王都とわたしと再会
オリオンの背に乗って王都にやって来たわたし達は、ガスタよりも更に賑わう王都の大通りを進んで行きます。
「師匠、お店が何処にあるのか知っているんですか?」
「大丈夫ですよ。メイさんに紹介状を書いて貰いましたから」
学院で臨時教師をしていた頃、わたしは半年程王都に住んでいましたが、冒険者ギルドや食事処、本屋くらいにしか立ち寄りませんでしたからね。
仕立て屋なんて行ったことが有りません。
メイさんに紹介して貰ったお店は貴族街に近い高級店が立ち並ぶエリアに有りました。
外観は綺麗に整えられています。
店の横には馬車を止める場所も完備されており、高級っぽい馬車が数台止められています。
店の前には正装の店員が姿勢良く立っており、一見すると案内の従業員に見えますが、その立ち振る舞いには隙が無く、武器を隠し持っている所から用心棒……いえ、警備員の類いですね。
わたし達が近くと僅かに警戒した気配を漏らしますが、直ぐに霧散して柔和な笑みで話しかけて来ました。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。当店に何かご用でしょうか」
「はい、ドレスをオーダーしたいのですが……」
「左様で御座いますか。失礼ですがどなたかのご紹介はお有りでしょうか?」
「はい」
わたしはメイさんから貰った紹介状を手渡しました。
明らかに平民な服装のわたし達を相手にしても丁寧な態度を崩さずに応じる対応には好感が持てますね。
この辺りのお店は殆どが一見さんお断りの筈です。
主に貴族を相手にする様な高級店では客にも『格』を求めるのです。
中には騎士爵や男爵の様な下級貴族すら門前払いする店も有ると聞いた事が有ります。
この仕立て屋は王家にも納品した事がある最高級店です。
わたし達の格好を見て『平民は帰れ』と言われてもおかしくは有りません。
「確認致しました。ユウ様、リリ様、ミーナ様。どうぞお入り下さい」
紹介状に目を通した警備員の男性がドアを開いて店内に招き入れてくれました。
「案内の者を呼んで参りますのでこちらでお待ち下さい」
広々とした店内に設けられたソファに座って待たせては貰います。
「…………2人共、そんなにビクビクしなくても良いじゃないですか」
「で、でも師匠……」
「うぅ、もしこのソファを汚しでもしたら……」
高級店でガチガチに緊張さている2人を他所に、わたしは紅茶を頂きます。
むむ、良い茶葉ですね。
「お待たせ致しました。それではご案内を……」
「ユウ先生」
従業員がやって来て案内してくれようとした時、背後から声が掛けられました。
振り向くと店の奥からオーナーらしき壮年の紳士と護衛の女騎士を連れたシアさんが出てきた所でした。
「シアさん」
「お久しぶりですわ。意外な所でお会いしましたね」
「そうですね……いえ、シアさんが居るのは不思議では無いですね」
「ふふふ、ユウ先生もアルさんの婚約パーティの件で来られたのですか?」
「ええ、弟子のリリと友人のミーナさんはドレスを持っていないのでこの際オーダーしようと思いまして」
「そうでしたか。オーナー」
「はい、レブリック様」
「こちらの方々を奥に案内して頂けるかしら?」
「かしこまりました」
シアさんに言われてオーナーはわたし達お店の奥へと誘われます。
わたしを先生と呼び、親しげに話すシアさんに少し不思議そうな視線を向けるミーナさんでしたが、リリから何やら耳打ちされて真っ青な顔になりました。
うーむ。
実際に会った事はありませんが、リリはわたしとシアさんの関係を知っています。
おそらく、ミーナさんに彼女が王太子の婚約者であるレブリック公爵家のご令嬢、シンシア・フォン・レブリックであると伝えたのでしょう。
店の奥は王宮の応接室にも引けを取らない洗練された一室でした。
そこで改めてソファに腰を下ろしたわたし達にオーナーが挨拶すると、加えてわたしにお礼を告げました。
「わたくし共の商会の馬車が盗賊に襲われている所をユウ様にお助け頂いた事があるのです」
わたしが不思議そうにしているのを見て、オーナーは微笑みながら教えてくれました。
どうやら過去に盗賊から助けた馬車に彼らの商会の馬車があった様ですね。
「それで、本日はドレスのオーダーとお聞き致しましたが?」
「はい、こちらの2人に……」
「こちらの3人に似合うドレスをお願い致しますわ」
「…………シアさん?」
「ユウ先生も新しいドレスを仕立てるべきですよ」
「わたしはドレス持ってますよ?」
以前、国王様に会う時にフレイド様が用意してくれたドレスはそのままくれたので、アイテムボックスにしまって有ります。
「存じていますわ。国王陛下にお会いした時に着ていたドレスですわね」
なんで知ってるんですか?と思いましたが、直ぐに気が付きます。
多分、国王様が話したのでしょう。
「今の流行とは少しズレていますし、アルさんの婚約パーティですからもう少し明るい色の方が良いですわ。
ユウ先生なら予算も余裕が有りますでしょう?」
「それは大丈夫ですが……」
確かにわたしが持っているドレスは国王様に会う事も意識した落ち着いた色のどちらかと言うとフォーマルな感じのドレスです。
予算も十分有ります。
リリとミーナさんのドレスはわたしがプレゼントするつもりでしたが、更に1着仕立てても余裕が有ります。
今までの報酬やお店の売り上げで貯金は使いきれない程の金額になっていますからね。
「では、ユウ先生も1着仕立てるという事で」
「そう、ですね……」
う〜む、リリとミーナさんのドレスを仕立てに来たら何故かわたしまでドレスを仕立てる事になってしまいました。
…………まぁ、良いかな。




