害虫とわたし
翌朝、目が覚めると丁度ラナさんが起こしに来てくれたところでした。
村長さん、ラナさんと一緒に朝食を頂きます。
「村長さん、この後奥さんの様子をみたらマーダーハニーの討伐に行こうと思うのですが巣の場所は分かっているのですか?」
「はい。村から30分程に行ったところに大きな巣を作っています。巣の場所までは村の狩人に案内させましょう」
「よろしくお願いします」
わたしは村長さんの奥さんの容態を診てから討伐の用意を整えます。
村長さんの奥さんは既に熱も下がり、意識もはっきりしています。
しっかりと水分を取って休めは直ぐに回復するでしょう。
用意して来た薬や武器を確認したわたしは、村の狩人さんの案内でマーダーハニーの巣に向かいました。
「あれだ。あれがマーダーハニーの巣だ」
「お~、大きいですね。では、後はわたしがやります。危険ですから先に村に戻って下さい」
「わかった。よろしく頼む」
狩人さんが帰ったのを確認したわたしは早速害虫駆除を始めます。
マーダーハニーの巣は高さ4メートル程の木が丸々1つ巣になっています。
昔、テレビで見た蜂の巣で作った芸術作品の超デカイ版です。
マーダーハニーの大きさは小型犬くらいはあります。実に気持ち悪いです。
「いくらデカくても所詮は虫です」
マーダーハニーが全て巣の近くに来るのを確認して魔法を詠唱します。
「包み込め 水の障壁 アクアホール」
マーダーハニーの巣を中心に水の膜がドーム状に辺りを包みます。
これでマーダーハニーは出る事も入る事も出来ません。
わたしは魔力を操作して水の膜に小さな穴を開け、その穴から中に薬を投げ込みました。
わたしが投げ込んだ薬は前にロック鳥のさえずり亭で使った殺虫香を大きくしたものです。
生活魔法で火をつけた殺虫香からは白い煙がモクモクと立ち上って、すぐに水のドームの中に充満します。
再び魔力を操作して穴を塞げば完成です。
わたしは水の膜が安定している事を確認して近くで薬草などの採取を始めました。
後は薬が効くまで2~3時間ほど待つだけです。
数時間が経過して、大分煙も薄くなって来ました。そろそろ良いと思います。
わたしは水の膜を解除して様子を見ます。
巣の周りにはマーダーハニーの死骸が沢山散らばっています。
作戦は成功した様です。
それにしても多いですね。わたしは次々にマーダーハニーの死骸をアイテムボックスに仕舞って行きます。
最後に愛用の斧で巣を切り倒し、これもアイテムボックスへと仕舞いました。
巨大な巣があった場所には最早何も有りません。
討伐完了です。
村へ帰りましょう。
わたしが村へ帰って来ると門番さんから報せを受けた村長さんが出迎えてくれました。
「ユウさん。マーダーハニーはどうなりましたか?」
「安心して下さい。討伐は成功しました」
わたしはカバンを広げ、さもマジックバックから出している様に見える様にマーダーハニーの死骸を取り出し村の広場へと積み上げます。
次々と出て来るマーダーハニーの死骸に村長さんの顔は驚きと戸惑いの色がうかんでいます。
今回、討伐したマーダーハニーは268匹(幼虫、蛹、卵を除く)です。
つまり、報酬はマーダーハニー1匹銅貨2枚、268匹で銅貨536枚……銀貨5枚、小銀貨3枚、銅貨6枚となります。
この金額は現金収入の少ない小さな村ではかなりの出費になります。
そこでわたしは提案しました。
「村長さん、村の方にマーダーハニーの解体と巣から蜂蜜を取る作業を手伝って貰えませんか?もちろん手伝って頂ければその分報酬をお支払いします」
簡単に言うと手伝ってくれたら割引するよ。と言うことです。
わたしの意図に気が付いた村長さんはしきりに感謝していました。
村の人達に手伝って貰いマーダーハニーから魔石と毒針、毒腺を巣からは幼虫と蛹、卵、蜂蜜、蜜蝋を手に入れました。
マーダーハニーの甲殻も防具の素材として売れるので持ち帰ります。
その晩は村を上げての宴会になりました。
わたしも手に入れた幼虫と蛹を提供して、料理して貰いました。
え、虫ですか?食べれますよ。
幼虫はぷりぷりで癖のないエビの様な感じで、蛹はクリーミーで濃厚なグラタンの様な味でした。
今のところこの世界に来てから食べたものの中でトップクラスに美味しいです。