霊薬とわたしと後遺症
「コレが聖天使の霊薬か」
イナミさんは小瓶に入った窓から入る日差しに翳して揺らして見せました。
「はい、精神的な異常を正常な状態へと戻す効果が有ります」
わたしが預かっていた魔法陣で連絡した翌日、イナミさんがお店にやって来たのです。
「ランスさんは現在何処にいるのですか?」
「ん、ああ、今は……」
言葉を切ったイナミさんは此処では無い何処かへ視線を遣りました。
多分、魔法的な力でランスさんの現在位置を調べているのでしょう。
「今はロックス王国の端、エイバ森林国との国境近くの街に居るな。
封印もなく問題なく発動している」
「そうですか」
「では俺は今からランスロットに薬を届けに行ってくる」
「そのままゼラブル王国を出るのですか?」
「ああ、もうあの国に居る理由が無いからな。いつまでも公爵家に居候するのも悪いしさ」
「何処かに腰を落ち着けたらいいじゃないですか?」
「一応、マーリンの修行の為に逃げているって設定だからな」
「……設定なんですか?」
「まぁな」
イナミさんはリリが入れてくれた薬茶で舌を湿らすと話を続けました。
「実際には俺はあまり一ヶ所に長く留まる事が出来ないんだ。
邪神を封印した後遺症って感じでな。
俺の存在は周囲の精霊に悪影響を与える。
と言っても俺の近くだと居心地が悪い程度の物らしい。
だが、精霊が離れると空気が淀み、土地が痩せ、水が枯れる。
マーリンを育てる為に数年定住した人里離れた土地もだいぶ影響が出ていて、回復には5年近くは掛かるだろう」
「封印の後遺症ですか」
「ああ、因みに不老不死も後遺症の一つだぞ」
イナミさんは特に気にした様子はなく言ってのけましたが、彼はもう何百年も世界各地を放浪しているという事ですか。
物語に出て来る世の権力者と言うのは古今東西を問わず不老不死を求める物です。
しかし、様々な作品に登場した不老不死の存在が幸福な人生を過ごしているなんて事は滅多に有りません。
イナミさんにも表に出さない苦労や悲しみが有るのかも知れませんね。
イナミさんは薬茶とお茶菓子に出したミーナさんの新作であるきな粉と黒蜜がたっぷりと掛かった心太を平らげるとヒラヒラと手を振りながら帰って行きました。
わたしは応接室のソファで1人、大きく伸びをします。
「う〜ん、ようやく大仕事が片付きましたね」
イナミさんからの仕事は得るものが大きい仕事でした。
当初の約束通り、彼から譲り受けた希少な素材の数々。
コレらで何を作りましょうか?
どれも強力で滅多に手に入らない逸品ですから悩みますね。
「そうだ!」
ふと思いついた物が有りました。
『癒しの雫』と言う強力なポーションを作ろうと思います。
癒しの雫は物理的な傷だけで無く、病気や呪いにも強い抵抗力を与える万能薬です。
コレを2人分、他の素材は店に在庫が有りますし、不死鳥の尾羽が1枚有れば十分作れます。
コレをアルさんとコゼットさんの婚約のお祝いに贈り物をしようと思ったのです。
わたしは応接室を出ると倉庫にしている部屋に向かうといくつか有る金庫の鍵を開けました。
この金庫には希少性の高い素材がしまってあります。
他の金庫にはお金をしまっていたり、取り扱いに注意が必要な危険な薬草や魔物素材を保管していたり、あとは武器の類いも有ります。
イナミさんが持ってきた素材はわたしのアイテムボックスに入れていますが、癒しの雫の素材には竜種の血や世界樹の新芽などの希少な素材が必要です。
わたしは素材の数が十分に足りている事を確認して満足げに笑みを浮かべるのでした。




