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薬師のユウさん、大斧担いで自由に生きる  作者: はぐれメタボ
第二章《暗躍する魔族》
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◆潜入

「あれがブランの街ですか」


 王都程では有りませんが、背の高い塀に囲まれた街を遠目に見て呟きました。


 ブランの街は南に大きな門があり、西側は氷鳥湖、北側は山から湖に流れ込む大きな河となっています。


「さて、どうする?」


 ヴァルさんは門で行われている検査の事を言っているのでしょう。

 ヴァルさんは目元を隠す様な仮面を付け、コゼットさんは色粉で髪の色をブラウンに染めているとは言え、厳重に検査されると正体が露見しかねません。


「ヴァルさんとコゼットさんはここで待って貰うのが良いでしょうか?

 一度中に入れば問題ないと思いますが……アレでは難しいですよ?」


 ブランの街の門番は商人の運んで来た樽や木箱を一つ一つ開封したり、農民が運ぶ麦に何度も槍を刺したりと、非常に厳重に検査を行なっています。

 正直、王都でもあそこまで厳重に検査はしません。


「以前はあんなに厳重な検査など無かった筈です。

 多分、お母様を捕らえた事でブラン伯爵が何か事を起こさない様に警戒されているんだと思います」

「街の衛兵が掌握されていると言う事はこの街を治めるブラン伯爵殿は拘束されているか、そこまでは無いにしても王家に頭を押さえられ動けない可能性が高いですね」


 アルさんは門番の様子からブラン伯爵が自由に動けないと予測しました。




「お前達は兵に気づかれない様に街に入りたいんだろ?」


 わたし達が潜入方法に頭を悩ませていると、それまで黙っていたランスさん(今はそう名乗っているそうです)が口を挟みました。


 ちなみに彼もブランの街を目指しているとの事で共に行動しています。

 なんでもこの辺りで魔族が目撃されたと言う噂を調べに来たのだそうです。


「ええ、今回はお上に捕らえられたコゼットさんの家族の救出が目的ですからね」

「なら、俺に一つ案がある。ついて来てくれ」


 そう言ってランスさんは街道を外れて歩き出しました。


 ランスさんに先導されてやって来たのは街の東側です。


「東側の城壁には門は有りませんよ?」

「いや……有ったぞ」


 ランスさんはコゼットさんの問いに城壁のすぐ側の林のを指差す事で答えました。


 そこには林の一部を切り開いて作られた小さな畑が有りました。


「成る程な」


 むむ、ヴァルさんはランスさんの考えが分った様ですね。


 その畑は素人が作ったのか、かなり痩せていてあまり実りは多くはなさそうです。


「情報に依ると街の東側はスラム街になっているそうだ。

 おそらくあの畑はスラムの連中が勝手に作った物だろう。

 そして、その近くには……」


 ランスさんが視線を向けたのは木箱や瓦礫が城壁に立て掛けるように積み上げられていて、柄の悪そうな男が2人、腰掛けて煙草を燻らせています。


「幾ら出せば良い?」


 ランスさんは男達に近づいて行くと唐突に聞きました。


「…………………銀貨10枚だ」


 男達はわたし達を値踏みする様に見回した後、そう言いました。


 ランスさんがヴァルさんに視線を送ると、前へと進み出たヴァルさんが懐から金貨を1枚取り出して男達へ渡します。


「「っ⁉︎」」

「口止め料だ。俺達の事を誰かに話せば…………分かるな?」


 ヴァルさんの僅かに威圧が込められた問いかけに男達は生唾を飲み頷きました。



 その後、俺達が瓦礫な木箱を退かし現れた穴を潜り街への侵入に成功したのです。


「まさか城壁に穴が空いているなんて……」

「領主は塞いだりしないのかな?」


 貴族側のコゼットさんとアルさんは街の防衛力の心配をしているようですね。


 ですが、わたしも流石にもう気付いていますよ?

 あの抜け穴は老朽化などで空いた穴ではありませんでした。

 誰かが人為的に開けたものです。

 そしてあの畑……つまり……。


「あの抜け穴はスラムの連中が開けた物だ。

 スラムの人間は税を払っていない。

 その為、市民証が無い。

 市民証が無ければ門から出入りする時に税を取られるが、スラムの人間が外の畑の世話をする為に毎日税を払った門を出るのは不可能だ。

 だからああやって壁を壊して不法に出入りしているんだ。

 ついでに俺達の様な正攻法で街に入れない者相手に小遣いを稼いだり、裏取引に使ったりしている訳だ。

 大きな街のスラムなら大なり小なりそう言うルートがある」


 ランスさんが説明してくれました。

 う〜む、あのバカ貴族が逞ましくなったものです。


「……貴族側としては複雑な気分です」


 アルさんは微妙な顔をしていますが、利用できる物は利用しなければ損ですよ?


「取り敢えず今日のところは宿を取りましょうか?」

「そうだな宿は…………ここが良いか」

「そうですね」


 スラムを抜け、街の中をしばらく進んだところでわたし達は宿をとり休む事にしました。

 そしてヴァルさんが選んだ宿は最高級と言うわけでは有りませんが、そこそこ上等な宿です。


「あの……こんな良い宿を取って大丈夫でしょうか?

 もっと下町の方の宿の方が良いのでは?」


 コゼットさんが不安げに言いました。

 まだまだですねコゼットさん。


 折角休むのなら良い宿の方が良いに決まっています。


「それはですね……」

「それはこの宿の方が安全だからだ」


 説明しようと口を開いたわたしに被せる様にヴァルさんが説明を始めました。


「下町の宿なんかだと宿の人間が宿泊客の情報を金で簡単に売ったりする事も多いからな。

 この宿は中の上と言ったところだが宿の規模に比べて馬車を停めるスペースや馬小屋が大きい。

 客に馬車を持っている商人が多いのだろう。

 そのクラスの商人が贔屓にしているなら情報的な安全性は高いと考えられる」


 ……………………わたしと同じ考えですね。

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