龍族とわたしと母親
「龍族……此処に居る人達はみなさんドラゴンなのですか?」
「ドラゴン……まぁ、そうだな。
厳密に言うと魔物であるドラゴンと龍族は別物なんだがな。
ジャイアントエイプと人族くらい違う」
そう言うとサーリスさんは大きなドラゴン……いえ、龍へと姿を変えます。
「続きは私の家で話すとしよう。背に乗ると良い」
わたし達が乗りやすい様にサーリスは身を屈めてくれます。
「では失礼します」
「お願いね」
わたしとリゼさんはサーリスさんの背中に乗せて貰うと、サーリスは翼を広げ高台から飛び立ちました。
活気のある街の上を飛び、家が疎らに立つ一帯にはいると速度を落とし、一軒の家の前に降り立ちました。 わたしとリゼさんが背中から飛び降りると、再び人の姿になったサーリスさんが家の扉を開けてわたし達を迎え入れてくれました。
「適当に座っていてくれ。今、茶を淹れる」
「…….えっと、お構いなく」
椅子に腰を降ろしたわたしとリゼさんにサーリスさんは綺麗なティーセットで紅茶を淹れてくれました。
「あの……色々と聞きたい事はあるのですが、あの龍の姿が本来の姿なんですよね?」
「そうだ。この人の姿には魔法で変身している」
「なぜわざわざ変身して生活をしているのですか?」
「そうよね。龍の姿の方が強いし、飛べるし便利なんじゃないの?」
わたし達の疑問にサーリスさんは簡単に答えてくれました。
「この街には結構な人数が居ただろう?
本来の姿では大人は5メートル以上、大きい者なら10メートル近い者も居る。
この姿の方がコンパクトだろ?
龍の姿で街なんて造ればどれ程の広さが必要か分からんからな」
思っていたより大した理由では有りませんでした。
いえ、彼らからすれば大きな理由なのかも知れません。
「リゼッタの言う通り龍の姿の方が強いが、この辺りは俺の様に戦闘訓練を積んでいる者でなければ危険な魔物がわんさかいるからあまり外に出る事はない。 それなら何かと器用な人型の方が便利なんだ」
どうやら彼らは人の姿を気に入っている様です。
部屋の様子からうかがえる暮らしぶりも人とそう変わりません。
「それにしてもこの街は不思議ね。
ずっと魔境の奥で暮らしていたのに驚くほど人間と似ているわ。
このティーセットなんて帝国茶器とそっくりよ」
リゼさんがティーカップの柄を見つめながら言いました。
帝国茶器は花や蔦などをモチーフにした繊細な模様が特徴のグリント帝国の名産品で、大陸中にコレクターがいる一品です。
サーリスさんのティーセットもその特徴とよく似ています。
「そりゃそうだ。このティーセットはグリント帝国で買った物だからな」
「「 え? 」」
「もともと龍族は好奇心の強い種族で新しい物や珍しい物が好きでな、人間の国にも時々物見遊山に出かけている者も居る。
人間達には気づかれてないようだがな。
この街も始めは、1人の龍族が人間の真似をして趣味で作ったモノらしい。
それに、俺もかつては人間の国で冒険者をしていた事もある」
なんと、どうやら龍族はわたしの予想以上に人間の国々の事情に詳しい様ですね。
「君達の噂も聞いた事がある。漆黒のユウと至高のリゼッタだろ?
特にリゼッタには1度会いたかったんだ」
「私に?」
「ああ、君はミルミット王国に迫ったエンシェントドラゴンを討伐しただろ?
あのエンシェントドラゴンは俺の母親なんだ」
「「 え⁉︎ 」」




