SCP財団 ある研究員の手記にて~クマさんにはお友達いっぱい~
用語解説
SCP財団
この世にある異常な物質、存在、現象を抑え込む事を任務とし一般人が異常に対して恐怖することなく「一般的な日常」を送れるように日夜活動をしている世界的な組織。
異常現象を発見した際は速やかに「確保(Secure)」し、それらの影響が漏れないよう「収容(Contain)」した後、それらから人類もしくは異常存在を「保護(Protect)」する為それらの性質、挙動を完全理解することを目的としている。
SCPオブジェクト
その財団が収容している異常存在。物や人、空間から施設等、その形状は様々。
クラス
オブジェクトの収容難易度の目安としての役割を果たしています。
収容のし易さから順にセーフ、ユークリッド、ケテルと別れています。
サイト-24研究所は騒然としていた。
うめき声をあげ助けを求める者や、腹部を大きく損傷し、事切れている者で溢れていた。
医療班がそれらをせわしなく担架で運んでいく。
「来てくれたのか。」
振り向くと、そこに立っていたのはカーバーだった。
今回の惨状を引き起こした、SCP-1048を研究していた人物だ。
「あぁ。君から送られた報告書を見てな。まさかとは思ったが、どうやらあの内容は本当だったようだ。いや、それ以上か。」
「全く、いまいましい。姿を見つけ、追いかけたら、ここにいる連中の体をジャンプして突き破っていったよ。」
「そうか。しかし、どうしてこうなった?あのオブジェクトのクラスはSafeだったはずだ。」
「最初はな。だが、今は間違いなくKeterクラスだろう。」
「君の報告書によると、異変を見せ始めたのは7か月前とあるが。」
「そうだ。」
SCP-1048は33センチほどのクマのぬいぐるみで、自発的に移動し、その愛らしい仕草でここに勤める職員達に友好的であり、癒しになっていた。
だが、七か月前、突如として異変が起きた。
ある日の事だ、サイト内をSCP-1048が同じような人形(以下SCP-1048-Aと呼称)と一緒に歩いているのを、職員が発見した。
それはまるで、サイト内を見学させているようだった。
その様子を観察していると、職員はあることに気付いた。
SCP-1048-Aの体を形づくっていたのは、大量の人間の耳だった。
驚いた職員はすぐにセキュリティチームを呼んで対象を収容しようとしたが、SCP-1048-Aが金切り声を上げると、周囲にいた人物の目と耳に激しい痛み与えた。
この際、半径5メートル以内にいた者は、全員体中に耳のような腫瘍ができ、3分以内に死亡している。死因は、器官を耳の腫瘍が塞いだことによる窒息死だった。
この騒動の間に、SCP-1048とAは姿を消している。
次に目撃されたのは、サイト内のカフェテリアだった。
形はSCP-1048だったが、あまりにも不自然でぎくしゃくした動きをしていた(以下SCP-1048-Bと呼称)まるで、中に何か別の物が入っているようだったと目撃した人物は語っている。
そして、その予感は当たっていた。
突然、SCP-1048の体の中から幼児の手が現れたのだ。
そして、付近にいた女性職員に危害を加えた。
その後、SCP-1048-Bはセキュリティチームにより適切な処置が施された。
「君から貰った報告書に書かれていたのはここまでだったな。」
「そして今日、新しく起きた事件がこれだ。ちょうど、1048の報告署を改めているときに姿を見せた。そうだなSCP-1048-Cと呼称しよう。1048-Cは今までの個体と違って、金属のスクラップで構成されていた。1048-Cは私に姿を見られたのを知ると、部屋から逃げ出し、この惨状を引き起こした。」
「君はよく無事だったな。」
「全く、運がよかった。」
「しかし、気になるのはSCP-1048が作った2体、いや3体の複製品だ。一体、何を素材に作られているのか。」
「3体目についてはこれから調べるが、1体目と2体目についてはわかっている。」
「そうなのか?この報告書にはその事については何も書かれていないが。」
「報告書を改めていると言っただろう。君に送ったのは簡単な状況説明だけだ。ここに正規の報告書がある。」
「見せてくれ。」
「あぁ。だが、今回の件でまた、書き直さねばならなくなったがな。」
「・・・ここに書いてあるのが本当なら、恐ろしい話だな。まさか、SCP-1048-Aの素材がここの職員の耳で、Bは・・・胎児か。」
「そうだ。共通しているのは、いつ切り取られたかわからないということだ。これがどういうことかわかるか?SCP-1048は我々の気づかない所で、気づかれないように仲間を増やすことができるということだ。しかも、全部が全部、人間に対して敵意があるときてる。」
「そして、その元凶は今も姿を見せずどこかに潜んでいる。なるほど、確かにこれはKeterクラスだな。」
「これで上の連中が納得してくれればいいが。」
「大丈夫だろう。ここにある報告だけでも、十分危険性は伝わる。」
「だといいが。」
「それなら、今日の報告書にこう書けばいい。「どれだけ危険なのか充分に強調することができない。いまいましいあれはジャンプして、可哀想な連中の体を突き抜けていったんだ。」とな。」
「はは、気持ちだけ受け取っておくよ。」
そう言うとカーバーは自分の部屋へと向かっていった。
私の目の前には依然として、地獄絵図が広がっている。
あのSCPがKeterクラスに相当すると上が判断したなら、この惨状はむしろ、ましな方であろう。
報告が正しいなら、あのSCPは今もどこかに潜んで新しい自分を作っている。
それが増え続けたとしたら、その材料に使われる人間もどんどん増えていくということだ。
「しかし、何の為に増えているのか・・・」
私は、もう一度報告書に目を落とした。
「友好的で癒しになっていた」「サイト内を見学させているようだった」
・・・我々は、コミュニケーションをとって、友好をはぐくむ。だが、それは相手がいるからだ。だが、あのSCPは一つ。この世にたった・・・だから、自分で・・・。
だとしたら、我々は、良き友人にはなれなかったようだ。
もっとも、こちらとしても、こんな地獄絵図を作るような友人はごめんこうむりたいところだがな。