◆フクロウ通信、ただしアナログ
空に星々が輝き出し、娼館や一部の飲み屋、警備兵の詰所などの例外を除き明かりを落とし眠りについた深夜、わたしは街を上空から見下ろしていました。
いえ、正確に表現すると街を見下ろしているデネブの視界を同調魔法で共有して見ているのです。
この同調魔法は便利な物で、魔力的に繋がりのある従魔と一部の感覚を同調させる事が出来るのです。
更にこの魔法を応用する事で従魔に遠隔で指示を出すことも可能です。
ちなみに感覚は従魔の方に依存するのでサイレントオウルであるデネブを通す事で、この月明かり程度の夜でもわたしの視界は昼の様に明るく見えているのです。
ランスさんが持ち帰った情報とヴァルさんが聞いた噂話から街の北の外れにあるボロ屋敷が怪しいと睨んだわたし達は、夜を待ってそのボロ屋敷へとやって来たのです。
ボロ屋敷が見える廃墟に身を潜めたわたし達は夜目の効くデネブを飛ばして偵察中です。
「確かに異様に警戒が厳重ですね」
門の前に兵が2人見張りに付き、周囲の塀の周りを3人一組の兵が2組常に周回しています。
「お!2階の端の部屋と3階のバルコニーにも見張りがいますね」
領主の館並か、それ以上の厳重さです。
「明らかに異常だな」
「ブラン伯爵は何処に囚われているのでしょうか?」
「ベタな所なら地下じゃないかな」
「いや、代官が居るとは言え、名目上は伯爵が治めている筈だ。
なら伯爵のサインなんかもいるだろう?
地下牢に入れて病死したり自害したりしたら不味いと考えるんじゃないか?」
「なら1番高い場所だろ。見張りやすくて逃げられ難い」
なるほど、わたしはランスさんにうなずきデネブに一部高くなっている4階部分を探させます。
そして3部屋目、元は貴族が大商人の屋敷だったのであろう事を思わせるガラス窓の中に明らかに見張の兵士とは違う雰囲気の人達を見つけました。
3つ置かれたベッドで眠っている2人と、窓の近くに置かれた椅子に座りしかめっ面で冷めた紅茶をすする青年です。
「多分見つけました。赤い立髪の様な髪にかなり鍛えられている身体の獅子人族の青年です」
「その人は多分ブラン伯爵の嫡男のギルバート様です」
「では接触してみましょう」
わたしはデネブに指示を出しギルバートさんがいる部屋の窓をくちばしでコツコツと叩きました。
「ん、フクロウ……か?
いや!コイツはサイレントオウル⁉︎何故魔物が街中に……」
サイレントオウルは無音の飛行と気配の遮断などの隠密性に優れている上、個体によっては魔法を行使する事もあるCランクの魔物です。
決して街中にいる様な魔物では有りません。
「従魔か?」
デネブが片脚を上げて足首に付けられた従魔の証を見せる事で、警戒して窓から退がっていたギルバートさんは少しだけ近付いて来ました。
ギルバートさんが窓を開けてくれたので部屋の中に入ると従魔の証の反対側の脚に付けられた紙を示しました。
「コレは?」
その紙にはビッシリと文字が書いてあります。
日本語で言う所の50音表です。
デネブにくちばしで文字を啄かせてギルバートさんにメッセージを伝えます。
『あなた、りょうしゅのむすこ、ぎるばあと?』
「ああ、その通りだ」
『りょうしゅ、つかまっている?』
「うむ、情け無い事にこの地を治めるべきブラン伯爵家でありながら我ら一族は囚われの身にある。
時に其方は何者だ?王都からの救助の者か?」
『ちがう、おうじ、おかしい』
「ジャヴェール殿下の事か……確かな最近の殿下の言動はおかしかった。
急にユーフラジー嬢との婚約を破棄したりレオパルト公爵家を取り潰すなど不自然だった。
………………まさか、我らの幽閉もジャヴェール殿下が絡んでいるのか?」
『かくしんはない』
「いや、我らブラン伯爵家とレオパルト公爵家は縁戚関係、我らを警戒したジャヴェール殿下があるいは……」
『れおぱるとけ、たすける、てをかしてほしい』
「なに?其方はレオパルト公爵家の関係者か?」
『きょうりょく、するなら、そこから、たすける』
「……………………」
ギルバートさん悩んでいるみたいですね。
まぁ、当然ですが。
話の流れから見てもこれは完全に第一王子と敵対する流れ、下手をすれば国家に対する反逆と取られかねない選択です。
『ぶらんのまち、あれてる、まやく、ひろまつてる』
「何だと⁉︎そんな馬鹿な!」
『だいかん、なにもしてない』
「その代官は王都から派遣されて来た、か………………分かった、協力する」
『りょうしゅ、じょうきょう、おしえて』
「父上と母上は心労により疲弊されていて、今はそこのベッドで眠っておられる。
現在、領主としての仕事はほとんど我が代行している状態だ」
『なぜ、にげない?』
「…………弟と妹も捕まってるのだ。
父上も今はまともに動けない。
戦えない母上と弟妹を連れて逃げ出す事はできなかった」
『きょうだい、どこ?』
「3階の北の端の部屋だ。
日に数度顔を見れてはいるが警備はかなり厳重だ」
『わかった、じゅっぷんご、たすける、じゅんび、する』
「分かった」
やると決めたらギルバートさんは迅速に行動を開始しました。
眠っていたブラン伯爵と夫人を起こして状況を説明、直ぐに対応出来るよう用意を始めました。
わたしはデネブを彼の弟妹が居る部屋に向かわせると同調魔法を切りました。
「さぁ行きましょうか」
伯爵家の人々の救出戦です。
ようやく分かりやすい展開になりそうですね。




