◆定番イベント
ガタガタと馬車に揺られて王宮を目指します。
馬車の窓から見える街並みはミルミット王国やグリント帝国と変わらない建物も有りますがどこか和風と言うか、中華風と言うか…………そう、何処と無くオリエンタルな雰囲気なのです。
道行く人も冒険者風の格好の人も居ますが、市井の民達は袴の様な服を着ている人や和服の様な服を着流している人も多いです。
そして、何より目を引くのはリザードマンの多さです。
リザードマンは二足歩行する大きなトカゲの様な姿をした亜人の一種で、一般的には人類として分類されます。
ミルミット王国やグリント帝国ではほとんど見かけなかったのですが、この国では民の半分くらいはリザードマンの様ですね。
不思議そうに見て居た私にシアさんがリュウガ王国に付いて解説してくれました。
なんと、リュウガ王国の国民の約90%がリザードマンだそうです。
しかし、この、王都にはリザードマン以外の種族も沢山いる様に見えます。
その事について聞くと、殆どのリザードマンはこの国の北側にある各部族の自治区で原始的な生活をしているらしく、この王都ではリザードマンとその他の種族は半々くらいだそうです。
そして、国王様もリザードマンらしいです。
リュウガ王国の説明を聞いていると王宮につきました。
御者さんが馬車の扉を開けてくれます。
あ、御者さんもリザードマンですよ。
わたしとシアさんが馬車から降り立った時でした。
「シンシア殿!」
王宮の方から1人のリザードマンが歩いて来ました。
筋骨隆々で鍛え上げられた肉体を持った(多分)イケメンです。
装飾された、高級そうな布地で出来た着流しを着ています。
かなり高い地位にある人物だと思います。
「クルーガー殿下!
お部屋でお待ち下さいとお伝えしたでは有りませんか!」
「堅いことを言うな。
お前達に段取りを任せると、『礼服だ!』『口上だ!』と煩くて敵わん」
慌てた御者さんをクルーガー殿下とやらが煩わしそうに端に追いやります。
と言うか『殿下』ですか。
「お久しぶりでございます。クルーガー殿下」
「うむ、この度は私の無理な頼みを聞いて貰い感謝に絶えない」
「勿体無いお言葉でございます。
こちらがお話しした薬師のユウ様です」
シアさんがいきなりこちらに振りました。
これは、事前にいろいろと教えて貰うべきでしたね……
「お初にお目にかかります。薬師のユウと申します」
「うむ、私はリュウガ王国、国王ダイナム・ダダム・リュウガの嫡男クルーガー・ダダム・リュウガだ。
この度は遠路を呼びつける様な真似をして申し訳なく思う。
だが、どうか私の友の命を救って貰いたいのだ」
リザードマンの王子様はそのワイルドな見た目に反して、なんとも知的で礼節を弁えた人物でした。
クルーガー殿下に案内された部屋には大きなベッドが1つあり、そこには人族の男性が眠っていました。
彼が患者のエリックさんです。
クルーガー殿下の幼馴染で、護衛でもあるそうです。
数ヶ月前、王都の近くの集落を襲っていた魔物を、演習中だったクルーガー殿下率いる戦士団が討伐したらしいのですが、その時クルーガー殿下を庇ったエリックさんが魔物の毒を受けたそうです。
「それで、どんな魔物に噛まれたのですか?」
「うむ、黒蛇と呼ばれる魔物だ。
我が国では毒を受ければ2度と目覚めぬ眠りに落ちると云われ恐れられている魔物だ」
「黒蛇ですか……聞いたことが有りませんね?」
「この国特有の呼び方なのでは有りませんか?」
シアさんが良いことを言いました。
実は魔物の名前は全ての国で統一されているわけでは有りません。
大きな国ではだいたい統一されていますが小さな国や田舎の村などでは、独自の名前で呼ばれる魔物も存在します。
「参考になるかは分からないが、これがその時に討伐された黒蛇の牙だ」
クルーガー殿下は机の引き出しから布に包まれた牙をとり出しました。
「拝見します」
私は牙を受け取り調べます。
「これは…………ダークパイソンの牙ですね」
ダークパイソンはBランクの蛇の魔物です。
「え、ダークパイソンの毒は確か……」
そうです。
シアさんが驚くのも無理はありません。
確かにダークパイソンは人の意識を奪う強力な毒を持っていますが、その毒を解毒する薬は存在します。
高レベルな薬ではありますがとんでもなく難しいと言うわけではありません。
「あ、そう言う事ですか」
わたしの閃きにより謎は全て解けました。
「ユウ先生、どう言う事でしょうか?」
「ダークパイソンの毒を解毒する薬はあるキノコが原料なのですがそのキノコがこの国には無いのですよ。
この国の環境では育たないキノコなんです」
「なるほど、だからこの国ではダークパイソンに噛まれるともう助からないと云われているのですね?」
「はい。幸い、わたしがキノコのストックを持っていますからすぐに治療可能です」
「本当か⁉︎」
「はい、解毒薬を調合しますので少々お待ち下さい」
「ああ、調合室に案内しよう」
その日の夕方、わたしとシアさんは、クルーガー殿下と一緒に夕食を食べいます。
エリックさんは既に目を覚まし休んでいます。
シアさんもわたしが治療している間に国王様に謁見して、親書を渡したそうなので、あとは今回の治療に見合う報酬を貰い帰るだけです。
「おお、これは⁉︎」
「ん、ああ。それは海苔と言う食べ物だ。
昔、我が国に訪れた旅人が製法を伝えたと言われる食べ物の1つで、米によく合うぞ」
素晴らしいです。
是非とも手に入れて帰りましょう。
「ユウ殿は食にも造詣が深いと聞く。
シンシア殿が研究している新たな調味料もユウ殿が製法を伝えたらしいな」
「お味噌とお醤油ですわね」
「ああ、あれは美味いな。
初めて口にしたが何だか懐かしい味がした」
「シアさん、そっちの方はどうですか?」
「もうすぐで量産が出来そうですわ」
「量産出来たら是非、輸入したい。
それと黒蛇の解毒剤となるキノコもな」
「では後日、商談を致しましょう」
「…………うむ、お手柔らかに頼む」
シアさんがとても嬉しそうです。
シアさんが利益を上げるとわたしの食品も豪華になるのでわたしも嬉しいです。
報酬に何か珍しい食べ物を用意して貰うのも良いですね。
「ユウ殿とシンシア殿はすぐに国に帰るのか?」
「そうですね……わたしは数日程観光して行こうかと思っていたのですが、シアさんは時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ。
それに今すぐ船で帰るより、観光してからユウ先生と帰る方が速いですわ」
観光決定です。
「そうか、ユウ殿への報酬は明日には用意出来るだろう。
それに、数日滞在するならちょうど良いイベントがあるぞ」
「イベントですか?」
「ああ、もうすぐ大武闘祭が始まるからな」
何でも大武闘祭とは異世界転移物定番の武術大会の様です。
元々は1番強い戦士を決める為の御前試合だったそうですが、いつしか民の娯楽としての面が強くなり、今では特殊なルールで戦ったりするお祭りになったそうです。
そして、優勝すると国王様から賞品を貰えるらしいのです。
「ユウ殿は冒険者としてもかなりの腕前らしいな。
参加者募集の期限は過ぎているが、もし参加したいなら俺が口を利くぞ?
まぁ、参加だけで予選は受けて貰うことになる。
王族である俺でも予選から戦わなければ成らないからな」
出るのですか⁉︎
王太子が⁉︎
しかし、武闘祭ですか面白そうですね。
やはり定番はやっておくべきでしょうね!




