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知ってほしい不倫

作者: 秋田犬じょんすけ



私は100人ほどの読者をかかえるネット小説家だ。

私のなんのへんてつもない推理小説に対して今では100人が読んでくれているのも、当初からのファンがいつもこまめにコメントを書いてくれるからだ。


いつもは推理小説ばかりを書いているが、今日は別のジャンルを投稿した。



ーーーー5月11日21時42分投稿ーーーー


タイトル「知ってほしい不倫」



私は秋田犬じょんすけ。小説家だ。もちろん小説家として飯を食っているわけではない。

本業はサラリーマンだ。ネットの小説投稿サイトで定期的に推理小説を書いている。小説を投稿すればだいたい100人ほどが読んでくれている。いつも皆さんよんでくれてありがとう。


しかし、実は一番読んでほしい人に私の小説は読まれていない。妻だ。結婚して10年になる妻とは幸せに過ごせていると思う。

35歳の妻は私よりも5歳年下であるが非常にしっかりしている。

しかも年を感じさせないほど美人だ。そんな妻をとても愛している。「実は小説書いているんだ。君にも読んでほしいな」そう頼んだのは何年前のことだろう。「うーん。いつかね」拒否がしないが了承もしない。のらりくらりわかされ妻に小説を読んでもらうようお願いすることをやめた。

妻と小説の話がしたい。いろんな小説家の話がしたい。しかし、妻は小説自体あまり好きではないらしい。妻は案外、意地っ張りなところがある。

一度「あなたの小説なんて読みたくないわよ」

って言ったものだから、意地になって読んでくれないのだろう。

もしくは本当に興味がなくて読んでくれないかどっちかだ。

妻のことは大好きだ。しっかり者だか、夫を尻にはしかず、顔をたててくれる。


僕はそんな妻を裏切った。

いつも見てくれている読者の皆さんは推理小説がなかなか始まらなくて戸惑っているだろう。今日は初めてノンフィクション作品を投稿している。

妻に内緒で女性を抱いた。


短編の推理小説の投稿を終えたその日、コメント欄に見慣れない名前があるのを発見した。

ペンネームはA。

Aさんは私の小説をとても褒めてくれた。私の小説へのコメントしてくれるのは当初からペンネーム、ピザポテトさんだけであったため、新しいコメントに胸を躍らせた。

その日から小説を投稿するたびに、Aさんはお褒めのコメントをくれた。コメントから察するに女性であろう。ピザポテトさんはおそらく男性であるため、初めての女性からのコメントに年甲斐もなくドキドキしてしまったのだ。

「いつも面白いです。」「ワクワクする展開ですね。」

Aさんからのコメントをいつも楽しみにしていた。読者のみなさんはAさんからのコメントを見たことないことを不審に思ったでしょう。

自分だけの楽しみにするためにいつも非公開にしていたのです。

Aさんからくる長文のコメントを自分だけのものにしたい。妻がいながらも顔をみたことのないAさんが気になり始めたのだ。

「Aさんに会いたい」「Aさんの顔をみたい」そう思っていたある日、なんとAさんから小説サイトを通じて直接メッセージがきたのだ。内容は心をはずませるものであった。


「秋田犬じょんすけさんの小説は本当にすばらしいと思います。私も推理小説が好きなんです。じょんすけさんと会ってお話したいのですがだめでしょうか?」


まさかAさんから会いたいと連絡がくるとは思わなかった。久々に胸がときめいた。ただ私には妻がいる。会うだけで浮気になるわけではないが、もともと恋愛経験が少なく、結婚してからも妻以外の女性と2人きりで食事すらしたこともない。

「いつも読んでいただきありがとうございます。申し訳ございません。せっかくのお誘いですが、読者様と会うのを控えております。」


そう返したら、Aさんから「でしたらこうやってメッセージでお話しましょう」とお返事が来た。


その日から毎日Aさんとメッセージのやりとりをすることになった。文章から素敵な女性だろうと想像できた。

好きな小説家の話、好きな推理小説のシーン、許せない小説の展開、そして私の小説の話。妻とは小説の話ができない。いけないとわかっていながらもAにひかれていった。趣味仲間だ。いつもそう言い聞かせ、Aさんとメッセージをやりとりした。ただ一度もお互いのプライベートの話はしなかった。


