臨時教員と私
誤字報告ありがとうございます。
m(_ _)m
「やはり、このままと言うのは何かと不味いでしょうな」
「ふむ、どうしたものか」
私が王宮を歩いていると前方で父上と宰相が何かを話し込んでいるのを見つけた。
「如何されたのですか、父上」
「ん?ああ、テスタロッサか、戻っていたのだな」
「ええ、つい先ほど戻りましたわ」
「お帰りなさいませ、姫様」
「ええ、ただいま。
それでお二人は何を悩んでいらしたのですか?」
「うむ、去年のあの事件の所為で学院の教員が足りなくてな。
ようやく見つけたのだが帝国の端から招く為、着任は来年になりそうなのだ。
今は教員達が持ち回りで授業を回しておるが、せめてSクラスの生徒達くらいには良い授業を受けさせてやるべきではないかと思ってな」
父上はあのコーレルの後任が来るまでの繋ぎを考えていたようね。
確かに他の教員の片手間の授業を受けるよりは繋ぎを雇った方が良いでしょうね。
今年のSクラスは王位を継承する予定のレオだけでなく、シアやマーリン、アル、クルスと言った逸材ばかりの当たり年、しっかりとした授業を受けて欲しいわね。
ん?
そうね…………今年のSクラスにはシアが……シアはレブリック商会の会頭で……それなら多分…………行ける!
「父上、宰相様、私に良い考えが有りますわ」
「何、本当か?」
「本当でございますか?」
「はい、高ランク冒険者を雇い、戦闘技術や野営などの知識を教えて頂くと言うのは如何でしょうか?
全ての生徒をと言う訳には行きませんが、Sクラスの生徒だけでも教えを受ける事が出来ればそれは生徒の大きな力となると思うのです」
「成る程な、確かに良い考えかも知れん」
「そうですな、戦闘技術は勿論、野営などの冒険者としての知識もいざと言うときに役に立つかも知れません」
「しかし、そう言った技術を教えてくれるものなのだろうか?
技術は冒険者にとって自ら作り上げた財産だろう?」
「それなら私に心当たりが有りますわ」
「なに?」
「Aランク冒険者の漆黒のユウに依頼するのは如何でしょうか?」
「漆黒ですか?」
「ええ、彼女なら惜しみなく技術を教えてくれるかも知れません。
それに上手く交渉すれば彼女の持つ高度な薬術を教えて貰えるかも知れませんわ」
「成る程な、確かに我が国の薬術のレベルを上げる事が出来るかも知れんな」
「すぐにフレイド卿に連絡を入れましょう」
「そうだな、ガスタへ早馬を出せ」
「畏まりました」
父上の命を聞き、宰相は足早に立ち去って行った。
私と父上はそのまま王宮の中にある王族の私的なエリアにある部屋まで戻った。
「今回はテレサの閃きに救われたな、ルクスの坊主を助けた薬師なら腕も申し分ないだろう」
「ユウちゃんは戦闘技術の方もすごいわよ、前にワイバーンに襲われたとき次々と討伐してくれたわ」
「そりゃすげーな」
私と素に戻った父上はかるく談笑をして過ごしたのだった。
ある地方の領地を視察している時、マリルが王都から鳥に寄って運ばれた手紙を持ってやって来た。
「テレサ様、寮監のサマンサから例の件の報告が届いております」
「そう、どうなったの?」
「はい『想定通り、シンシア様はユウ様より、ユウ様の故郷の調味料、味噌と醤油の製法を買い取り、レブリック商会での作成を始めようとしています』との事です」
マリルが読み上げたサマンサからの報告を聞き、私は自らの計画が順調に進んでいる事を確信する。
そう、私があの時、安らぎの水晶と交換で手に入れた味噌と醤油はまだ沢山残ってはいるがいずれは無くなってしまう。
そこで私は考えたのだ。
どうにか味噌と醤油を安定供給する方法は無いかと……
そして、思いついたのはこれだ。
転生者であるシアなら絶対に味噌と醤油に興味を持つに違いない。
その製法を持っている者が居れば、それを手に入れてレブリック商会の力を使い量産するだろう。
そして、まさに私の想定通りに事が進んでいた。
ユウちゃんがシアの前で味噌か醤油を出すかは賭けだったけど、私は賭けに勝ったみたいね。
これで、数年後には安定して味噌と醤油が手に入るわ
「ふふふ」




