◆乱入者
氷の壁が消滅するのと同時にわたしとヴァルさんは左右に分かれて飛び出します。
「ふぅ!」
ヴァルさんの大剣が風邪を切る轟音を纏いながらランスさんに迫ります。
しかし、ランスさんは焦点の合わない目でヴァルさんの大剣を見ると、その大剣の腹に手刀を打ち付けました。
「ちっ!」
ヴァルさんの大剣はバギィと言う音と共に刀身を砕き折られてしまいました。
「【遍断ち】」
わたしの渾身の一刀を地を這う様に身を落とし躱したランスさんに大剣の残骸を捨てたヴァルさんの蹴りが撃ち込まれます。
ランスさんはバク転でヴァルさんの蹴りを躱し、わたし達から距離をとります。
「が、がぁぁあ!!!」
ランスさんが苦しげに叫ぶ。
すると、黒い炎が吹き出し体を覆い尽くしたのです。
「あ……あ……あぁぁあ!!し、シ、死、死ぃいい!!」
人型の黒い炎と化したランスさんは奇声を上げながら恐ろしいスピードで向かって来ました。
「【光鱗】」
わたしは一歩前に出ると魔力を凝縮した光の鱗を作り出します。
「【魔装:鱗戦斧】」
凝縮した魔力をいくつもの層にして刃を形成した戦斧で迎え撃ちます。
「おお!!」
ヴァルさんが自身の数倍もある瓦礫をランスさんに叩きつけると、僅かな間を置いて瓦礫がドロドロに溶かされてしまいます。
わたしは瓦礫でランスさんの視界が遮られた瞬間、脚に魔力を込めて接近して戦斧を振るいます。
魔力を込めた戦斧はランスさんの両脚を捉えて斬り飛ばしました。
「なに⁉︎」
「⁉︎」
ヴァルさんの驚く声とわたしの目が驚愕に見開かれるのは同時でした。
ランスさんの両脚はまるで炎の様に揺らめいただけで直ぐに元に戻ってしまったのです。
「斬撃が効いていないのですか⁉︎」
「おいおい、そんなのもう人間じゃ無いぞ!」
わたしとヴァルさんは魔法や礫でランスさんを牽制しながら間合いを開けます。
「どうなってんだ?」
「分かりません。しかし、非常に不味い状況です」
ランスさんがら感じられる殺気と熱量は時間を追うごとに強くなって来ていました。
「ユウ、こいつは取り押さえるなんて甘い事は言ってられないぞ」
「ええ、もしこの状態で暴れ続ければ少なくない死人が出るでしょう。
仕方がありません…………殺します」
「出来るのか?斬撃は効果が無いみたいだぞ?」
「一つ可能性があります。
しかし、少々時間がかかります。
10分ほど時間を稼いで貰えますか?」
「無茶を言うな。5分だ」
「仕方ありません。お願いします」
ヴァルさんと手早く打ち合わせると、わたしは再び光鱗を作り出します。
そしてその光鱗の魔力を変換、鱗を黒く染めて行きます。
ダイオスに使った深淵属性の魔力凝縮。
今回はヴァルさんが時間を稼いでくれている内に可能な限り多くの黒い鱗を作るだします。
深淵属性は闇属性の上位属性、他の上位属性が下位属性の強化版、上位互換であるのに対して深淵属性は闇属性とは全く性質の違う魔法なのです。
闇属性は状態異常や幻影などの搦手を中心とした魔法が多いのに対して、深淵属性は単純な破壊の魔力なのです。
深淵属性の持つ破壊の魔力は、物理的な破壊だけでは無く、霊体系の魔物や魔力すら破壊する事が出来るのです。
ですが強力である反面、扱いが非常に難しいものです。
わたしは集中して魔力を変換して行きます。
そして、変換した黒い鱗が20枚を超えた時です。
「ぐっ!行ったぞ、ユウ!」
ランスさんがヴァルさんを吹き飛ばし、わたしに向かって黒い炎を燻らせながら向かって来ていました。
「【黒装:漆黒戦斧】」
漆黒属性の鱗を何層にも重ねたピリオドを振り上げます。
黒い炎の塊となったランスさんが拳を引き絞る。
「⁉︎」
そしてわたしの戦斧とランスさんの拳が交わる直前、斧と拳の間に突然人影が現れたのです。
「そのへんにしておいてくれ」
謎の男が指をパチンと鳴らすと、わたしの足下に魔法陣が現れ、身体がピタリと止まってしまいました。
視界では同じように動きを止められているランスさん、見えてはいませんがヴァルさんも動けなくなっているかも知れません。
男は半分だけズボンに突っ込んだシャツに裾の擦り切れたボロボロのローブを着てフードで顔を隠した怪しい人物でした。
「が……ぁ、あ……」
男は呻くランスさんに手を伸ばしすと、周囲にいくつもの魔法陣が浮かび、その魔法陣がランスの体の中に吸い込まれて行きます。
すると、ランスさんの体を覆い尽くしていた黒い炎が消えて、意識を失ったランスさんが崩れ落ちそうになり、謎の男が抱き留めました。
「な、何を……」
いつの間にかわたしの足元にあった魔法陣は消え、身体は自由になっていました。
「ん?なに、こいつの内にある力を再封印しただけさ」
「再……封印?」
「ああ、俺が施した封印が解けかけていたからな」
「…………では、ランスさんにあの力を与えたのは貴方なのですか?」
わたしは警戒しながら問いかけます。
「んん?別に俺が与えた訳じゃないが……まぁ、無関係ではないな」
「…………それで、貴方は何者ですか?」
「ああ、俺は……」
怪しい男はフードを取り、顔を晒しました。
その顔は彫りが浅く、黒髪に黒目の20歳くらいの青年でした。
「……俺は山内 伊波。気軽に大賢者様って呼んでくれていいぜ」




