戦技とわたし
「必っ殺! 【ナーガ切り(仮)】‼︎」
「クギィィイ!!」
わたしの必殺技【ナーガ切り(仮)】を受けたナーガの胴体は、ほとんどが切断され、ほぼ皮1枚で繋がっている状態です。
まさに虫の息です。
なぜなら、ナーガを切り、必ず殺す技だからです。
………………やはり技名がいまいちですね。
そもそも、この名前だとナーガにしか使えないと言う大きな欠点が有ります。
致命的な欠点です。
魔力の凝縮を維持するのに集中していて、あまり良い技名を思いつきませんでした。
ちゃんとした技名を考えなくては成りません。
「おお! まさか本当にあのナーガの、ウロコを断ち切るとは‼︎」
「マジでスゲー威力だな」
「取り敢えずトドメを刺しましょう」
わたしはまた、戦斧に魔力を込めて、今度は頭に向かって振り下ろしました。
えーとマグロとかだと頭の事を兜って呼ぶんですよね。それなら…………
「必っ殺! 【兜斬り(仮)】!」
なぜか守備力が下がりそうな技名になりました。
やはり、いまいちです。
それにこの名前だと頭に当てなければ失敗になってしまいます。
もちろん【魔◯斬り】も考えましたよ。
でも、それだと命中しにくそうな気がしました。
兎に角これで無事、ミリス草をゲット出来ました。
わたし達はミリス草を採取すると昨日の野営地に戻りました。
薬を調合する約束ですからね。
「所で、ザジさん達が使っていた技は一体なんなのですか?」
わたしは薬を調合しながら、気になっていた事を訪ねます。
「技?」
「戦技の事じゃない?」
「あぁ、戦技か」
「戦技ですか?」
「そうだ。アレは身体のなかで魔力を練り上げて身体能力を高めたり、魔力を飛ばして攻撃したりする技術だ。
それを俺達、魔族は戦技と呼んでいる。
聞いた話だが、お前達人間にも少数だが戦技の様な技が使える者がいるらしいぞ」
「なるほどな。それならユウのさっきの技やリゼのアレなんかは、その戦技に近いのかも知れねぇな」
「技名を叫ぶのは何か意味があるのですか?」
「あぁ、戦技には魔法の様に決まった発動式みたいな物が無い。
発動するタイミングや効果などは全て訓練とイメージによって決まる。
技の名前を決めて、確固たるイメージを持った方が失敗し難いし、発動するタイミングを決めるスイッチみたいにもなる。
例えば俺の【天脚】は脚力を大幅に上昇させる戦技なんだが、これを技名を口にすると、ほぼ無意識に脚力が上昇するイメージができる様に訓練する訳だ」
「あとは、仲間に自分がどんな技を使おうとしているのかを伝えるって意味もあるわ」
「なるほど、ちゃんと意味が有ったのですね」
「なんだと思っていたのですか?」
「いえ、技名を叫んだ方が、かっこいいからだと…………」
皆さんが冷めた目でこちらを見ています。
ぐぬぬ
翌朝、寝かせておいた薬の様子を見ます。
良し、ちゃんと完成していますね。
「出来ましたよ。モーガン病の治療薬です」
「キルト」
わたしが差し出した治療薬をアンナさんが調べます。
「間違いなくモーガン病の治療薬ですね。
それかなり高品質の逸品です。
これほどの薬は、魔王様付きの薬師でもなければ調合できないですよ」
「そうか。 ユウ、ジャギ。今回は感謝する。
お前達がいなければ俺達はミリス草も薬も手に入れることはできなかった」
「わたし達もミリス草が手に入ったのはあなた達のお陰ですからね。お互い様ですよ」
「まさか人間と協力して、戦う日が来るとは思わなかったがな」
「わたしの故郷に『呉越同舟』と言う言葉が有ります。
普段、敵対している相手であっても同じ目的の為ならば協力できると言う言葉です」
「まさに今の俺達だな。
でも、ここからは別だ。
俺達は妹の治療の為に帰るとするよ」
「はい。わたし達もそろそろ帰ります」
「じゃあな、ユウ、ジャギ」
「じゃあね」
「お世話になりました」
「さようなら、妹さんによろしくお伝え下さい」
「今度は会うのが戦場じゃない事を祈っているぜ」
「……………………」
ジャギさんが盛大にフラグを立てて、わたし達はそれぞれの街に向けて出発したのでした。