◆『貸し』ですよ
そこからの展開はとても早かった。
頭目を拘束したわたしとヴァルさん(ヴァルジャンさんの事ですよ?)は反抗する盗賊を始末し、操舵手を脅しつけガスタに向かって飛空船を進ませました。
オリオン程ではありませんがなかなかの速度ですね。
そうしてガスタの近くに飛空船を着陸させた時です。
すぐ側の林から揃いの鎧で身を固めた集団が飛空船を包囲したのです。
「おいユウ。どうするんだ?」
ヴァルさんはめんどくさそうに顔を歪ませて甲板から下を見下ろします。
すると包囲している集団の中から若い男が1人進み出て声を張り上げました。
「我々はガスタ辺境伯家の私設騎士団である!
私は騎士団を率いるガスタ辺境伯家嫡男、アルベルト・フォン・ガスタだ!
貴殿らの所属と目的を明らかにして貰いたい!」
うん、アルさんですね。
多分、魔物の間引きの帰りでしょう。
正体不明の飛空船が見えたから林に潜伏して着陸した所を包囲したって所でしょうか?
「貴族か、面倒な事になったな」
「大丈夫ですよ。ここはわたしに任せて下さい」
わたしはヴァルさんに盗賊共を見張っている様に頼むと飛空船の縁から身を乗り出しました。
「アルさ〜ん!わたしで〜す!」
「先生!」
「よっと!」
わたしは地上へ飛び降りるとアルさんの元に小走りで駆けて行きました。
「ユウ先生、コレは一体…………どう言う状況ですか?」
アルさんは飛空船とわたしを交互に見つめた後、首を捻りながら問い掛けました。
「実はですね……」
カクカク、シカジカと説明すると……。
「そ、それってトゥーロン盗賊団じゃないですか⁉︎」
「知ってるんですか?」
「当然ですよ。トゥーロン盗賊団と言ったら人身売買を中心に広範囲で活動している凶悪な盗賊団ですよ。
追い詰めようにも飛空船で空を逃げるので各国でも手を焼いている奴らです」
「そうでしたか。
以前、手配書で見た顔を確認したので捕まえたのですが、結構大物だったんですね」
「お手柄ですね、ユウ先生」
「まぁ、わたしは懸賞金を貰えればそれで良いですからね。
アルさん、後の事は……」
「はい、お任せ下さい」
アルさんは騎士達に捕縛と護送の用意を指示しました。
話が早くて助かります。
「ああそれと中でもう1人盗賊共を見張って貰っている人が居ます」
「え?その人も冒険者ですか?」
「冒険者……一応元冒険者でしょうか?
違法奴隷として盗賊共に用心棒みたいな事をさせられていた人です」
「わかりました。
取り敢えずその方の身柄も辺境伯家で保護します」
アルさんはテキパキと指示を出して行きます。
随分と成長したものですね。
何となくわたしが若者の成長を見守る年長者的な気分になっていると(わたしとアルさんは同年代ですよ)騎士に連れられてヴァルさんがやって来ました。
「ヴァルさん、ひとまず辺境伯家で保護してもらえる事になりましたよ」
「何でいきなりそんな事になっているのか訳がわからん……まぁ今の俺は無一文で行くあてもないから有り難いが…………」
そこで言葉を切ったヴァルさんは少し思案する素振りを見せたからと思うと、アルさんの方を向き膝を着きました。
「私、ヴァルジャンは盗賊に所有されている間、盗賊を手助けし罪無き者を手に掛けました。
どうか、その沙汰を頂きたく……」
そう言ってヴァルさんは自分の罪をアルさんに告げました。
覚悟を決めたヴァルさんに一瞬怯みそうになったアルさんですが、すぐに居住まいを正し告げます。
「事情はユウ先せ……ユウ殿から聞き及んでいる。
その行動は違法な手段で隷属の首輪をつけられての事だろう?
私には正式な沙汰を下す権限は無いが、おそらく不問となるだろう。
法的には奴隷は主人の所有物と言う事になる。
つまりお前に犯罪を命じた者の罪として扱われる。
だが詳しい事情を聞く必要がある為、しばらくの間身柄は当家で預からせて貰うぞ」
ヴァルさんはアルさんの言葉で少し緊張を解きます。
「ではユウ先生、僕はこれで。
頭目の懸賞金は後日ギルドを通しての支払いで良いですか?」
「ええ、それで……いえ、そうですね。
では懸賞金の半分をヴァルさんに渡して下さい」
わたしの頼みにヴァルさんが驚きます。
「なっ⁉︎
何を言っているんだ!
俺はユウに助けられた身だ、金なんて貰えない。
むしろ礼金を払う側だぞ」
「気にしないで下さい。
わたしはこれでもAランク冒険者。お金には困っていません。
それにヴァルさん、無一文でしょう?
これからどうするにしてもお金は必要です」
「だが……」
「では『貸し』と言う事で。
いずれわたしが困っていたら貸しを返して下さいね?」
「…………わかった。
有り難く『借り』ておく。
いずれ必ず恩を返すと約束しよう」
「ええ、その時はよろしくお願いします」
ヴァルさんは騎士に連れられて馬車へと向かいました。
それを見届けたわたしは飛空船の事をアルさんに頼み、リリの待つお店へと帰って行くのでした。




