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薬師のユウさん、大斧担いで自由に生きる  作者: はぐれメタボ
第二章《暗躍する魔族》
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◆◇伯爵の行方

「ふぁ〜あ、おはようございます」

「おはようございます、先生」

「おはようございます」


 朝、部屋から出るとリビングでアルさんとコゼットさんがちょうど部屋に運ばれて来た朝食を食べ始めるところでした。

 そしてもう1人、ヴァルさんが腰に剣帯を付けているところが目に入りました。


「ん?ヴァルさんはもう朝食を済ませたのですか?」

「ああ、俺は職人街で剣のメンテナンスついでに少し情報を探ってみるつもりだ。

 ユウはどうする?」

「わたしは宿でいくつか薬を作ろうと思っていますよ」

「そうか、では2人の護衛を頼む」

「任せてください」


 そう話しながらヴァルさんが変装用の仮面を取り出した時、個室のドアが開きランスさんが起きて来ました。

 既に身支度を整えている様ですね。


「おはようございます、ランスさん」

「ああ……少し出てくる」

「ランス、朝食は食べないのかい?」

「ああ、悪いが食欲がない」


 アルさんの誘いを断り、ランスさんは足早に部屋を後にしてしまいました。


「…………ユウ、あいつは大丈夫か?」

「少し心配ですね……契約により 扉を開く 静寂の翼を 我が元に 【召喚 サイレントオウル】

 デネブ、こっそりランスさんを追跡して下さい。

 危険な兆候があったら教えて下さいね」

「フゥー」


 わたしは窓に嵌められた木戸を開くと召喚したデネブをランスの監視に放ちました。


「サイレントオウルか」

「はい、もしランスさんが暴走しそうになったら同調魔法で教えてくれるはずです。

 この街の中なら最悪オリオンで飛べは直ぐに駆けつけられますからね」

「そうか、ではそちらは任せたぞ」

「はい、いってらっしゃい」


 わたしは職人街へ向かうヴァルさんにヒラヒラと手を振り、調合前に朝食を頂くべくアルさんとコゼットさんの所へと歩み寄るのでした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺は朝食も食べる事なく宿を出ると下町へとやって来ていた。

 スラム街と言うほど治安は悪くないが、あまり裕福ではない者達が住む地域だ。

 この手の場所には大抵地域に根差した情報屋の様な奴が居るものだ。

 直ぐに見つけるのは難しいが、数日あればコンタクトを取ることが出来るだろう。


 昨日、まだ魔族が関わっていると決まった訳ではないと諌められはしたが、俺はこの件に魔族が関係していると半ば確信していた。

 理由はと問われれば勘としか言えないが、何とかして尻尾を掴んでそれを証明してやるつもりだ。


 下町を探索し始めて数時間、昼には少し早いくらいか。

 何処かで簡単に食事を取ろうかと考え始めた時、建物の隙間の薄暗い路地から小さな悲鳴の様な声が聞こえて来た。


 そっと覗くと2人組の男が女性を羽交い締めにしていた。


「…………はぁ」


 一瞬、魔族に捕まった妻の姿が脳裏を過った。

 つまらない感傷だ。

 俺は女性を助けようと路地へと足を踏み入れたのだが、それと同時に路地に声が響く。


「君達!何をしている!」


 路地の反対側から男が1人現れたのだ。

 男は旅用の丈夫な白い服に赤く染め抜いた革鎧を着け、真っ白なマントを羽織っている。

 金髪をキザったらしくかきあげる仕草はまるで舞台役者の様だった。


「あぁん?なんだテメェ」

「やんのかぁオラァ!」


 絵に描いたように凄むチンピラ2人を無視して男は襲われていた女性に声をかける。


「お怪我はありませんかマドモアゼル。

 後の事はこの僕、乙女の守り人アークにお任せ下さい」

「え、あ、あの……」


 次々にポーズを決めながら気取ったセリフを口にする男に女性は少し戸惑い気味だ。

 だがまぁ、助けが来たなら俺の出る幕はないか。

 そう思い、立ち去ろうとした俺の目に入ったのは……。


「オラァ!」

「ぐはぉ」

「死ねやぁ」

「ぐふぅ!」


 アイツ弱えぇぇえ!!!


 ビックリした。

 正直、喧嘩慣れしてはいるが所詮はチンピラ、対して強くはない。

 あの男は多少派手ではあるが格好からして冒険者だろう。

 まさかこうも一方的にやられるとは思わなかった。


 そしてオロオロする女性と目が合ってしまう。


「…………はぁ」


 俺はさっきよりも深くため息を吐くと更に一歩踏み出す。


「おい、悪いがその辺にしてくれないか?」


 今度は何だ?


 今度の声の主も冒険者風の男だった。

 コイツは普通の冒険者風だ。


「んだテメェ?」

「悪いがその男は俺の連れなんだ」

「知るかオラァ」


 チンピラが殴り掛かるが直ぐ様男によって鎮圧されてしまった。

 連れの男とは違いなかなかの実力者の様だ。


「まったく、急に走り出したと思ったらまたかよ、アーク?」

「ふ、ふふ、済まないねヴィード、乙女の悲鳴が聞こえてしまったのさ」

「へいへい」


 ヴィードと呼ばれた男はボコボコにされたキザ男……アークを助け起こすとお礼を言う女性を表通りへと促した。


「お前も悪かったな」


 そして俺にも声を掛けて来る。


「いや……気にするな」

「それにしてもこの街は治安が良くないな」

「そうなのか?」

「ああ、お前はこの街に来たばかりか?

 どうもこの街の領主が権力闘争の末、街の北側にあるボロ屋敷に幽閉されているって噂でな。

 その代官として中央から来た奴が無能で、まともに治安も維持できてないみたいなんだとよ」

「領主が幽閉?」


 聞き返すと「あくまでも噂だぞ」と前置きしてヴィードは詳しい話を教えてくれた。


「領主の姿が見えなくなったと思ったら中央から委任状を持った代官がやって来て仕切り始めたらしい。

 それと同時に放置されていたボロ屋敷が急に厳重な警備が敷かれたそうだ」

「……興味深い話だな」

「まぁな、だが国のゴタゴタなんかには関わらない方が良いぜ」

「そうだな」


 俺は情報の礼を言って2人の冒険者と別れだのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「北のボロ屋敷ですか」


 夕方、ランスさんが手に入れて来た話を聞きました。


「その屋敷の噂なら俺も聞いたな」

「これは調べてみる必要が有りそうですね」

「ユウ先生、もし伯爵が幽閉されていたらどうするのですか?」

「もし幽閉されていたらですか?」


 わたしはアルさんに微笑みながら答えます


「勿論、助け出しますよ。力尽くでも」


 そう言うシンプルで分かりやすい展開が好みですよ。

 わたしは。

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