蹂躙とわたし
わたしは用意した薬の中から特に強力な治癒ポーションを4本取り出すとアリーさんに投げ渡しました。
「怪我をしている冒険者の中で強い人に飲ませて下さい」
わたしはアリーさんの返事を聞く前に戦斧を手に駆けだします。
「まて!嬢ちゃん!」
ギルドマスターが叫びますが、無視しました。
飛び出して来たばかりで、辺りを把握していない内に数を減らしたいのです。
わたしは身体強化の魔法を掛けてゴブリン達との距離を瞬く間に埋めて行きます。
高速で走り寄るわたしに気がついたゴブリンキングが、巨大な岩で作られた棍棒を横薙ぎに振るいますが、わたしは更に身を低くして棍棒の下を潜り抜けました。
頭の直ぐ上を巨大な質量が高速で過ぎ去る感覚に全身の血の気が引きますが、構わず戦斧に手を添え、薬の材料に魔力を加える要領で魔力を戦斧に付与します。
武器に魔力を込めたら強化されるのはマンガや小説では定番ですからね。
わたしもやってみたら出来ました。
身を低くしたまま、戦斧を地面と平行に振るいます。
魔力を帯びた戦斧は、並みの刃物ぐらいは軽く弾き返すゴブリンキングの皮を難なく切り裂き両足首を切り飛ばしました。
わたしは振り抜いた勢いをそのままに、戦斧を高く振り上げます。
ゴブリンキングはとっさに棍棒を掲げますが、わたしの腕力と魔力、そして遠心力と重力を加えた一撃は岩石で出来た棍棒ごと、ゴブリンキングを真っ二つに両断しました。
ゴブリンキングを仕留めたわたしは、頭のなかの警鐘に従い直ぐにその場を飛び退きます。
次の瞬間、さっきまでわたしが居た空間に剣が振り下ろされました。
剣を振り下ろしたゴブリンロードから距離を取り、周囲の戦況にを確認するともう1匹のゴブリンキングはギルドマスターが1人で押さえ込んでいました。流石ですね。
でもなんでムキムキスキンヘッドのおっさんの武器が繊細で優美な装飾が施されたレイピアなのでしょうか?
メリケンサックとかの方が似合うと思います。
2匹のゴブリンナイトの方は、治癒ポーションによって復活した冒険者が4人がかりで戦っています。
アリーさんとティナさんはと言うと、拠点を防衛していた冒険者と共に怪我人を避難させているようです。
「グゴォオォォ!!」
ゴブリンロードが剣を振り上げ、こちらに駆けてきます。
「その剣は貴方如きが手にして良い物ではありませんよ!」
わたしはナイフを3本ゴブリンロードの顔を狙い投擲します。
ゴブリンロードは剣を持たない左手を顔の前に掲げ、ナイフから顔を守りました。
ナイフ程度ではゴブリンロードの皮膚に傷1つ付けられず、簡単に弾かれてしまいました。
しかし、それくらいは予想出来ています。
わたしはゴブリンロードが腕を上げ視界を狭めた瞬間、強化した脚力で背後へと回り込みます。
「痺れよ 束縛の枷 パラライズ」
「グゴォ!?」
隙だらけの背中に闇属性の麻痺魔法を撃ち込みました。
ゴブリンロードはBランクの魔物です。
完全に麻痺させる事はできませんが、一瞬動きが止まります。
大きな隙を生んだ背中にわたしは戦斧を連続で叩き込みます。
「そこです!」
麻痺が解ける瞬間、戦斧をゴブリンロードの左肩に全力で振り下ろし、ゴブリンロードの左腕を肩から切り飛ばしました。
「ギィイィ!」
ゴブリンロードは左腕を失った怒りの咆哮を上げます。
そして剣を振り下ろして来ますが、怒りに任せた雑な攻撃です。
わたしは半身になり剣をギリギリ躱わすと、カウンターで叩き斬る為、戦斧を振り上げ魔力を込めました。
ニィィイ
ゴブリンロードが厭らしく笑います。
重たい剣を手放し拳を握ると、戦斧を振り上げがら空きになったわたしの身体を狙って殴りかかって来ました。
「嬢ちゃん!!」
ゴブリンキングを倒したギルドマスターがこちらに駆け寄りますが、これは間に合いません。
わたし!絶体絶命の大ピンチです!
当たれば人の命など簡単に奪う圧倒的な暴力が込められた拳がわたしに迫った時、ゴブリンロードのこめかみに高速で飛来した水の塊が直撃します。
「甘いですよ。これがわたしの切り札無詠唱魔法です」
不意打ちを喰らいバランスを崩し、膝をついたゴブリンロードにわたしの戦斧が吸い込まれます。
魔力を込めたら戦斧の一撃は、ゴブリンロードの右肩から左脇までを切断しました。
こうしてわたしはゴブリン共を蹂躙したのでした。
でも今回、最後のはヤバかったです。
マンガに載っていた練習方法で無詠唱魔法を習得できてなかったら死んでいました。
ありがとう!少年ジャ○プ!
しかし、魔力を使い過ぎました。少しふらふらします。………こんな感覚初めて!