虎の威とわたし
「おい、ガキが舐めてんのか?ぁあ」
もちゃもちゃ
「食事中ですよ、静かにして下さい」
「て、テメェぇえ、食うか喋るか、ハッキリしやがれ‼︎」
もちゃもちゃ
もちゃもちゃ
もちゃもちゃ
ズズー
もちゃもちゃ
「あ、スープのおかわり下さい」
「テメェ! このクソガキが!
舐めてんだろ! 舐めてんだな!
おい‼︎」
「あなたが食べるのか喋るのかどっちかにしろと言ったのですよ?」
「テメェ……」
「もう良い……おい、お嬢ちゃん。
お兄さん達はこれから大人のお話をしなくちゃいけないんだ。
それ、食ってて良いから静かにしてろ」
「いえいえ、おじさん達に店主さんが言い掛かりを付けられている様にしか見えませんでしたよ」
「お嬢ちゃんはまだ子供だからわからねぇんだよ。
お兄さん達は大事なお話をしているんだ」
「でもおじさん達は借金取りですよね。
さっきもあの女の子を売り飛ばすとか言ってましたし、やっぱりおじさん達は、悪いおじさんなんじゃないですか?
ねぇ? おじさん?」
「って、テメェ、わざとやってんのか、ぁあ!
俺はまだ20代だ!
おじさん呼ばわりすんじゃねぇ、クソガキ!」
「では貴方もわたしをガキ呼ばわりしないで下さい。
わたしは今年で(公称)15です」
「はぁ⁉︎ 嘘つくんじゃねぇ!」
「はぁ、もう良いです。
スープのおかわりが来たら帰って下さいよ」
「兄貴、このガキ、マジムカつくんっスけど」
「ちっ、無視だ無視! おい、店主、金か娘、どっちか寄越せ」
「な、ぐぅ、金を払う、払うから待ってくれ」
「待てねぇ、ってんだろ!
今日払えねぇなら娘を貰ってくぞ!」
「お金を払えば良いのですか?」
「あぁ! またテメェか! 引っ込んでろ! それとも何か? テメェがこいつの代わりに払うとでも言うのか?ぁあ?」
「良いですよ」
「「「は?」」」
「わたしはこのお店が気に入りましたからね。
わたしがこのお店の負債を買い取りましょう」
わたしは3枚の硬貨を取り出し、1番偉そうな奴に投げ渡しました。
「あぁ、テメェ、やっぱ舐めてんな。
15枚だって……言って……ん……だろ……」
「え、あ、兄貴、こ、これって」
「は、白金貨ってヤツじゃないっスか?」
「どうかしましたか? 足りませんか?」
足りない筈はありません。
白金貨は金貨の10倍の価値が有ります。
つまり100万円玉、それが3枚です。
わたしはもう一枚、辺境伯家の家紋が入ったメダルを左手の指の間でコロコロ転がします。
それを見た借金取りAと借金取り兄貴は顔から血の気が引いています。
流石は辺境伯家の家紋です。
気分はちりめん問屋のご隠居です。
虎の威を借る狐の様ですが、あれは狐が卑怯なのでは有りません。
狐が賢いのです。
それにこうして、わたしが辺境伯家との繋がりをアピールするのは辺境伯家にとっても利があるのです。
わたしと辺境伯家の繋がりに気付き顔面蒼白になっている2人ですが、借金取りBはそんな2人に気づきもしていません。
ニヤニヤしながら近づいてくるとわたしの髪を鷲掴みにして、ナイフを取り出しました。
「おいおい、お嬢ちゃん、どこの大商人の娘か知らねえが俺達みたいなのにそんな大金見せちゃいけないな。
持ってるもん、全部出して貰おうか?」
「ば、馬鹿、そのガ……お嬢さんを離せ」
「おいおい、マジか、勘弁しろよ!」
「あ、兄貴、こいつの親に金を払わせましょうぜ」
「馬鹿、テメェっ馬鹿!」
「早く離せ! 謝れ! 馬鹿!」
「は?」
ドゴォ
わたしの蹴りを食らった借金取りBは店の反対側まで吹き飛びました。
もちろん店を壊さない様に手加減したのです。
「う……ぐっ、何が……」
借金取りBが上半身を起こした所でわたしは身体強化を使い、状況を理解できてない馬鹿の横に一足で移動します。
特に鍛えている訳でもないチンピラには瞬間移動の様に見えていたでしょう。
わたしは移動すると同時に水魔の戦斧を借金取りBの両脚に振り下ろし、皮1枚と言った所で止めます。
ズボンは切れているけど、肌は切れてない、ギリギリの所です。
「………………次、舐めた真似をすれば脚を貰いますよ」
借金取りBはガタガタ震えるだけで何も言いません。
わたしが借金取り兄貴を睨み付けると慌てて頭を下げ始めました。
「ま、待ってくれ。俺達が悪かった。
まさかあんたが辺境伯家の関係者だとは思わなかったんだ。
もうこの店には手出ししない。
金も返す。だから許してくれ」
「お金は返す必要は有りません。
その代わり、この店の店主さんが契約した証文を置いて行って下さい。
貴方達から証文を買い取るのだから、この店は、わたしから借金をしている事になります。
わたしがお金を貸しているお店に妙なちょっかいを掛けたらどうなるか分かってますよね」
借金取り兄貴と借金取りAは無言で何度も頷くと、未だ放心している借金取りBを引きずって帰って行きました。
「じょ、嬢ちゃん……」
わたしは戸惑いながら声を掛けて来た店主に、優しく告げます。
「スープのおかわりをお願いします」