ガスタの街とわたし
「これからしばらくこの街で活動します。Dランク冒険者のユウです。
よろしくお願いします」
「あら、私は見ての通り、この街の冒険者ギルドの職員よ。リゼって呼んでね」
リゼさんはひらひらと手を振ってそう言った。
左手側には果実水、右手側にはクッキーの入った皿。
だらけた態度と言い、彼女はあまり真面目な職員さんではなさそうです。
「はい。リゼさん」
「貴方みたいに強い冒険者は大歓迎よ。
早速何か依頼を受けてくれるのかしら?」
「いえ、すみません。今は依頼を受けているので、その依頼が終わってから次の依頼を受けようと思います」
「あらそうなの?良かったらギルドカードを見せて貰っても良いかしら?」
「はい。良いですよ」
わたしはリゼさんにギルドカードを渡しました。
リゼさんはわたしのギルドカードを水晶盤に乗せ何やら確認しています。
「なるほど、貴方がユーリア様の治療の為に呼ばれた薬師だったのね」
「はい。ユーリア様の治療が終わるまでは他の依頼を受けるつもりはありません」
「それは構わないのだけれど、貴方が来たら呼ぶように言われているのよ。
悪いけど付いて来てくれる?」
「別に良いですけど誰が呼んでいるのですか?
ギルドマスターとかですか?」
「えぇ。代理だけどね」
わたしはリゼさんの後に着いてカウンターの奥の階段を登り、ギルドマスターの執務室に向かいました。
コンコン
「フューイ代理、例の薬師の子が来たわよ」
「入って下さい」
入室の許可を貰い部屋に入ります。
部屋の中には山の様な書類に次々とサインを入れたり、指示を書き付けたりととても忙しく働いている男性が居ました。
「すみません。もう少しでキリの良い所まで片付くので座ってお待ちいただけますか?
リゼさんお茶をお願いします」
「え~お茶ぐらい自分で入れてよ」
「私のではなく彼女の分です」
「分かったわよぉ」
随分とフランクな組織ですね。
「フランクなのはリゼさんだけですよ。まったく」
顔に出ていたようです。
ギルドマスター代理はため息を吐きながらわたしの正面に腰を下ろします。
「初めまして、ガスタの街の冒険者ギルド、ギルドマスター代理をして居ますフューイです」
「ユウです。Dランク冒険者です。
あの、ギルドマスター代理と言う事はギルドマスターは出張中か何かですか?」
「はは、それなら良かったんですけどね。ただのサボりですよ。サボり。
余りにもサボるので普段は私が代理としてギルドを回しているのです」
「なんでそんな人がギルドマスターなのですか?」
「強いからですよ。
ここはいつ強力な魔物や魔族が攻めて来るかわからない場所ですからね。
ギルドマスターとして必要な物は圧倒的な武力です。
平時の執務は私達下の者が支えればいい、そう思ってギルドマスターになって貰ったのですが、ここまでサボりまくるとは予想外でした」
「あら代理、陰口?」
「そんなんじゃ有りませんよ」
リゼさんがお茶を持って来てくれました。ポットとティーカップを2つトレイに入れ、片手で器用に持っています。
リゼさんはわたしの隣に座るとティーカップを1つわたしの前に置き、もう1つのカップを自分の前に置きました。
「……リゼさん、私のお茶は?」
「あら、私はユウちゃんにお茶を入れてあげる様に頼まれたのよ?」
「……そうでしたね」
フューイ代理は執務机に置いてあったカップを取って来てポットから自分でお茶を入れました。
中間管理職の哀愁を感じます。
「さて、こうしてお呼びした訳ですが、実は特に用があった訳ではないのですよ。
ガナの街のギルドマスターのゴルドさんから強く優秀な冒険者で有ると聞いていましたからね。
出来れば、この街に留まって頂きたいと思いましてご挨拶しておこうとおもったのです。
もちろん、あくまで『出来れば』であり、冒険者で有る以上その自由を奪う様な真似はするつもりはありません」
「なに長々と語ってるの。
代理はいつも話が長いのよねぇ」
「リゼさん……はぁ~、まぁ、そうですね。これからもよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
お茶をご馳走になった後、ギルドを出て武器屋に向かいました。
しかし、武器屋の品揃えはガナの街とあまり変わりません。
ギルドが提携している武器屋ですし、チェーン店の様な物でしょうか?
やはり、良い武器を手に入れるには自分で良い武器屋を探さねばなりませんね。
もうすぐ暗くなる時間なので領主邸に戻る事にします。




