剣とわたしと条件
「あの……その……わ、悪かったわ」
流石のリゼさんも居心地が悪そうに謝罪の言葉を口にしました。
「ん?ああ、別に責めるつもりは無いよ。
君が母を倒さなければ多くの被害者を出していたかもしれないからな」
サーリスさんは少し悲しそうに語り始めました。
「あの時、母は正気を無くしていたんだ。
何故、正気を無くしてしまったのかはわからない。
だが母は押しとどめようとする俺と俺の姉を振り払い、ミルミット王国に向かったんだ。
すぐに後を追うつもりだったんだが、予想以上に大きなダメージを受けてしまった上、龍仙境の周囲に複数の強力な魔物が現れてしまって、俺も姉も此処を離れる事が出来なかったんだ」
「それでミルミット王国にエンシェントドラゴンが現れたのですか」
「そうだ。母は人間が好きだった。
だから正気を無くして人間を殺してしまう前に止めてくれた事に感謝している」
リゼさんは言いづらそうに告げます。
「その……私、エンシェントドラゴン……あなたのお母さんの素材で作った武具を持ってるんだけど……その……返した方が良い?」
「そうなのか?少し見せてもらっても良いか?」
サーリスの頼みに頷いたリゼさんは、マジックバッグから一振りの剣を取り出しました。
エンシェントドラゴンの素材で作られたその剣はかなり強力な力を持っている武器のようですね。
サーリスさんは剣を受け取るとしばらく眺めて、リゼさんに返します。
「この剣はリゼッタが持っているといい」
「でも……」
「母の亡骸を素材に武具を作る事に不満は無い。コレを見てくれ」
サーリスさんはバンデットウルフを倒した時に使っていた槍をわたし達に見せました。
「この槍は俺の父の亡骸を素材にして作った物だ。
死した父の身体は槍に姿を変え、魂は槍に宿り俺を護ってくれている。
母の魂もまた、その剣に宿ってリゼッタを護ってくれるだろう」
龍族の生死感ですか……死んだ後も武器として魂が残る。
流石にその感覚をわたしがちゃんと理解する事は難しいですが、まぁ分からなくは有りません。
「でも、それならやはりこの剣はあなたが持つべき物なんじゃないの?」
「いや、その剣はリゼッタと共に在る事を望んでいる気がする。何となくだがな」
サーリスさんはそこで言葉を切ると仕切り直す様に口を開きます。
「それで…………2人はなんで魔境の奥までやってきたんだ?」
「えっと……」
わたしは勇者であるアーサーさんが置かれている状況や最近の魔族の動きをサーリスさんへ伝えました。
そして彼に協力を頼みます。
彼の母親はエンシェントドラゴン、つまりエンシェントドラゴンは龍族だったのです。
ここ龍仙境には他にもエンシェントドラゴンが居るかも知れません。
「協力しても良い」
「本当ですか!」
「ただし条件がある」
「条件とは?」
「漆黒のユウは腕の立つ薬師だと聞いた。
今、龍族の間で流行している病を治療して欲しい」




