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職人とわたしと報酬

「このっ大バカ野郎!俺達を焼き殺す気か!」


 紅蓮の濁流が止み、周囲に焦げ臭い空気が充満するなか、セシルさんの怒号と拳骨がリゼさんにクリティカルヒットをかまします。


「痛っ、ちゃんと洞から外に向かって攻撃したじゃない!」

「アホ!お前のバカみたいな魔力で、もし世界樹が燃え上がったらどうすんだ!」

「その辺はちゃんとコントロールしているから平気よ」


 わたしは、リゼさんにマシンガンの如くお小言を言い放つセシルさんと、両手を耳に当てて聞こえない振りをしているリゼさんを視界の端に捉えながら、洞の中央よりやや出入り口側に落ちている黒い塊を観察しています。

 よくよく見てみれば、その黒焦げのグレートモスがまだ生きている事が分かりました。

 まさかあの炎を受けて瀕死とは言え命があるとは驚きです。

 しかし、生きてはいますが、まさに虫の息です。蛾だけに……。


 羽は燃え尽きたのか胴体しか存在せず、6本有った脚は3本しか残っておりません。

 

「ギョ……ギョエ……」


 わたしが近くに行くと残った脚を振り上げて威嚇して来ます。

 可哀想ですからトドメを刺して楽にしてあげましょう。


 周囲に光り輝く鱗を作り出したわたしは、愛用の戦斧を振り上げました。


「【黒燐】」


 意識を集中させて、魔力を凝縮した光の鱗の属性を変えて行きます。

 すると次第に光の鱗が黒く染まり始めました。


 数枚程度なら、あまり時間をかける事なく深淵属性へと変換出来るのですが、周囲の光鱗全てとなるとかなりの時間が掛かります。

 時間を掛けて作り出した黒燐を全てピリオドの刃へと集約し、深淵属性の魔力の層を形成して行きます。


 以前カメレオンっぽい魔物に使った不完全な物では有りません。

 時間は掛かりましたがわたしが目指している完成形です。

 しかし、魔力の操作に時間が掛かり過ぎますね。


 こんな場合でもなければ、戦闘中に悠長に大量の黒燐をつくる事など出来ません。


「【龍装:黒龍戦斧】」

「ギョ、ギョエ……」


 少し可哀想だと思わなくも無いですが、これが自然の摂理、弱肉強食ってやつです。


 破壊の力を凝縮した戦斧の一振りは、黒焦げになって尚、生き長らえていたグレートモスの命を完全に断ち切ったのでした。






「こいつが報酬の世界樹の果実だ」


 セシルさんが木箱に入った木ノ実を1つ取を出してわたしに手渡してくれました。


 グレートモス討伐の翌日、セシルさんに呼び出されたわたしとリゼさんは報酬として世界樹の果実を受け取ったのです。

 

「今回は本当に助かった。

 俺達だけでは火力が足りず逃げられてしまうところだったからな。ありがとな、ユウ」

「…………ちょっと、私は?」

「俺はお前に殺されかけたんだぞ?」

「死んでないじゃない!」


 また、始まりました。

 どうやらリゼさんとセシルさんはいわゆる喧嘩友達ってやつみたいです。


 神聖樹のお茶を頂いて2人のじゃれ合いを生暖かい目で見守ります。


「そうだ、ユウには解毒の報酬も渡さなければな。なにか欲しいものはあるか?」

「欲しい物ですか……」


 何でしょう?

 お金や素材は特に必要はありません。

 その他で何か……あ!


「ではテーブルや椅子などの家具を譲って欲しいです」

「テーブルや椅子?」

「この部屋もですがこの里にある家具はどれも洗練されていて、落ち着きと優雅さのある素晴らしい物です。それを譲って頂きたいのです」

「彼らハイエルフは、私達に比べて途轍もなく長い寿命を持っているからね。

 ハイエルフの職人には、人間などの短命種では到達出来ない技術の深奥に至った者も少なくないわ」


 リゼさんの説明に納得します。

 確かに何百年も技術の練磨を続けて来たハイエルフの職人さんに、せいぜい数十年程の経験しかない人族の職人さんで比べれば、相当な天才でもない限り、ハイエルフの職人さんの方が勝るでしょう。

 まぁ、種族が違うのですから、そもそも比べる事自体が職人さんに失礼ですね。


「わかった。

 知り合いの職人に用意させよう。

 この部屋家具を作った職人だ。

 用意ができるまで2、3日待ってくれ」

「わかりました」


 わたしがセシルさんに答えるとリゼさんがすくっと立ち上がりました。


「じゃあ、ユウちゃん。

 その家具が出来るまでの間に里を見物しに行きましょうか?」


 わたしは、リゼさんに腕をガッチリとホールドされて外へと引きづられて行くのでした。

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