人気者とわたし
戦斧の強化を依頼してから10日が経ちました。
この数日は採取をして手持ちの薬草を増やしたり、孤児院で子供達とお菓子を作ったりして過ごしていました。
そして今日、ガレオさん(エドガーさんの息子さんです)が訪ねて来て、依頼していたアイテムが完成したと伝えてくれました。
エドガーさんは力尽きて眠っているそうです。
ガレオさんも目の周りに深い隈をつくり、フラフラとした足取りでやって来ました。
明日工房に伺うので、今日は帰って休む様に伝えて、特製の栄養剤を2人分渡しました。
翌日、昼前にエドガーさんの工房に向かいます。
昨日ガレオさんは期待しておく様に言い残していたのでとても楽しみです。
「こんにちは」
エドガーさんの工房の横の店舗に入ります。
「おぉ、待ってたぞ! 昨日はありがとな。
貰った薬を飲んで眠ったら疲れが吹っ飛んだよ」
「それは良かったです」
「じゃあ、早速、見てくれ」
エドガーさんは店の奥の工房に声を掛けると奥からガレオさんが布で包まれた大きな物を抱えてやって来ました。
「ユウちゃん、薬ありがとな」
「いえいえ」
「さぁ、これが俺の最高傑作だ!」
包みの中身は2つ、1つは透明感のある刃と重厚な黒の柄、わたしの背丈ほどの大きな戦斧です。
銘は『水龍の戦斧』。
デザインなどはあまり変わっていませんが色が深みを帯びている感じがします。
何より、戦斧から感じる魔力が段違いです。
もう1つは靴です。
ナーガの皮や鱗を使って作られた靴は深い翠色をしています。
早速、性能を教えてもらいます。
「こいつが『水天の靴』だ。
魔力を込める事で水の上に立つ事ができるし、水中でも地上並みに自在に動く事ができるマジックアイテムだ」
「おお、素晴らしい出来ですね。
ありがとうございます」
「俺も希少な竜種の素材を扱えて楽しかったぜ」
わたしはエドガーさんに報酬を払い、戦斧を背負うと、靴を履き替えます。
サイズは事前に採寸してたのでぴったりです。
エドガーさんに別れを告げてギルドに向かいました。
軋まないスイングドアを通りギルドに入り、いつもならカウンターへ向かう所ですが今日はクエストボードの反対側のベンチに向かいます。
「お待たせしました」
「おう、待ってたぜ」
ジャギさんと待ち合わせです。
「では、行きましょうか」
わたしはジャギさんと連れ立ってギルドを出ました。
向かうのは風切羽です。
危険地帯で美味しい食堂を教えると約束しましたからね。
ジャギさんはいろいろと忙しいらしく、延び延びになってました。
「あ、ジャギさん。この間はありがとうございます」
「おう、気にすんな」
「おう、ジャギ! 昨日は助かったぜ」
「良いってことよ」
「あ、ジャギの兄貴。チィ~ス!」
「「チィ~ス」」
「おう、また悪さしてねぇだろうな」
「あ、当たり前じゃないっスか」
「あら~ジャギちゃん。その節はどうも~」
「おう、もうババァなんだから無理すんなよ」
「「「ジャギ兄ちゃ~ん」」」
「こらガキ共、暗くなる前に家に帰れよ」
なんかジャギさん、街の人達に大人気です。
「ジャギさん、お知り合いが多いのですね」
「俺はこの街の産まれだからな」
「えらく人気がある様に見えましたが?」
「なんでか、よく懐かれるんだよな?」
不思議な事もあるものです。
ジャギさんと雑談を交わしながら歩くこと10分ほどでしょうか?
風切羽に到着しました。
「ココがユウのオススメの食堂か?」
「はい。とても美味しいですよ」
ガチャ
「ありがとうございました~」
少し間延びした可愛い声を受けながら店から出て来たのはリュミナスさんとマナさんです。
「ん、ユウか? ジャギも一緒か。
珍しい組み合わせだな?」
「リュミナスか久しぶりだな。
なに、一緒に一仕事こなしたんだよ」
2人は知り合いの様ですね。
まぁ、2人とも数少ないAランク冒険者ですからね。
「まさかリュミナスもこの店に来ていたとはな。
俺もユウからオススメだと聞いてな」
「俺達もユウから聞いた。
と言うかこの店はユウが金を出してるらしいぞ?」
「え! そうなのか?」
「借金を肩代わりしているだけですよ」
「あと、このお店ではユウちゃんの故郷の料理がいくつか食べられるんですよ。
どれも本当に美味しいです。
ジャギさんも是非食べるべきですよ」
「そいつは楽しみだ」
わたしとジャギさんはリュミナス達と別れると風切羽に入るのでした。