目的地とわたしと世界樹
「集落ですか?」
「ええ、その集落に世界樹があるのよ」
夕食の用意をしながらリゼさんに目的地の話を教えて貰いっています。
毎回、この時間はリゼさんの講義タイムです。
リゼさんには、いろいろな事を教わって来ましたが、今までは魔境の環境や魔物、戦い方などを優先して教えて貰っていました。
しかし、そろそろ目的地が近いと言う事で世界樹があると言う場所について教えて貰っていました。
「魔境の集落と言うと魔族ですか?」
「違うわ。
人間からは、魔境の中には魔族がひしめいている様なイメージをされているけど、魔族は魔境の中でも比較的安全な場所を切り開いて街を作っているのよ」
「ああ、そう言えば前にジャギさんがそんな事を言っていましたね」
わたしは以前共に危険地帯に行った世紀末風味の善人の顔を思い出しました。
リゼさんと会話しながらも謎のカメレオン肉を使った青椒肉絲風の炒め物を手早く仕上げて行きます。
鳥(っぽい魔物)出汁に醤油と砂糖を投入した特性ソースが食欲をそそります。
本来なら魔物が溢れる魔境でこんなに匂いの強い料理などナンセンスですが、休息中にはリゼさんが気配を抑えずに居るので、大抵の魔物は近寄りません。
天然魔物コナーズです。
まぁ、数日に1度くらいはリゼさんの気配にも気にせず襲い掛かるクラスの魔物が現れますが、大体リゼさんに瞬殺されます。
ですが、偶に現れるそこそこ弱め(リゼさん基準)の魔物の場合はわたしが戦う事になります。
今回の仕事はわたしの修行も兼ねていますので仕方ありません。
閑話休題です。
「魔族ではないならその集落には誰が住んで居るのですか?」
「ハイエルフよ」
「ハイエルフですか⁉︎」
ハイエルフとは人間よりも妖精や精霊に近い種族だと聞いた事が有ります。
彼等は滅多に人と前には姿を現さないらしく、わたしもあった事は有りません。
ハイエルフと他の種族の混血が進み、エルフに成ったと言う噂も聞きました。
人間種族や魔族とは比べ物にならない魔力と、1000年を越える長大な寿命を持つ謎の種族です。
「世界樹にはハイエルフが居るのですか?」
「そうよ。
彼等は世界樹の周りに住んでいるの。
1度だけ行った事があるわ。
もう結構前の事だから、かなり場所は変わっているでしょうけどね」
「場所が変わってる?
世界樹は動くのですか?」
わたしは、頭の中で根っこを足の様に動かして器用に歩く巨木をイメージしました。
「木が動く訳ないでしょ」
「トレントは動きますよ?」
わたしの鋭い指摘にリゼさんはぐうの音も出ません。
「…………世界樹は動かないわ」
「では?」
「動くのは世界樹が生えている場所よ」
「地面が動くのですか?」
「いいえ、世界樹が生えているいるのはガイアトータスと言う亀の背中なの」
「…………亀……ですか」
「そう、とてつもなく巨大な世界樹は、とてつもなく巨大な亀の背中に生えているの」
世界樹は若木でもてっぺんが見えないくらいの巨木です。
その成木とハイエルフの集落を背中に乗せた亀ですか…………デカ過ぎますね。




