちゃって。なんでも、グリゴリ事件のあかりの行動が校内中に知れ渡っちゃったみたいで、あかりのファンが一気に増えたみたい。それで、あかりを一目見ようと専科の子から普通科の子まで集まってきて・・・」
「それでこの有り様って事?」
私がそう言うとフレンダは肩を落として「はい・・・」と答えた。
まさか私達の知らない間にこんな事になってるなんて——いやまあ、友達が人気者になるというのは実に喜ばしい事だが、予想以上の急上昇ぶりに流石に私も動揺が隠せない。
すると、あかりがこちらに気付き周囲のシスターに申し訳なさそうに手を合わせて言葉を掛ける。
「ごめんなさい。私もう行かなきゃ。今度改めて時間作るから、今日は・・・ね?」
そのあかりの言葉に周りのシスターは悲しそうな声を上げる。でもすぐに納得した様子で「今度ね。」「約束だよ?」と今度は期待の声が上がる。
そんな甘い声を浴びながらあかりは私達の元へ近づき「行きましょうか。」と言って私達を連れていつものカフェへ向かった。
「——ありがと~、あのあかりと連絡先交換できるなんて夢みたい!」
念願のあかりの連絡先を受け取ってモニカは大満足の表情を見せる。その表情を見ながらあかりは「いいえ、これくらいなら。」と優しく言葉を返した。
噴水広場から大群のシスターを引き連れながらもいつものHexeに辿り着いた私達はそれぞれケーキをつつきながらモニカの我儘を叶えていた。・・・当の本人はあかりの連絡先を眺めて気味の悪い笑みを浮かべているけど・・・
「しっかし、すっかり有名人だね、あかり。」
急とは言えこの面白い状況に私はそう言ってあかりをからかう。それに釣られるようにヘレンも「人気者~」と言葉を加える。
すると、彼女は——
「そうだね。」
と言って笑みを浮かべた。・・・・あかりの事だからもっと恥ずかしがると思ったんだけど、耐性でも出来ちゃったかな?ちょっと期待外れ。
「無理もないよ、あの時のあかりかっこよかったもん。」
予想外のあかりの反応を横目にあの事件を思い出しながらフレンダがそう言うと、モニカが更に付け加える様に上機嫌な声で言う。
「かっこいいどころじゃないでしょ!あのグリゴリに挑むなんて、頭のネジぶっ飛んでるとしか言いようがないでしょ!」
「そうかな・・・?」
「でも実際会ってみるとあかりかわいい~。持って帰っちゃいたい!」
若干引き気味のあかりの反応も気にせずモニカがあかりの小さな体に抱き着く。突然のモニカの行動にフレンダが慌てた様子で声を上げる。
「ダメですよ⁉モニカ⁈」
「え~、いいじゃ~ん。」
そう言ってあかりを離さないモニカをフレンダは「ダメです!」なんて言いながら引き剥がそうとする。一方でそんな二人の絡みに巻き込まれたあかりは凄く落ち着いた様子で身を任せている。
・・・やっぱり、今日のあかりは何だかえらく大人しい。いつもならもっと恥ずかしがるはずなのに今日は顔色一つ変えない。
何かあったのかな?
「どうしたの?あかり?」
気になって私がそう尋ねると彼女はぼんやりした様子で言葉を返す。
「・・・ん?何?」
「いや、今日ちょっと様子変だよ?」
「そう?そんな事ないと思うけど?」
そう言ってあかりは首を傾げた。彼女がそう言うなら私の考え過ぎか?でも、よく思い出してみれば一緒に昼食を摂った時も大人しいと言うか静かだった様な気が——
そんな事を考えていると向こうから一人、明るい橙色の髪色をしたシスターがこちらに近付いてくる。その彼女は腰に下げた銃を鳴らしながら私達の座る席で立ち止まるとあかりを睨みつけて低い声で言う。
「すっかり人気者ですね。」
その言葉を聞いて私達の間にしばらく沈黙が流れる。そして——
「だれ?」
「誰?」
「だれ?」
「誰だっけ?」
「あなた達失礼じゃない⁈」
私達の反応が予想外だったのか橙髪の彼女が声を荒立てる。でも、分からないんだから仕方ないじゃない。どこかで見たことはあるんだけど。なんて思っていると機嫌が悪い彼女をなだめる様にあかりが優しく言葉を掛ける。
「ごめんなさい、キアラさん。皆、自分の気持ちに素直なの。だから、気を悪くしないで?」
「ふん!」
「それより今日はエカチェリーナさんとは一緒じゃないの?」
「カチューシャはあなた達の様に暇ではないんです。」
あかりの言葉に明らかに不機嫌そうにキアラはそう答えた。その返し言葉にあかりは小さく「そう。」と声を漏らした。
ああ、思い出した。エカチェリーナの隣にいつも付いて回ってたシスターか、どっかで見た事あると思ったら。・・・って事はつまり、エカチェリーナが居ないから私達のところに来たって事?もしかして彼女、友達少ないの?
「そんな事はどうだっていいんです。ミス・あかり、以前カチューシャが忠告したはずです。『調子に乗るな』って。今回の一件、カチューシャは何もおっしゃりませんが、あなたは少し目立ち過ぎです。人気になったからといって調子に乗っているといずれ足元をすくわれますよ。まああなたがどうなろうと私にはどうだっていい事ですが、あのカチューシャが気に掛けたのです。あなたはカチューシャの言葉を真摯に受け止めて用心する責任があるはずです。特に、あなたは人に好かれるのに慣れない様子なので余計にこの状況は危ないと思います。そして何よりも、これではカチューシャの威光が薄れるではありませんか!」
途中から凄まじい早口で言葉を連ねたキアラに私達は思わず言葉を失う。そして、この時皆心の中で揃ってこう思ったと思う。
——『ん?』——
この沈黙を真っ先に破ったのはフレンダだった。
「お、おぅ。私怨たっぷり・・・」
「何それ意味分かんない!あかりはかわいいんだからいいじゃん!」
「言ってる事メチャクチャだよ?モニカ。」
大袈裟に机を叩いて声を上げたモニカに私が呆れた声でそう言った。その傍らでキアラの敵意を向けられたあかりは、まるで仏の様な優しい笑みを浮かべて彼女に謝罪を言う。
「それは悪かったわね。今度から気を付けるわ。」
「いいえ、二度目はありません。あなたはここで叩きます。」
キアラの信じられない発言に私は思わず声を上げる。
「ちょっと!あかりは謝ったんだからいいじゃない!」
「部外者は黙ってていただけます?」
「何ですって⁈」
彼女の生意気な態度に私は我慢ならず立ち上がって声を荒立てる。その時、急にあかりの様子が一変した。彼女の周りだけ一気に気温が下がった様な感覚に襲われ、背筋が凍る嫌悪感に蝕まれる。
そして、彼女は気だるそうに肩を落とし彼女らしからぬ低い声で言う。
「はぁ、面倒くさい。キアラ、外へ行きましょうか。」




