11.投げられ、飛ばされ、空青く
ドンッ!
さっきの授業でリンが言っていた対魔女戦の重大性と危険性とは何なんだろう?
ドンッ!
危険性は何となくわかる。だけど、重大性は?魔法を耐性の無い人間に向けるならともかく、相手が魔女ならその肉体にそれほど影響は与えないはず・・・
ドンッ!
それとも、魔女も多少なりに魔力の影響を受けるんだろうか。いや、だとしたら模擬戦も危険な行為とも言えるんじゃないか?
ドンッ!
それよりも、今はリンの総合戦闘術を終えて午後の部後半の魔法格闘術の授業中なんだけど・・・・
ドンッ!
「カハッ‼」
「ブーストの構築が甘い!もっとしっかり組まないと!それに受け身もちゃんととって身体を守れ。」
さっきから講師のミカが次々とシスターを無慈悲に投げ飛ばしている。それによって飛ばされたシスターは無情にも地面に叩きつけられ苦悶の声を上げる。
ブーストが上手く出来れば肉体保護の効果で痛みを緩和ないし遮断する事が出来るんだが、それが出来ていないシスターは打ち付けられた痛みがそのまま身体に伝わってジタバタとのたうち回って悶絶している。
そして、丁度今。投げ飛ばされて痛みで死にそうになっていたフレンダが私の元に帰ってきた。
「大丈夫?フレンダ。死にそうな顔してるけど・・・」
「大丈夫じゃないよ!もうほんと痛かった・・・」
フレンダはそう言って体を擦る。どうやらまだ痛みが残っているらしい。
しかし、ミカも容赦がない。ブーストが未熟なシスターが多いのに構わず全力で投げ飛ばしているんだから。
流石に怪我をしない程度には力を抑えているとは思うが、それでもはたから見ればヤクザの抗争を見ている様な気分になる。・・・・関わりたくない。
因みに彼女の服装はタンクトップにミニスカートという何とも・・・アクティブなスタイルをしているんだが、そんな恰好で格闘戦なんてしているものだから、その・・・
当然、下着がもろに見えてしまっている。
おまけに上のタンクトップも背中にほとんど布が無いので、ブラジャーも全く隠せていない。
正直、目のやり場に困る・・・・・
いやまあ、今の私は女性だからそれを見ていたからと言って何か非難を受ける事はないだろけど・・・
というかそもそもあれは女性としてどうなんだ?・・・
などと私が思っているとはつゆ知らず、ミカはそんな事は全く気にも留めない大胆な動きでシスターを投げ続けている。
「凄いね、先生。」
隣に立つフレンダが不意にそう言った。それを聞いた私はそれまで変な事を考えていた所為か「え?何が?」と変な声で答えてしまう。
その反応にフレンダは怪訝な表情して言葉を返す。
「え?いや、先生ずーっと投げ続けてるから、体力凄いなぁって。」
その言葉を聞いて私は変に納得して「ああ、そっち。」と声を漏らした。すると彼女は、私の顔を覗き込んでニヤケ顔をしてからかう。
「何?もしかしてあかり、なんかいやらしい事考えてた?」
「ち、違うわよ!」
私は即座に否定する。そう、決していやらしい事は考えていない。ただあの服はどうなんだと思っていただけで・・・
「ほんとに?」
首を傾げて疑うフレンダに私はすぐさま頷く。その私の必死な様子に彼女は穏やかな笑みを浮かべて言う。
「まあ、先生結構大胆な格好してるから分からなくもないけど。」
「いや、分からなくていいから。」
「でも、ほんとに大胆だよね。あれ普通に下着でしょ?恥ずかしくないのかな。」
「分かんない。てか、そんなのどうでもいいわよ・・・」
フレンダが呑気な声でそう話すので私は呆れた声でそう言った。
それより、そんな気は無いとはいえ、ミカのあの大胆な姿を見ていると逆にこっちが恥ずかしくなってくる。何だか、体が熱を帯びて顔が赤くなっていくの感じる。
「でも、やっぱり凄いなぁ。先生もブーストだけで戦ってるんでしょ?」
