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取引とわたし

 ガスタに戻ってから数日、宿でダラダラと過ごしていると、辺境伯家の使いの方が訪ねて来ました。


 使いの方が言う事を要約すると、『フレイド様が呼んでいる』との事です。

 はて? 何かやらかしましたかね?

 ミッシェル様の診察は数日前に行ったばかりです。


「まぁ、行けば分かりますか」


 昼食を一緒にと言っていたのでお昼前に貴族街の辺境伯邸に向かいます。


 最近少し、顔なじみになって来た衛兵さんに身分証代わりのギルドカードを提示して、貴族街への門を潜りました。


 門から真っ直ぐ、ガスタの街の中心部にある辺境伯邸は、周りにある良く言えば煌びやかな、悪く言うと成金趣味の貴族の屋敷とは違い、元は砦だった物をそのまま使っているらしく武骨で質実剛健な雰囲気です。

 正直、浮いてます。


 わたしは辺境伯邸の門の前に立つ衛兵さん(この兵士さんは辺境伯家が持つ領主軍とは別個の辺境伯様の私兵らしいです)にギルドカードを見せ、来訪理由をつげます。


「こんにちは、ユウです。

  フレイド様にお呼ばれして来たのですが?」

「はい。お聞きしております。

  お取り次ぎ致しますので少々お待ち下さい」


 2人いた兵士さんの内、若い方の兵士さんが小走りで駆けて行きました。

 暫くするとシルバさんと共に兵士さんが帰って来ました。


「ユウ様、お呼び立てして申し訳有りません」

「いえいえ、宿でゴロゴロしていただけですから」


 シルバさんに案内されて屋敷の中に入って行きました。

 

 客室で少し待った後、昼食の用意が出来たとシルバさんが呼びに来てくれました。


 シルバさんについて食堂に移動します。

 辺境伯邸の廊下には下品にならない程度に調度品が置かれ、落ち着いた空間を作り出しています。

 怖いのでそこらへんのツボとか絵画などに触れたりはしません。

 こんな高価そうなツボを投げて割ったり、他人の家のタンスを漁ったりと言った行為を平気で繰り返す者をなぜ人々は勇者と呼んで有り難がるのか理解に苦しみますね。


 シルバさんが大きなドアを開けてくれました。

 どうやらここが食堂の様ですね。

 食堂にはフレイド様とミッシェル様、ユーリア様がすでに席について、わたしを待っていてくれました。


「フレイド様、本日はお招き頂き、有難うございます」


 わたしはフレイド様にお礼を言いながら頭を下げます。

 貴族同士ならば、もっとお互いに心にも無いお世辞を言い合ったり、ありきたりな服装を褒めあったりと面倒な手順を踏むらしいですが、わたしはただの平民なので、まぁこんなもんです。


「いやいや、こちらこそ、急に呼びつける様なマネをして済まない。

 君から受けた恩を考えればこちらから出向くべきだとは思ったのだがな。

 普段、貴族を寄せ付けない様に追い払っている私が、君に頻繁に会いに行ったりしていると他の貴族にあまり良い印象を与えないからね」

「貴族と言うのはやはり大変ですね」

「はっはっは、さて、今日君に来てもらったのは以前、ユウ殿から頼まれた薬草や素材がいくつか手に入ってね」

「本当ですか!」

「あぁ、確認してくれ」


 わたしはシルバさんが持ってきてくれたトレイに乗っていた草と石を確認します。


『カヤバ草』

 単体では薬効を持たないが特定の薬と混ぜる事で薬効を高めることができる薬草。


『ムーンラビットの魔石』

 ホーンラビット希少種の魔石

 月の満ち欠けによって魔力の性質が変化する


 どちらも希少な物です。


「ありがとうございます。

  それで、おいくら程お支払いすれば良いですか?」

「いや、お金は要らないよ。

  その代わり、貸し1つでどうかな?」

「ふふふ、貴族様に借りを作るのは怖いですね」

「はっはっは、安心してくれ、この素材の代金分くらいのお願いしかしないよ」

「ふふふ」

「ははは」


 流石に一筋縄では行きませんね。

 出来ることならお金で済ませたかったのですが仕方ありません。


 わたしは借り1つで素材を受け取る事にしました。

 フレイド様なら無茶は言ってこないでしょう…………多分……だと良いな。


「さあ、食事にしよう」


 わたしとの取引に勝利して上機嫌なフレイド様に促されたわたしは、ミッシェル様とユーリア様の待つテーブル着くのでした。


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