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薬師と私

 2年前の事だ。

 まだ、11歳だった娘が足が痛いと言いだした。

 娘の足には砂の様な出来物ができていた。

 虫にでも刺されたのだろうと軽く考えていたが、砂の様だった出来物は直ぐに石の様になり、一年も経つと娘の両足は石に覆われ、立つことさえ出来なくなった。


 私は王国中の医者に相談した。

 学院時代の友人である現国王陛下に頼み、王宮医師にも見て貰った。

 しかし、誰も原因すら分からなかったのだ。


 しきりに妹を心配する長男を学院へと送り出した私は、腕が立ち、信頼出来る執事であるシルバに大陸の国々を回り、娘の病について調べる様に命じた。

 シルバは各国を回り、懸命に調べてくれたが成果はなかった。


 そんな時、学院にいる息子から手紙が届いた。

 手紙には近況報告と学院で出来た友人に協力して貰い、妹の病について調べている事などが書かれていた。


 そして友人の1人はあのレブリックの才女らしい。

 彼女の計らいで最近ようやく交流が始まったばかりの東方の島国へと行ける事になった。

 

「シルバ、戻ったばかりで済まないが東方の島国へ行ってくれないか?」

「お任せください、旦那様。今度こそユーリアお嬢様の病を治す方法を見つけて見せます」

「うむ、それと東方の島国は大陸の端の更に先だ。ガストの街からでは従魔を召喚出来ないかも知れない。

  コレを持っていけ」


 私は自分のマジックバックから召喚魔法の補助魔方陣を刺繍した絨毯をシルバへと渡した。

 この魔方陣と触媒を用いる事で遠方からの召喚が可能になる……らしい。

 私自身は召喚魔法が使えないので使ったことはないのだ。

 なんでも私の曽祖父が作らせた物らしく宝物庫に転がっていた。


 シルバを送り出して数ヶ月が過ぎた頃私の元にシルバの従魔が飛んできた。

 従魔の足に付けられた器具から手紙を外した私は、従魔を使用人に任せ、手紙に目を通した。

 しかし、手紙には期待していた言葉は書かれていなかった。


 東方の島国の医師や薬師達にも娘の病を治せる者はいなかったのだ。

 シルバからの手紙は泣きながら書かれたのか所々インクが滲んでいた。


 娘が多くの人々に愛されている事を誇りに思う。

 最早、この大陸に娘を治せる者は居ないのだろう。

 後はせめて最後の時まで幸せに過ごして貰いたい。

 私はシルバからの報告を妻に伝え、2人で涙を流すのだった。

 くれぐれも娘の前では涙を見せない様に。



 それから3カ月が過ぎ、そろそろシルバが戻って来る頃だと思う。

 私の元に戻ったのはシルバでは無く、シルバの従魔だった。

 戻って来るだけの旅でなんの報告が必要なのかと疑問に思いながら手紙を読むと、私は不覚にも崩れ落ちそうになった。

 なんとシルバの弟がギルドマスターを務めるガナの街に最近、魔法遺跡の事故で大陸の外から転移して来た者が居るらしい。


 しかも、その者は非常に腕の立つ薬師であり、娘の病を治せるかも知れないと言う。

 余りに都合のいい展開に疑う気持ちが無かった訳ではないが、藁にも縋りたい思いとシルバへの信頼で、信じる事に決めた私は手紙に同封されていた治療に必要になる可能性の有る素材を集める為、使用人に指示を出すのだった。


 手紙を受け取ってから数日、シルバが戻ってきた。


「良くやってくれた、シルバ」

「いえ、全て弟が計らってくれたからです。

 それに治せるかはユーリアお嬢様を診て貰わないと分からないそうですから」

「あぁ、分かっている。しかし、今まで全く手がかりが無かったのだ。

 少しばかり興奮してしまうのは仕方ないだろう。

 それで、薬師殿は応接室だったな」

「お待ち下さい旦那様」

「ん、どうした?」

「それが薬師のユウ様なのですが過去に何が有ったのか分かりませんが貴族に対して余り、良い感情を持っていない様なのです。

 私と弟の説得で旦那様が横暴を働く様な貴族では無いと分かって頂けましたが、交渉にはお気をつけください」


 残念な事だが貴族の中には特権意識ばかりが高く、護るべき民を搾取の対象としてしか見ていない様な愚か者が多く存在する。

 恐らくそう言った貴族から何か迷惑を掛けられたのだろう。


「分かった。怒らせない様に慎重に接するとしよう。

  もし、怒らせて治療して貰えなかったら大変だ」

「いえ、当然、治療もそうですがユウ様は冒険者としても非常に腕の立つ方ですので……」

「……そんなにか?」

「はい。彼女はガナの街の近くに現れたゴブリンロードを単独で討伐しています。

 旅の間の戦闘を見た限りですが、少なくとも私程度では手も足も出ないでしょう」

「ゴブリンロードを単独か……まだ若いと聞いたが末恐ろしいな」

「性格は非常に優しく、善良なのですが盗賊などには容赦がなく、躊躇なく殺していました。

 こちらが礼を尽くして接すれば問題は無いと思います。

 それと、身長が低く年齢にしては幼い顔立ちをしていますが、ユウ様の国の方々はそういった人種らしいので年齢などには触れない方が賢明だと思います」

「わかった。では薬師殿に会いに行くとするか」


 こうして覚悟を決め会いに行ったユウ殿は丁寧で礼儀正しく、優しい少女だった。

 そして、薬術の腕前は予想以上だった。

 まさか、大陸中の医者が匙を投げる病を僅か10日で完治させるとは驚きを隠せない。

 治療が終わった日には街を上げたお祭り騒ぎになった。

 少し調子に乗りすぎたらしく、翌日ミッシェルの説教を受ける事になる。

 

 昼も過ぎ、ようやく解放された私は酒が残り、少し痛む頭を振りながら王都に居る息子に手紙を書くのだった。

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