フレンダが感心した声でそう言った。それを聞いてようやく変な方に向いていた私の意識は引き戻され、私は何もなかったかの様に彼女の声に答える。
「ええ。でもあれ、体力を補完している程度しか使ってないと思うよ。」
「えっ、うそ⁉それであれなの⁈」
私の言葉にフレンダが驚きの声を上げる。まあ、確かに人間離れした動きをしてるけど、彼女から感じる魔力の気配がかなり薄いから、ブーストの効力をかなり抑えている事は確かだ。
「流石だよね。筋力強化無しであれだけ動けるんだから。私じゃ絶対無理だなぁ・・・」
フレンダに共感しながらそう弱音を吐いて私はミカの格闘戦を眺める。
変わらず人間離れした動きをする彼女は楽しそうにシスターを投げ飛ばしては次の犠牲者を指名して、また投げ飛ばす。
すると、ミカが私の方を見て不敵な笑顔を浮かべて言う。
「あかり!次はお前だ!」
「は、はい!」
ご指名に与った私は動揺しながらもすぐさま彼女の元へ駆け寄り、そのまま彼女を殺す勢いで襲い掛かる。
しかし、突如視界が回り身体が宙へ浮かんだ。急に時間がゆっくりと流れ、眼前の空の青さが鮮明に映る。今、私は一体どうなっているのだろう。
そう思った途端、背中に衝撃が伝わる。肉体保護のおかげで痛みはないものの何が起きたのか理解が追い付かない。分かるのは空が異常に青く感じるくらいだ。
いやまあ、彼女に投げ飛ばされたのだが、余りに一瞬のこと過ぎて何が起きたか分からなかった。
地面に仰向けになって一人目を回しているとミカが私の顔を覗き込んで言う。
「ブーストの構築はしっかりできてるな。でも受け身が甘い。そこを見直して。次!」
ミカは私の返事を待たずに次のシスターを指名する。そして、その声を合図に次のシスターが彼女に挑んでいる。
私はその戦闘を横目に倒れた身体を起こして立ち上がり、肩を落としてフレンダのところへ帰る。
すると、返ってきた矢先にフレンダが羨ましそうな眼差しで私に言う。
「凄いね。あかりはブーストちゃんとできるんだ。」
「うん、基本的な事はね。というか、むしろ私は身体が小さいから、その分ブーストで強化しないと、動きが鈍くて。」
そう言って私は肩をすくめる。やっぱり、自分の身体にはつくづく嫌気が差す。この身長もそう。せめてエリやフレンダくらいの身長があればよかったのに・・・
なんて私が思っているとフレンダは少し怪訝な顔をしながらそれでも羨ましそうに言う。
「そうなんだ。でも凄いなぁ。私、まだブーストが上手く出来なくて・・・ねえ、あかりどうやったらいいの?」
困り顔でそう尋ねるフレンダに私は困惑しながらどうにか言葉を返す。
「えぇ?どうやってって言われても、私は感覚で覚えたからうまく説明できないんだけど・・・」
私は右手を口元に当てて考える。そもそもブーストは修道院に入学する前にエリから教わったのだが、彼女も感覚で覚える人だった為、私に教えるのにはとても苦労していた。
さて、どうやってフレンダに説明したものか・・・
「う~ん、なんて言えばいいんだろう?魔術を身体に纏う感じ?魔力を体内で巡らせるじゃなくて放出させて全身を包み込ませる感じって言えばいいのかな・・・そんな感じ。」
「随分ザックリだね。」
曖昧な私の言葉にフレンダは顔を少し引きつらせてそう声で言った。その反応に私は膨れた表情をして拗ねた声で彼女に言う。
「だから言ったでしょ?感覚だって。取りあえずやってみて、何かアドバイスできるかも。」
私の凄いテキトーな指示にフレンダは少し不安そうな顔をしながらも言われた通り上手く出来ないと言うブーストを展開する。すると、彼女の身体に魔力の気配が流れ、僅かに肉体保護の気配が感じ取れる。
「どう?」
怪訝な表情でフレンダが尋ねるので私は率直な感想を口にする。
「う~ん。何となく魔力が散ってるかも。ブーストを構築するにはもう少し集束させないといけないから・・・もう少し魔力を身体の周りに集中させれる?」
