リゼさんとわたし
身体強化で一気に間合いを詰め、手始めに突きを繰り出しました。
わたしの全力の突きを身体を僅かにずらすだけで躱したリゼさんは、木剣を持っていない左手で、突きを放ち伸びきっていたわたしの腕にそっと触れました。
ヒュッ
「がっは!?」
次の瞬間わたしは背中から地面に叩きつけられていました。
何が起きたのか分かりません。
いえ、リゼさんに投げられたのだと思いますが、腕に触れられたと思った瞬間叩きつけられていたのです。
「ゴホ、ゴホッ」
急いでリゼさんから距離を取ります。
リゼさんは離れるわたしを追う事はなく、初めと同じ様に、だらっと立って居ます。
リゼさんの様子を観察したわたしは認識を改めました。
これは全力で戦う必要が有ります。
わたしは短剣と戦斧を持ち替えます。
「あら、クイックチェンジかしら?
練度もなかなかね」
「行きます!」
わたしはリゼさんの右手側に回り込む様に走ります。
そして手にしていた戦斧をリゼさんに向けて思いっきり投げつけました。
リゼさんが右手の木剣を軽く振ると、わたしが投げたエネルギーを全く損なわないまま軌道が変わり、リゼさんの後ろの地面に突き刺さります。
リゼさんが木剣を構え直す前に畳み掛けます。
クイックチェンジで右手にスノーホワイト、左手にシンデレラを召喚し斬りかかりました。
右上からの振り下ろしを躱されますが、振り下ろした勢いのままに身体ごと回転しシンデレラを叩き込みます。
しかし、これも木剣であっさりと受け流されてしまいますが、わたしはスピードを緩めず攻撃を放ち続けました。
ですが、なんとリゼさんは魔力が込められた戦斧の連撃を木剣で捌き続けます。
リゼさんの木剣は魔力を込めている訳でも無いのにキズ一つ付く事も有りません。
氷属性魔法で創り出したわたしの頭位の氷塊に、刃に炎を灯したシンデレラを打ち込みます。
とたんに辺り一帯に大量の水蒸気が充満しました。
これで視界は奪った筈です。
リゼさんにナイフを3本投擲し、ナイフを投げた位置から少しズレて走り寄ります。
ナイフが叩き落とされた音を聞きながら、双斧を上段から振り下ろし、躱された所を切り上げます。
しかし、これも木剣でいなされてしまいました。
なぜ完全に死角から斬りかかったのに躱されたのか、理解出来ません。
リゼさんは攻撃をいなされ、戦斧を振り上げてしまっているわたしに木剣を振るいます。
すると、しっかりと握っていた筈の双斧が手の中から消え、宙に舞っています。
「ハハ……」
一振りしかしていないのにどうやって両手に持っていた戦斧を搦めとる事が出来たのか……あまりの技量の差に笑いが込み上げてきました。
しかし、諦めません。
諦めが悪いのはわたしの良いところです。
わたしは双斧を失った手に魔方陣が現れ、次の瞬間には戦斧を振りかざしていました。
旅の間、シルバさんから教わった召喚魔法の一つアポーツです。
この魔法はあらかじめ魔術刻印を施しておく事で、視界の範囲内ならどこに有っても手元に召喚できる便利な魔法です。
完璧なタイミング。
リゼさんは木剣を振り切っているので切り返しは間に合いません。
「な!」
「ふふふ、惜しかったわね」
なんと、リゼさんは左手で戦斧の刃の直ぐ下の柄を受け止めたのです。
最早、人間技では有りません。
「リゼさん。あなた人間ですか?」
「失礼ね。正真正銘の人族よ」
わたしは戦斧を手放し距離を取ります。
さて、どうしたものですか。
正直、勝つのは不可能です。
実力に差があり過ぎます。
リゼさんは今だに戦い始めてから一歩も動いていないのです。
更に魔法どころか、魔力強化すら使わずに、わたしの全力の攻撃を剣技のみで防いでいるのです。
強さの次元が違います。
「さぁ、ユウちゃん。
そろそろ終わりにしましょうか」