◆尋問
「な、な、なんだ、何なんだお前は!」
わたしの前ではマクベスと同じブロンドの髪をした痩せぎすな男が質問を投げかけて来ました。
「貴方の様なクズに名乗るつもりはありません。
わたしの名が汚れます」
まったく、淑女に名を尋ねるならまずは自分から名乗るのが紳士というヤツでしょうに……
お!今のフレーズはなかなか良いですね。
今度、似た様な場面で使ってみましょう。
さて、私は目の前に立つ男に対し魔眼を発動させました。
【威圧の魔眼】による恐怖で身体が震えだし、腰が抜けた男は地べたに這いつくばります。
しかし、愚かな男は自らが何故そんな事をしているのかを理解できてない様で、不思議そうな顔で辺りを見回していました。
「一体何が……」
男はそう口にして初めて、自分が恐怖している事に気が付いた様です。
1度自覚してしまえばもう抑える事など出来ないでしょう。
威圧感によって男の精神はゴリゴリと削られて行きます。
その恐怖によって男のブロンドの髪は数秒の内にハラハラと抜け落ちてしまいました。
また、失禁したのか股間の辺りでは上等な布にシミが拡がっていました。
「コレは……」
そんなクズよりもわたしの興味を引いたのはいつの間にかクズが取り落とした1冊の本でした。
その本の文字には見覚えが有ります。
古代魔法言語です。
わたしは本を取り上げると妖精の耳飾に魔力を通し、本に目を落とします。
『ゴブリンでも解るhow-to錬金術 8巻 ~~楽しいキメラ編~~』
……………………随分とポップなタイトルです。
わたしはその本のページをめくりました。
するとまず始めに目次が姿を現しました。
1~5 【キメラってなに?】
6~15 【キメラとオートマタとホムンクルスの違いを知ろう】
16~35 【とっても便利、キメラの使い方】
36~51 【実践!キメラを造ってみよう】
52~68 【応用編、キメラにマジックアイテムを組み込もう】
69~71 【巻末付録の使い方】
72~73 【巻末付録、最新型魔力蓄積炉】
…………子供向けの『楽しい実験』的な本みたいですね。
それにこの巻末付録……これの所為で、このギリギリ魔法使いと呼べなくもない程度にしか魔力を感じない男にもあのキメラを作る事が出来たという訳ですね。
最後に本を裏返し、裏表紙を見ると……。
『著 アヤト・イシイ 発行 第4研究所』
またお前か!
わたしは少し顔を顰めると魔眼を解除し、男を尋問します。
「答えなさい、この本はどうやって手に入れたのですか?」
「あ、あ、こ、交換したんだ。
我に謁見を求めて来た黒い革鎧を着けた人族の男と……」
「交換ですか……その男に何を渡したのですか?」
「ま、魔宝石だ。
我が国の宝物庫に有った魔宝石、風のオーブと交換したんだ」
むむ、わたしは更に不機嫌になりました。
十中八九魔族が関わっていると思います。
まさか水のオーブだけでなく風のオーブまで……。
一体オーブを集めてどうするつもりなんでしょうか?
シアさんから聞いただけですが、アレはただの非常に高品質な魔宝石だそうです。
別に集めてもラー○ミアは復活しませんし、ギャルのパンティが貰える訳でも有りません。
ですがこれで、魔族がオーブを狙っていると言うのはほぼ確定ではないでしょうか?
戻ったらフレイド様に報告して丸投げ……いえ、情報を提供しなければなりませんね。
わたしはもう1度、男に恐怖と威圧の魔眼を使い自由を奪います。
「貴方の様なクズは今すぐ殺したい所ですが止めておきましょう。
貴方は断頭台で民衆に石を投げられ、罵声を浴びながら死ぬべきです」
クズにそう言い残してオリオンを呼び寄せます。
キメラ討伐の報酬はもう貰っていますし、臨時ボーナスとしてあのhow-to本も鹵獲したので、もうこの国に用は有りません。
マクベスにもキメラ討伐が終われば国を出ると伝えていますしね。
面倒ごとは御免です。
わたしは、レジスタンスの雄叫びを背にヤナバル王国を後にするのでした。