「やってみる。」
私のアドバイスをフレンダは快く聞き入れすぐに実行する。その途端、彼女の魔力が身体の周りに集束していく。
「イイ感じ。そのまま集中して・・・」
フレンダの集中力が高まる。次第に彼女の周囲に集まる魔力の濃度が高まっていき、ゆっくりと凝結していく。そして——
「肉体保護掛けれたね。一先ずブーストの基本構築が出来たよ。」
彼女のセンスに助けられブーストの構築に成功する。
あの下手な説明でよく上手くいったと思いつつ、取りあえず成功した事に私は安堵する。これで彼女が悪魔と戦う事になっても恐らく大丈夫だろう。
成功したという私の言葉を聞いてフレンダは身体を震わせながら嬉しそうに喜びの声を上げる。
「凄い・・・できた。できたよ!あかり!凄い‼」
「ふふっ、良かった。その調子でもっと鍛えれば、筋力強化とか体力補完とかできるようになるから、頑張って。」
嬉しさのあまりぴょんぴょんと跳ねる彼女に私も嬉しくなって思わず笑顔が零れる。彼女はこういう無垢なところがとても可愛らしい。
しかし、改めて彼女のブーストを見てみて私はある事に驚く。
「それにしても凄いわね。こんなに厚い肉体保護は初めて見た。」
私が見た限り、彼女の肉体保護の厚さは私の五倍くらいはあるだろうか、とにかく感じた事のない異常な気配だった。一般的にブーストの肉体保護は術者の核の魔力量に比例すると言われているが、これほど強固なものはそうはいないだろう。
という事は、彼女は相当な魔力を有している事になるが・・・
「え?そう?」
私の言葉に驚きつつフレンダはそう言って怪訝な表情をする。その様子を見て私はそれが本当なのか疑いたくなる。普段の本人の様子からしてもそんな気配が一切ないから余計に彼女がそんなに凄い人なのか疑わしい・・・
「うん、凄いよ。この厚さはなかなかいない。」
「そんなに?」
まあ何であれ驚きの結果に感心した声で私がそう言うとフレンダは驚きと喜びが混じった声でそう返した。そして、顔を綻ばせて嬉しそうに私に言う。
「え、じゃあさ、私って結構凄いの⁈」
「うん。たぶん相当な量の魔力を持ってるんじゃないかな。」
「え⁈じゃあ——」
その時、授業終了の鐘が鳴った。途端に今まで暴れ回っていたミカはその手を止めて残念そうに肩を落とした。
「ありゃ、もう時間か。じゃあ、今日の授業はこれで終わり。みんな、今日の授業で自分のブーストの状態が分かったと思う。だから、次はブースト構築の強化と受け身の練習をするぞ。気合い入れて挑む様に。じゃあ、解散!お疲れ。」
ミカの終わりの言葉を合図に例によってシスター達が散っていく。みんな過激な授業に心底疲れ切った様子だ。
私達も講師の彼女に「お疲れ様です。」と口にしてそのシスターの波に乗り演習場を後にする。
「ああ、疲れたね~」
フレンダも疲れ切った様子でそう言った。そんな彼女に私は柔らかな笑みを浮かべながら言葉を返す。
「レポートの前に何か食べる?」
「ん?レポートって?」
フレンダの口から怪訝な声でそう答えが返ってきた。その答えに正直驚きを隠せない私は、一体何の事だか分からないといった様子の彼女に半ば呆れながら確認する様に尋ねる。
「え?・・・リン先生のだけど。」
すると、彼女は思い出した様子で声を上げる。
「そうじゃん!リン先生のレポート‼すっかり忘れてた。」
「出されたのついさっきだよ?・・・」
「えへへ、この後何しようかなぁって、そればっかり考えてた。」
「もう・・・」
なんて二人で和やかに話していると突然フレンダの方からバイブ音がする。どうやらフレンダの携帯に通知が来たようで、すぐに懐からスマートフォンを取り出し確認する。
「あれ?エレナからだ。何だろ。」
そう言って彼女はその場に立ち止まりスマホを操作する。すると、急に顔色を変えて深刻な声で私に言った。
「あかり、エレナが『助けて』だって・・・」




