パーティとわたしと高貴な2人
辺境伯邸の中庭には沢山のテーブルが並べられ、見目よく盛り付けられた数々の料理が招待客の舌を楽しませていました。
アルさんとコゼットさんの婚約パーティ当日である今日、わたしはリリとミーナさんを引き連れて他の招待客に混じっていました。
新調したわたしのドレスは薄い水色で、仕立て屋のオーナーおすすめの流行の型。
今日は髪を編み込んでアップで纏めてみました。
リリは淡いオレンジ色。スカートに子供っぽく無い程度のフリルをあしらった物です。
ミーナさんは迷った結果、わたしのドレスよりも濃い目の水色となりました。
招待客の中には冒険者ギルドのフューイさんや商業ギルドのギルドマスター、この街に住む貴族、ガスタを拠点とする商会長など、ガスタの街の有力者が多くいますが、中にはリュミナスさんやジャギさんなどの有名な高ランク冒険者も招待されています。
「おや、ユウさん。こんにちは」
「こんにちは。メイさんも招待されていたのですか」
不意にわたしに声を掛けて来たのは商業ギルドの職員である猫人族のメイさんでした。
「私はギルドマスターのオマケですけどね。
ほら、今回は例の件でいろいろ……」
「ああ、あの件ですか」
わたしは招待客への挨拶回りで忙しそうなアルさんとコゼットさんへ、チラッと視線を向けます。
ここ最近、わたしとメイさんはいろいろと忙しくしていました。
それもこれも、今回のアルさんとコゼットさんの婚約パーティに間に合わせる為……。
わたしとメイさんが目を合わせてニヤリと悪い笑みを浮かべて笑い合っていると、そこに新たな人物がやって来ます。
「ユウ先生」
軽く手を上げて笑みを浮かべているのは、この国の王太子であるレオンハルト・フォン・ミルミット殿下と公爵令嬢シンシア・フォン・レブリック様……アルさんの同期であるレオさんと彼にエスコートされている婚約者のシアさんの2人でした。
「お久しぶりです。レオさん」
「お久しぶりです。ご懇談中に申し訳ない」
「いえ、とんでも御座いません。レオンハルト殿下、シンシア様。
お会い出来て光栄で御座います」
レオさんがわたしとメイさんの会話に割って入った事を詫びると、メイさんはレオさんとシアさんに丁寧に頭を下げた後、一歩下がりました。
「シアにドレスを仕立てたと聞きました。
よくお似合いですね」
「ありがとうございます。
レオさんは何だか貴族っぽくなりましたね」
白い歯をキラキラさせながらお世辞を口にするレオさんが少し面白いです。
学生の頃はもっとガキ大将タイプだったのですけどね。
そう思っていると、レオさんは真顔になりため息を吐きました。
「…………次期国王としての外聞ってやつですよ。俺も正直面倒なんですけどね」
「レオ様」
「わ、わかっている」
シアさんにジト目で睨まれたレオさんは弾かれた様に姿勢を正し、咳払いをして誤魔化します。
「今日は王族派以外の貴族家の方々も多く招待されていらっしゃるのですから、お気を付け下さい」
「ああ……すまない、気を付ける」
完全にシアさんに尻に敷かれていますね。
しかし、こうやって国王様みたいに二面性のある人間に成長して行くのですね。
王族って怖い。
「ところで彼女らは?」
レオさんが視線で指したのはわたしの背後に隠れる様に気配を消そうとしていたリリとミーナさんです。
メイさんは商業ギルドの制服を着ているので尋ねるまでも無くギルドの人間だと分かりますが、ドレス姿のこの2人はそうも行きません。
…………あと、2人ともわたしよりも背が高いのですから隠れるのは無理ですよ。
ええ、無理ですとも!
「ご紹介しましょう。こっちが弟子のリリでこちらは友人のミーナさんです」
「は、初めまして、リリと申します」
「み、み、ミーナ……です!」
「レオンハルト・フォン・ミルミットだ。
ユウ先生の弟子とは、将来が楽しみだな」
「ありがとうございます」
「ミーナ嬢の事もアルベルトから聞いている。
ミッシェル夫人とユーリア嬢が君の店の菓子が大のお気に入りだと」
「き、恐縮です」
ニコやかに王子様スマイルを決めるレオさんにミーナさんは赤くなったり青くなったりと大忙しです。
あんな技も身に付けていたとは……レオさん、恐ろしい子!
そして更にシアさんがミーナさんの腕を取り身を寄せます。
「お久しぶりですわ、ミーナさん。以前王都でお会いした時は時間が無く、あまりお話出来ませんでしたわね。
ところで、ミーナさんは事業の拡大などにはご興味有りませんか?
是非、わたくしの商会と提携して頂けないかと……」
「あ、あうあう……」
この国でもトップクラスに高貴な2人に絡まれて、小市民なミーナさんが妙な悲鳴を上げています。
止めてあげて。
ミーナさんのライフはもうゼロですよ。




