危険地帯とわたし
馬に騎乗したジャギさんとシリウスに騎乗したわたしは魔境に向かう道を進んでいます。
そう言えばガスタの職人さんにシリウスの鞍と手綱を作って貰ったんでした。
鞍と手綱があると安定するので、よりスピードを出す事ができるのです。
途中で現れたオークやゴブリンを相手にジャギさんとの連携を確認していきます。
半信半疑でしたがジャギさんは本当に強いようです。
殺傷能力の低い棍を使って複数のオークを次々に仕留めていきます。
予定の3分の2ほど進んだところでこの日は野営をする事になりました。
「うめぇぇえ!」
「ふふふ、どうです? 見直しましたか?」
「ああ! まさか野営でこんな美味い飯が食えるなんて思わなかったぜ。
特にこのギノの風味が良い。
こいつのお陰で肉の臭みが消えて口当たりが爽やかになってやがる。
ギノは辛味の強い薬草だと思っていたが、料理に利用出来るとは思わなかった」
意外とジャギさんは食が分かってますね。
今日のメニューは『オークのギノ焼き』です。
ギノは薬草の1種で、強い辛味のある球根です。
ちなみに味は完全に生姜です。
残念ながら醤油がまだ未完成なので、味付けは塩と胡椒が中心です。
胡椒はとても高価ですが、わたしの収入ならば問題なく手に入ります。
食事を終えたわたし達は、交代で見張りをしながら眠りに就きます。
デネブに見張りを任せる事も考えましたが、危険地帯に近いので、念のため交代で見張る事になりました。
翌日、朝から移動を始め、昼前に大きな崖にたどり着きました。
この崖を降りた所からはギルドで危険地帯に指定されている場所です。
この危険地帯を横断した反対側、ここからだと薄っすらとしか見えませんが反対側も崖になっていて、その崖を登った先は魔境です。
つまり、この危険地帯は魔境と辺境の境目と言うわけです。
この辺りの魔物は非常に強力であり、たとえ、ゴブリンやオークなどの見慣れた魔物であっても、その辺りに出てくるような奴と一緒にしてはいけません。
平均Dランク、場所によってはAランクやBランクの魔物が闊歩しているこの危険地帯で生き延びて来た魔物は従来の魔物より、格段に強く、狡猾なんだそうです。
「ジャギさん、これはどうやって降りるのですか?」
「この先に下まで巨木の根が張り出している場所がある。
その根を伝って下まで降りるんだ」
「根っこですか? 下まで2、300メートルくらいありますよ?」
「それくらい出来なきゃ下に降りても死ぬだけって事だ。
ユウなら問題なく降りられるだろ?」
「まぁ、降りられると思いますが……思ったより厳しいですね」
「辞めとくか?」
「いえ、行きますよ。
せっかくですし、珍しい薬草をいろいろと手に入れたいですね」
「目的の薬草はなんて言ったけ?」
「ミリス草です」
「たしか、魔力の高い水辺に生えている薬草だな。
よし、下に降りたら、崖に沿って東に進もう。
東に半日くらい進むと小川がある。
その小川の上流に大きめの湖があったはずだ」
「分かりました」
崖沿いに進むと大きな木が見えて来ました。
「大きいですね。
テッペンが見えません」
「こいつは世界樹の若木だ。
これでもまだ成長途中で、魔境にはこれより遥かにデカイ世界樹が有るって噂だ」
「凄いですね。
わたしもいつか魔境に行ってみたいです」
「ユウならいつか依頼をされるかも知れないな」
「魔境に入る依頼ですか?」
「そうだ。魔境を抜けると魔族が支配する地域がある。
奴らは俺達みてぇに街を作り、塀を立てて魔物から身を守りながら暮らしているんだ」
「え、魔族は魔物を操れるのではないのですか?」
「それは一部の力のある魔族だけだ。
魔族の大半は俺達と変わらず、街の中で身を寄せ合って暮らしている。
だが、力のある魔族、特に魔王と呼ばれる5人の魔族が中心となって邪神の言葉に従い、人間と戦っているんだ」
わたしは魔族は獰猛で人間を滅ぼそうとしている悪い奴だと思っていましたが、全ての魔族が凶悪だと言うわけではない様です。
話を聞くに、要は人間と魔族は戦争をしていると言う訳です。
今まで、魔族を見つけたら即殺だと思っていましたが、その考えは改めなければいけませんね。