◆極光のザジ
「何のつもり?極光」
瀕死の私に迫った魔王リセルシアの前にザジさんが立ちはだかりました。
ザジさんは私を背に庇う様に立つと手にした剣の切っ先をリセルシアに向けます。
「彼女には恩があってな。殺させる訳にはいかない」
「退いて、命令だよ」
「俺が仕えているのはシャルト様だ。
あんたの命令を聞く謂れはない」
「そのシャルトから任務の間僕に従う様に命じられたはずだよね?」
「水のオーブを確保した時点で任務は終了している」
ザジさんとリセルシアの睨み合いは、物理的な圧力でも有るかの様に周囲に威圧感を撒き散らせています。
「…………殺すよ?」
「やってみろ」
ジリジリとした空間の中での睨み合いは数時間はたったのではないかと思いましたが、実際には数秒だったのでしょう。
先に視線を外したのは魔王リセルシアでした。
「………………………………まぁいいや、君を殺せばシャルトが煩いからね。さっさと帰るよ」
「ふぅ、了解」
「ま、待ちなさい!」
わたしの声に、2人の魔族は足を止めます。
何か秘策があったわけでは有りません。
それでも、気づけば呼び止めていたのです。
「ユウ、いくらお前でもその状態で俺とリセルシアを相手には出来ないだろ。大人しく寝てろ」
むむむ、言ってくれますね。
ザジさんの癖に生意気ですよ!
私の技をパクって強くなった癖に!
いや、それだけであそこまで急激に強くはなりませんか。
良い師にでも会えたのかも知れません。
わたしは、なけなしの魔力を使い、身体強化を発動させると、一気に踏み込みました。
瞬時にザジさんの背後を取ったわたしは雷鳴の鉈を振り抜きます。
しかし…………
ガシ!
雷鳴の鉈を持った腕をザジさんに掴まれ止められてしまいます。
「ぐっ!」
「ユウ…………妹を助けて貰った事には感謝している。だからこの場ではお前を殺しはしない。
すこし大人しくしていろ」
「がぁ!」
ザジさんの、蹴りを受け、再度壁に叩きつけられます。
わたしが痛みに耐えている中、ザジさんとリセルシアは地面に敷かれたスクロールに描かれた魔法陣に乗り、霞の様に消え去りました。
そして、残ったスクロールが燃え上がり、会場には喧騒だけが残されたのです。
何とか保っていたわたしの意識も、こちらに駆け寄ってくるシアさんを認識したところで途切れてしまいました。
「知らない天井です」
やはり、目覚めた時に知らない場所だった場合はこのセリフでしょう。
有名過ぎて元ネタも曖昧です。
『新世紀』でしたっけ?
「よいしょっと!」
上体を起こし辺りを見回すと綺麗な調度品や応接用のテーブル、ソファなどが有ります。
王宮のわたしがお世話になっていた部屋ですね。
知ってる天井でした。
「ユウ先生、目が覚めたのですね!」
「シアさん」
扉が開き、ちょうどシアさんが様子を見に来てくれました。
「シアさんはお怪我などは有りませんでしたか?」
「はい、わたくしはすぐに戦士団の方々と合流出来たので大丈夫です」
わたしはシアさんから、その後の事を聞きました。
気絶したわたしは戦士団の人たちによって王宮に運ばれ、丸1日眠っていたそうです。
「あの………………ユウ先生はあの魔族とお知り合いなのですか?」
ああ、それも説明しなけれはいけませんね。
そこをボカしてしまうと最悪、魔族と通じていると取られかねません。
わたしはミリス草を手に入れる為、辺境の危険地帯で魔族と共闘した事などを説明するのでした。
 




