冒険者とわたしと招待状
「【鱗戦鎚】」
光鱗を何層にも纏った戦鎚を振り下ろし、ガードに掲げられた棍棒を小枝の様に叩き割り、わたしの3倍はある巨体に叩き込まれました。
ボキボキと骨の折れる感触。
わたしと戦っていた巨体魔物、人間の身体に牛の頭を持ったミノタウロスが痛みに叫び声を上げます。
振り抜いた戦鎚の勢いに逆らう事なく身体を回し、遠心力を乗せてピリオドを振り抜きミノタウロスの首を斬り落としました。
「ふぅ、この戦鎚にも結構慣れて来ましたね。」
ミノタウロスの討伐証明である角を切り落とし、解体して利用価値のある部位をアイテムボックスに収納したわたしは、シリウスに乗ってガスタの街に戻ってきました。
「おぅ、お帰り」
「はい、ただいまです」
顔馴染みの門番にギルドカードを見せて街に入り、その足で冒険者ギルドに向かいました。
「依頼を完了しました。あと素材の買取もお願いします」
ギルドの受付で垂れ耳の犬系獣人のリッツさんにギルドカードとミノタウロスの角や素材を手渡します。
「はい、査定致しますので少々お待ち下さい」
リッツさんは素材を持って裏側に引っ込むみ、10分程で戻ってきました。
「こちらが今回の報酬と売却金です」
「ありがとうございます」
わたしはお金を受け取ると、クエストボードの確認へと向かいます。
「『危険地帯の調査』『灰吹き草の採取』『アイアンウルフの群れ(推定35匹)の討伐』……どれも時間がかかりそうですね」
イナミさんから依頼された聖天使の霊薬の調合が佳境なのであまり長く店を離れる事はできません。
数日くらいなら可能ですが、現在あるAランクの依頼はどれも10日以上はかかりそうな物ばかりです。
「かと言ってBランクの依頼は……」
クエストボードのBランクの依頼にも目をやりますが、そこには2組の冒険者達が何やら話し合っています。
禁止されている訳ではありませんが、あまり高ランク冒険者が下位の依頼を受けるのは推奨される事ではありません。
不人気な雑用系の依頼やほぼボランティアの様な低報酬の依頼なら別ですが、Bランクの依頼ともなると受注する冒険者に事を欠くなんて事はありません。
Bランクと言えばかなりの実力者ですが、この辺境ではそれなりの人数が居ますし、もう直ぐBランクに昇格出来るCランク上位の冒険者も居ます。
彼らの功績を奪うのはあまりよろしくないでしょう。
「あぁん?おいガキがなに生意気にAランクのボードの前を陣取ってんだぁ?
おらどけ!ガキはあっちの雑用依頼でも見てろ」
ギルドに入って来た見覚えの無い冒険者達がクエストボードへやって来てそんな事を言っています。
うるさいですね。
わたしがもう1度Aランクの依頼を吟味し始めると冒険者がまた何やら言い始めました。
「おい!無視してんじゃねぇぞ!
ビビってんのか、あぁ?」
「おいおい、リーダー。ガキを虐めんなよ。
漏らしちまったらどうすんだよ」
「げはは、乳臭いガキだが顔立ちは悪くねぇな。新人冒険者か?
俺達Cランクパーティ《無敵の戦士》の世話係にしてやっても良いぜ。
色々と教えてやるよ。色々とな」
冒険者達はゲラゲラと笑っています。
「…………もしかしてわたしに言ってます?」
わたしは首をコクンと傾げて尋ねます。
「あん?他に誰が居んだよ」
おお、わたし今絡まれています。
なんだか久しぶりですね。
何故だか少し懐かしい気分です。
「誰だアイツら?」
「うわ、ユウに絡んでるぞ」
「他の街から来たのか?馬鹿な奴らだな」
周囲の冒険者達がザワザワと話している声が聞こえます。
「居るんだよな。他の街で活躍して辺境にやって来る調子に乗った馬鹿って」
「おい、誰か助けてやれよ」
「どっちを?」
「そりゃ馬鹿共の方だろ?」
「嫌よ、死にたく無いわ」
いや、殺しませんよ。
「おい聞いてんの、かびっ!」
詰め寄って来た冒険者の横っ面を裏拳で殴り飛ばし、唖然とする仲間2人を同じ方向へと蹴り飛ばします。
3人が吹き飛んだ方に居た冒険者達は慣れた様子で、テーブルや料理を素早く退かしてくれたので被害は出ていません。
わたしは酒場に居た冒険者達にヒラヒラと手を振ってギルドを後にしたのです。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
わたしが雷鳥の止まり木に帰って来ると店番をしていたリリが返事をしてくれます。
「師匠、さっき辺境伯様の使いの方が来られてコレを師匠にって」
リリはカウンターから出て来るとわたしに手紙を手渡してくれました。
「手紙ですか……ふむ、招待状?」




