◆終結の戦斧
その美しい戦斧を置いた作業台を囲む様に椅子に腰掛けたわたし達4人は、誰もが戦斧を食い入る様に見つめていました。
誰も何も話さないので、仕方なくわたしが話し始める事にします。
「この戦斧、遺物並みの出来ですよね……」
「…………だよな! やっぱりそうだよな!」
「そうですよね、そうですよね、私の勘違いでは無いですよね!」
わたしの呟きにキースさんがやはりかと、追従すると自身の見立てに自信を持ててなかったパーニャさんも声を上げます。
「ふっふっふ、とうとう俺も遺物並みの武具を造れる域に達したという事だ」
アルッキさんは一眠りして元気になった様です。
わたしが調合した栄養ドリンク(檄にが)も飲ませましたし、大丈夫でしょう。
そもそも、ドワーフは頑丈な種族ですしね。
遺物と言うのはダンジョンから稀に見つかる非常に強力なマジックアイテムの事です。
現在の技術で同等の物を作り上げる事はかなり難しいと聞きました。
アルッキさんはその次元に到達したと言う事です。
「もっとも、嬢ちゃんが用意した素材のお陰でもあるけどな。
あれ程の素材をふんだんに使って作製する機会なんて初めてだからな」
「確かにな、あれ程希少な素材を、それも高品質な物を扱えるなんて滅多に無いからな」
「なんにしてもこれからアルッキさんも忙しくなるんじゃないですか?
遺物級の武具を作った職人ですし」
「そうだな、だいぶ蓄えも使ってしまったからこれからも稼がねばならんからな、この実績は有り難い」
「ああ、かなり高価なポーションを買いあさっていた様ですからね」
「あーその、ごめんね、お父さん」
パーニャさんは少しバツが悪そうに頭を掻きました。
「バカ者が、謝ることは何も無い。
そのお陰でお前は無事だったんだ。
金など後で稼げば良いだけだからな」
「うん、ありがとお父さん」
「それに今回の仕事で俺はまた一歩、鍛治の極みに近づいたからな」
そう言ってアルッキさんは嬉しそうに笑いました。
どうやらアルッキさんの未来は明るそうですね。
さて、気になっていた事も聞いてみましょうか?
「ところで、この戦斧にはまだ名前が無いのですか?」
「ああ、昨日は完成させた所で力尽きてしまったからな。
もし良かったら嬢ちゃんが自分で名前を付けるか?」
「わたしがですか?」
「ああ、嬢ちゃんの斧だからな。良い名前を付けてやれ」
新しい戦斧の名前ですか…………
ここはこの戦斧を的確に表して、なおかつセンスの良い名前を付ける必要があります。
「では、《ぴゅんぴゅん丸》と言うのは……」
「やっぱり俺が決めよう!」
わたしが言い切る前にアルッキさんがそう宣言しました。
パーニャさんとキースさんも『それが良い』と言っています。
そうですね。
この戦斧の歴史はわたしが死んだ後も続き、やがて伝説となるでしょう。
ならば、この戦斧の名前は、この戦斧を生み出したアルッキさんが付けるべきですね。
わたしは腕を組み、考え込んでいるアルッキさんを黙って見つめます。
「よし、この戦斧は全ての争いを断ち切り、終結させる。
この戦斧の名は『終結の戦斧』だ」
◇◆◇◆◇◆
この日、後に数々の英雄達の手によって、いくつもの戦いに終止符を打ち、多くの英雄叙事詩で語られる事になる伝説の戦斧、終結の戦斧の伝説が始まった。




