◆黒い炎
「あぁぁあ!!!」
残像を残す程の速度で繰り出されるランスさんの拳をピリオドの柄で受け止めます。
攻撃を受ける瞬間、ピリオドを握る力を僅かに緩めて衝撃を逃す。
「がぁあ!!!」
ランスさんの体が半回転し、回し蹴りがわたしの頭を正確に狙って放たれました。
「ぐぅ!」
咄嗟に腕を上げてガードしますが、衝撃を殺しきれず弾き飛ばされてしまいます。
空中で身を捻り着地すると、その隙を狙っていたのかランスさんが目の前で深く腰を落として拳を引き絞っていました。
「【鱗盾】」
魔力を凝縮し光鱗を作ると直ぐに盾の形に固めます。
パリン
「しぃいい!!!」
ランスさんの正拳突きは、わたしの鱗盾を打ち砕き、わたしのガードした腕を撃ちました。
「うぐぅ!」
再び弾き飛ばされたわたしは近くの建物を突き砕き路地へと放り出されました。
「うぉ!ユウか⁉︎何があった⁉︎さっきの火柱は?」
ムクリと身を起こしたわたしを驚きながら見下ろしていたのはヴァルさんでした。
左腕にそこそこ深い傷を作っていますが、問題は無さそうです。
「アルさん達はどうしたのですか?」
「ああ、捕らえた第一王子と婚約者を連れてギルバート殿の所に向かっている。
ランスは逃げた魔族を追っている」
「ランスさんなら魔族を殺して元気に暴れていますよ」
「なに?」
ヴァルさんが怪訝な顔をしますが、詳しく話している時間は有りません。
「来ますよ!」
目の前の瓦礫が爆発する様に弾け飛びました。
「な、ランス⁉︎」
「ランスさんは錯乱しています。
取り押さえますから手を貸して下さい」
「わかった」
ヴァルさんは素早く大剣を構えてランスさんに向かいます。
「……っ!」
ランスさんの正拳突きを受けた腕を見ると赤黒く腫れ上がっていました。
「折れてますね」
夜天のローブの防御の上からここまでのダメージを負わされたのは初めてです。
ランスさんの強さは明らかに異常です。
ほんの1、2年の間に何があったのかは分かりませんが、あの愚かな馬鹿貴族だったランスさんとはまるで別人です。
アイテムボックスからポーションを取り出して半分を傷に振りかけ、残った半分を飲み干します。
折れた腕は瞬く間に治癒しますが、失った体力は回復しません。
長期戦は不利ですね。
わたしはピリオドの柄を握り直し、ヴァルさんに殴りかかっているランスさんの背後から斬り掛かります。
完全な不意打ちだったはずですが、ランスさんは即座に反応してピリオドの刃に手を添えて受け流してしまいます。
わたしの真横から迫る蹴りをヴァルさんの大剣が間に入り防いでくれます。
「凍てつけ 突風【ブリザード】」
牽制で放った魔法を腕の一振りで打ち消したランスさんにヴァルさんと息を合わせて攻撃を放ちます。
2対1になり、ランスさんは防戦へとシフトして行きます。
「あぁぁあ!!」
背後に大きく跳んだランスさんが黒い火球を撃ち出します。
「む!」
「はっ!」
わたしとヴァルさんはその魔法の核を斬り裂き……。
「な⁉︎」
「ちっ⁉︎」
なんと、ランスさんの火球は芯となる核を斬り裂いた筈なのに霧散する事なくわたしとヴァルさんに命中したのです。
わたしは夜天のローブのおかげで軽い火傷で済みましたが、ヴァルさんは重傷です。
黒い火球を受けた腕が黒く炭化しています。
「ヴァルさん!」
「すまん」
ヴァルさんに効果の高いポーションを投げ渡し、治癒する時間を稼ぐ為に前に出ます。
「あぁぁあ!!!」
「凍てつく 障壁【アイスウォール】」
ランスさんが次々に黒い火球放ちます。
核を破壊して打ち消す事が出来ないので氷の壁を作り出して受け止める。
火球の高熱でどんどん氷の壁が溶け始めますが、魔力を込めて修復し強度を高めます。
「一体どうなってるんだ?確かに魔法の核を破壊したはずだが……」
ヴァルさんがわたしの横に並びます。
「おそらく精霊魔法の類いです」
「精霊魔法?」
「精霊に魔力を渡し魔法を使って貰う精霊魔法は人間が使う魔法と違い核を破壊しても霧散しません」
「だが精霊魔法は高い魔力と精霊との親交が必要だろ?
あいつは昔から精霊に好かれていたりしたのか?」
「さぁ、わたしが初めて会った時には特に精霊がどうとかはなかったですね」
「それもおかしな話だ。精霊魔法は突然使える様になる物じゃないだろ?」
「そうですよね」
さて、呑気にはなしている内にアイスウォールの強度が限界ですね。
「そろそろ障壁が消えますよ。腕の方はどうですか?」
「完全ではないが十分戦えるくらいには回復したな。上等なポーションだ」
「お支払いはツケておきますね」
「…………ガスタ辺境伯は経費で出してくれるだろうか?」




