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薬師のユウさん、大斧担いで自由に生きる  作者: はぐれメタボ
第二章《暗躍する魔族》
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◆師の居所

 ガーネの花は、古木の根元に群生している赤い花弁を持つ小さな花です。

 この花の花弁を煎じて、ギノの絞り汁と混ぜると火傷の薬になります。


「リリ、全て取ってはいけませんよ」

「はい、師匠」


 リリが半分程のガーネの花を採取するのを横目に辺りを警戒します。


 辺境とは言え、ガスタから直ぐ近くの森のごく浅いエリアですから強力な魔物が出る事は少ないですけどね。


「終わりました」

「じゃあ、今日はそろそろ帰りましょうか」

「はい」


 今日は、雷鳥の止まり木は定休日です。

 この世界のお店では定休日がある事の方が少ないのですが、雷鳥の止まり木は薬草採取の為、定休日があります。

 あと、わたしの依頼の関係でたまに臨時休業も入ります。


 なんと言う自由業!

 …………お?


  ガサッ!


「グゥルルル」


 ゴブリンですね。

 1匹だけですし、サクッと殺ってしまいましょう。


 雷鳴の鉈を取り出したのですが、リリが前に出ます。


「師匠、わたしにやらせて下さい」

「………………気をつけるんですよ?」

「はい」


 リリには今まで調薬と共に戦闘技術も教えて来ました。

 しかし、実践は初めてです。


 かすり傷くらいなら問題ありませんが、大怪我をしそうなら止めに入らなければいけませんね。


 リリは自分のマジックバッグから手斧を取り出し構えます。

 

「ギィ!」


 棍棒を振りかざし、奇声をあげ襲いかかって来たゴブリン。


 リリはひるむ事なく棍棒の振り下ろしを躱すと無防備なゴブリンの首に戦斧を振り下ろします。


 いくら威力の乗りやすい斧とは言え、流石にリリの腕力では首を飛ばす事は出来ません。

 

 しかし、リリの手にある斧はマジックアイテムです。

 烈風の斧が2本あったので1本あげたのです。


 召喚魔法で手元に戻せるわたしは1本あれば十分ですからね。

 一応、使い捨て用の普通の投げ斧もいくつかは用意しています。


 風を纏い、威力が底上げされたリリの斧は綺麗にゴブリンの首を切り飛ばしました。


「やりました!」

「討伐した後も辺りの警戒を緩めてはいけませんよ」

「は、はい」


 わたし達はゴブリンから魔石を取るとガストの街に戻るのでした。





「はい、こちらが薬草代金と討伐報酬、素材の売却金です」

「ありがとうございます、リッツさん」


 冒険者ギルドの受付嬢、垂れ耳の犬系獣人のリッツさんに報酬を貰いました。


 今回の採取では、うちの店で使う分以外の薬草は全て売却します。


 ストックは十分にありましたからね。


 そして、採取の間に討伐した魔物の報酬と魔石の売却金の中から、ゴブリンの討伐報酬と魔石の売却金の分を取り出し、リリに渡します。


「コレはリリの分ですよ」

「ありがとうございます、師匠」

「では、帰って夕飯まで調薬をしましょうか」

「はい」

「あっ、ユウさん」


 わたし達が帰ろうとした時、リッツさんに呼び止められました。


「鍛治師のガルフさんから言伝が有ります。

  『師匠の居場所が分かった』っとの事です」

「おお、ようやく分かりましたか!」


 ガルフさんのお師匠様を探して貰い始めてから、すでに2ヶ月程経っています。

 まぁ、この世界の情報伝達速度からしたらかなり早い方ですよね。

 

「ではリリ、わたしはガルフさんの工房に寄ってから帰ります。

 先に帰って採取した薬草の処理を始めていて下さい」

「分かりました」


 冒険者ギルドを出たところでリリとわかれ、ガルフさんの工房へと向かいました。





「おぅ、よく来たな」

「はい、お師匠様が見つかったとか?」

「ああ、ようやくな」

「それで、どこに?」


 ガルフさんは地図を取り出すと帝国の更に向こう側に大きく丸をつけました。


「ここだ、グリント帝国の隣にあるヤナバル王国を超えた、海と山に囲まれた国、リーブン王国だ」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




グリント帝国で唯一、魔境に面していた辺境の地は、帝国一の迷宮都市アリアドネであったが、数年前より事情が異なっている。


 隣国、イザール神聖国が魔境に飲み込まれると言う大事件が原因だ。


 イザール神聖国は、精霊教の教皇であり、国家元首でもある『聖女』ロザリー・ミル・イザールの圧倒的なカリスマと精強な騎士団、特に魔法と剣術を修めた魔法騎士で構成された精鋭、聖騎士団の武威によって周囲の小国が次々と魔境に呑まれ、滅亡していく中、平穏を保っていた。

 しかし、そのイザール神聖国も魔境からあふれ出した魔物によって崩壊してしまった。


 イザール神聖国の領土は魔物の領域と化したのだ。


 しかし、小国とは言え1つの国家の領土である。

 その領土全てが魔物で溢れかえっているわけでは無い。

 それでも、イザール神聖国と接していた帝国の領地では魔物への対策を強いられているのだが、それが十分かと問われれば疑問の声が上がるだろう。

 


 グリント帝国の森の中、男が1人歩いていた。

 黒く染められた革鎧に黒いマントを羽織っているその姿は、闇に紛れ少し目を離せば、たちどころに存在を見失ってしまうだろう。


 男が歩くのは元イザール神聖国領からほど近い田舎の森の奥だった。

 魔物は多いが、特別強い魔物は少ない。


 そんな森の中の拓けた場所で立ち止まる。

 すると男は、マジックバッグから何かの骨を取り出した。


 マジックバッグから次々に取り出された骨がうず高く積まれる。


 男が軽く指を振ると、骨を囲むように魔法陣が浮かび上がり、明滅する。

 それを見届けた男は僅かに口角を上げると骨に背を向けて立ち去って行った。

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