◆襲撃(する側)
ギルバートさん達にメッセージを伝えたわたし達は早速、ボロ屋敷に襲撃を掛ける事になりました。
目立つのでアイテムボックスにしまっておいたピリオドを取り出して2、3回軽く降ります。
「おい、ユウ。
分かっているは思うが警備の兵士を殺すのは無しだぞ?
一応、国の正式な兵士だからな」
「…………わ、分かってますよ。当然です」
ピリオドを再びアイテムボックスにしまいました。
先ずは周囲を哨戒している兵士です。わたしとアルさん、コゼットさんの3人は物陰に潜み兵士を待ち伏せしています。
今頃は反対側で別の哨戒中の兵士をヴァルさんとランスさんが捕らえている筈です。
「ユウ様、兵士が来ました!」
「仲間を呼ばれないように素早く行きますよ。
あと、殺してはいけませんからね」
2人は一瞬微妙な顔で見返して来ましたが、わたしは直ぐに飛び出して兵士に向かって駆けだしました。
2人もちゃんとついて来ていますね。
「な、なんだばぁっ!」
手にしたカンテラを此方に向けた兵士の腹に拳を打ち込み意識を刈り取ります。
「なっ!」
「ぐぅ!」
続くアルさんの当身とコゼットさんの蹴りでそれぞれ兵士を気絶させ、3人の兵士を目立たない暗がりに押し込み、ボロ屋敷の正面が見える場所で同じく哨戒の兵士を無力化したヴァルさん、ランスと合流しました。
「漆黒、殺してないだろうな」
「あまり大きな傷を残してやるなよ」
再会の一言目にそんな事を言われました。
随分な言われようです。
薄々感じていましたが、わたしって周りからどう思われているのでしょうか?
「後は正面の2人ですか」
「ああ、だが正面は明かりも十分だからな。
無効化するのは簡単だが笛でも吹かれて連絡を取られるのは面倒だぞ」
「それならわたしに良い考えが有ります」
ふっふっふ!
前に読んだ漫画で似たようなシチュエーションが有りました。
「わたしが兵士に近づくのでヴァルさんは少し離れてわたしを追いかけて来て下さい」
「それだけで良いのか?」
「はい。要はわたし達が屋敷に襲撃をしようとしていると思われなければ良いのですよ」
わたしは自信満々で頷きました。
その日、王国兵である俺はとある屋敷の守衛任務に従事していた。
任務の詳しい内容な国家機密らしく、俺のような末端の兵士には知らされていないが、王太子殿下直々に命じられた重要な任務だ。
今日も相棒と2人、陽が落ち辺りが暗闇に包まれてもしっかりと屋敷を狙う不届き者が居ないよう目を光らせていた。
「ん?」
「どうした?」
いつもなら何事もなく朝を迎えて交代となるのだが、今日は物陰にから何やら物音が聞こえた気がしたのだ。
「今何か……」
聞こえなかったか?と言おうとした時、暗がりから1人の少女が駆け寄って来た。
すわっ!襲撃か!っと思ったがどうも様子がおかしい。
俺は異常を知らせる笛を咄嗟に咥えようとしていた手を止める。
12歳前後程の少女は珍しい黒い髪をした人族で、その黒い瞳に涙を浮かべ此方へと駆けて来た。
「た、助けて下さい!兵士様!」
少女が俺に縋り付いて来た。
その背後には少女を追うように狼人族の大柄な男が近づいて来る。
「あ、あの人が『ぐへへ、お姉さん熟れた良い体しているじゃねぇか!うっひょい、俺と朝までシッポリぬふふと楽しもうぜ!』と言ってわたしに無理やり、よよよよ……」
少女が泣き崩れる。
「な、なに⁉︎貴様!こんな幼気な少女に欲情するとは!変態め!」
「おい!動くなこのロリコン!だいたいこの少女の何処が熟れた体に見えると言うのだ!
異常性欲者とは正にお前の事だな!」
俺と相棒は少女を背に庇うと槍を構えて変質者ににじり寄る。
治安維持は俺達の任務ではないが、国の兵士として目の前で自分の娘くらいの少女が変態の毒牙に掛かるのをみすみす見逃す訳にはいかない。
何故か呆れた様な顔をする変質者を取り押さえようと踏み出す俺と相棒は、不意に襟首を掴まれて引き戻された。
「「え?」」
「誰が幼気なロリですか!!!」
ゴスッ!っと不安気な音と共に俺達は意識を失ったのだった。
「全く!成人したレディに対して失礼な人達ですね!」
「いや、そいつらは凄く良い奴らだと思うぞ?」
何故か呆れ顔のヴァルさんと共に気絶した失礼な見張りを門の内側に隠し、アルさん達を呼び寄せたわたし達はボロ屋敷へと侵入するのでした。




