許可とわたしと軟膏
「父上と義父殿が許可を?」
「ああ、大きな理由は二つ有る。
一つ目は政治的な理由だ。
国交がほとんど無い国の貴族との婚約だからな。こう言ったストーリーがあった方が民に受け入れられ易い」
レオパルト公爵がフレイド様の言葉を引継ぎます。
「もう一つは金銭的な理由だな。
劇のモデルとなった君達にはこの台本が使われる事で商業ギルドを通じて定期的にお金が入る契約になっている。
ユウ殿への報酬の支払いも有るのだろう?
アルベルト殿が私達を助ける為にコゼットに協力してくれたのだから、私が支払おうと言ったのだが、支払いはアルベルト殿が自ら用意する約束だと言われてしまってな」
2人にそこまで説明されたアルさんは、流石にそれ以上抗議する事もできず、数度視線を彷徨わせた後、諦めた様に息を吐きました。
「…………他所で公演する時は、せめて名前は変えて下さい」
この時すでに、メイさんを通してシアさんが劇の公演について話が纏めようとしていて、レブリック商会の下、翌月には王都で、数ヶ月後には王国全土、1年後には他国でまで公開されて歴史に残る程の名作となるのですが、この時のアルさんとコゼットさんはそんな事を知る由も有りませんでした。
ついでに言うと、この日ミーナさんのお菓子やメイさんとの劇団の話を含めいくつかの商談を成立させたシアさんはとても良い笑顔でした。
婚約パーティの数日後、レオパルト公爵家の人々や公爵家の護衛を率いていたヴァルさん達はイナミさんの転移魔法でゼラブル王国へと帰ってゆきました。
コゼットさんはこのままガスタの街に残り、辺境伯家に身を寄せる事になります。
ユーリア様やミッシェル様とも仲良くしている様ですし、サチ様の面倒も良く見てくれているとアルさんが言っていました。
リア充め……爆ぜろ!
「良いですかリリ、トネの樹液と凝固剤を混ぜる時はトネの樹液の温度に注意するのですよ」
「はい、師匠」
わたしが薬鉢に入ったドロリとしたトネの樹液に凝固作用のあるアダナの根から抽出した凝固剤をゆっくりと流し入れながら丁寧に混ぜ合わせます。
「このまま混ぜながら少しずつ冷まします。
温度が50度を切ると固まり始めるので人肌くらいになるまで丁寧に混ぜます。
この時に混ぜるのが早すぎたり、遅すぎたりするとダマになってしまったり、上手く固まらずに水っぽくなってしまったりしますから注意して下さい」
真剣な目でメモを取りながら薬の変化を観察しているリリに細かい注意点を教えます。
「後は粗熱を取ったら完成です。
このままだと肌の保湿を保つ効果しか有りませんが、この軟膏にエーロの葉の抽出液を加えると火傷用の軟膏に、魔力抜きをしたスライムゼリーを加えると傷の保護用の軟膏になります。
他にもヨモギウを煎じた物なら虫除けの軟膏、ライザの蜜とミルクを加えると肌荒れの薬になります」
この軟膏はそれ自体にはあまり薬効は有りませんが、別の素材と組み合わせる事で様々な物に応用出来る優秀な中間素材となります。
「ではやってみて下さい」
「はい」
わたしはリリに初めから1人で作ってみる様に言うと、調合の端に用意した専用のスペースで調合中の聖天使の霊薬の状態をチェックします。
「うん、良い感じですね。
この分だと数日中には完成するでしょう」
今までで最も難易度の高い薬の出来栄えを見て、わたしは満足げにうなずくのでした。