最初にAさんと会話してから3か月がたった日のことであった。Aさんから「直接会いたい」とメッセージがきた。私は了承してしまった。

しゃれた店なんて知らない。強いて言えば妻といっしょにいくいきつけくらいだ。私は一生懸命女性受けするような店を調べ、約束の日を迎えた。妻には仕事で遅くなるといって家を出た。


もしかしたらAさんは男かもしれない、女性だとしても私が想像する容姿ではないかもしれない。

しかし会って私は驚いた。想像以上の美人であった。


普段から小説を書いているが、美しい女性にあうと容姿をどう表現すればいいか、どう言葉にすればいいかわからなかった。


「おきれいですね」Aさんにそう言うしかなかった。


「秋田犬じょんすけさんも素敵ですね。もっとおじさんかと思ってました。」

「やめてください。ペンネームで呼ぶのは。」

「でしたらジョンさんと呼びますね。」

「恥ずかしいですがまだマシですね。私はAさんと呼びます。」


人気のお店でカウンター席しかとれなかった。しかし横並びのおかげで彼女の匂いをより感じることができた。


初めて直接会った二人だが、すぐにうちとけた。

事前にメッセージのやりとりをしていたからもあるが、この日は互いのプライベートの話で盛り上がった。Aさんの歳は25歳だという。

40歳の私がこんなきれいな女性といっしょに食事をしていることが信じられなかった。

お互いの共通の趣味である小説の話題に戻るとAさんはにこにこしながら私の話を聞いてくれる。

Aは私に対して尊敬のまなざしをむけていた。


一軒目で終えよう。このままいっしょにいると、よこしまな思いをいだいてしまう。

「私、ジョンさんみたいな人がタイプなんです。若い人なんて興味ありません。

ずっとお会いしたかった。こうしてあえてよかったです。」

テーブルの上においていた私の手をAは握った。私も握り返した。

その日私たちは男女の関係になった。


まさか私のよこしまな思いが実現するとは思わなかった。

いや、Aさんと出会ってもしかしたら、結ばれるのではないかと思った。しかしその日のうちにこのような関係になるとは。

事実は小説よりも奇なりとはこのことかと思った。

ベットの横にはAがいる。Aの横顔をみるとふと妻のことを思いだした。

愛しの妻。しかし罪悪感に押しつぶされそうな気がして、今はその思いに蓋をした。

急にAと目が合った。

Aはお願いがあるの と上目遣いをし予想だにしないことを告白してきた。


「私たちのことを小説にしてほしいの」


急に何をいっているのだと思った。

Aは私の胸に顔をうずめてつづけた

「あなたの小説が好きなの。あなたの小説に私を出してくれたらそれほど幸せなことはないわ。お願い。もししてくれないなら、奥さんにこのことを話すわよ」



女性遊びなど結婚してから一度もしてこなかった私は左手の薬指をみながら自分の愚かさを恨んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





結「投稿完了」



書き終えた。初めて推理小説以外を書き終えた。

ずっと自室にこもって書いていたため、妻は寝室に寝ているかどうかすらわからない。

この小説を投稿したのは非常に勇気がいった。それは今までの読者100人ほどは私を軽蔑して読んでくれなくなるといった恐れからではない。そんなことどうでもいい、もう小説を投稿しなくてもいいと思っているからだ。


頭のおかしいAのお願いを頼みを断れなかった、中年男、そう思われてもいいのだ。

私はAのためにこの小説を書いたのではない。自分自身のある目的のためだ。

当初から応援してくれた読者、ピザポテトさんはどう思うだろう。





ノックの音がして扉が開いた。妻が泣きそうな顔をしてこちらをみていた。

目的が達成できたと思った。

私はすべてを察して、妻を抱きしめてこう言った。



「全部嘘だ。ずっと応援してくれてありがとう。」

もうネットに投稿できなくていい。

これからは君のために小説を書く。






ー補足ー

投稿した小説は全てうそ。

主人公は当初からのファン ピザポテトが妻ではないかと疑っていた。

いつもコメントをしてくれる妻に感謝を伝えたい主人公。

しかし、妻が旦那の小説を読んでないといいはるため、妻が反応するような小説を投稿した。結果100人ほどの読者は失うかもしれないが、妻に感謝を伝えられるならそれでもいいと思った。


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