評定とわたし
学院の教員の部屋が並ぶ一角にある大きな会議室に遠征に同行していた教職員が集まっています。
もちろんわたしも参加しています。
遠征から戻り、1日休みを取った今日、この会議室では遠征での生徒達の評価が話し合われているのです。
「さて、次はAクラスの1班の評価ですが……」
「Aクラスの1班の評価はEでしょう」
「他の生徒は兎も角、あの問題児のランスロットには厳しい処分を与えるべきではありませんか?」
「そうですな。勝手な行動で班員を危険に晒したばかりか、自分が助かる為に他の生徒を犠牲にしようとするなど、貴族として情けない限りです」
「しかし貴族の生徒を厳しく罰しては、何かと問題になるのでは?」
「何を言っているのですか!
学院は貴族の権力に屈してはいけません」
「やはり、ランスロット・フォン・サマールは退学処分にするべきではないですか?」
「退学は厳し過ぎるのでは?
緊急時の行動ですし……」
サマリオ先生の言葉を遮る様に他の先生方か意見を交わします。
どうもランスロットさんが平民の生徒をオークの前に着き飛ばした事を問題視する先生が多いですね。
「ふむ、直接見たユウさんはどうお考えですか?」
サマリオ先生がわたしにも意見を求めて来ました。
わたしは臨時の教職員なので飽くまでも参考意見を述べるだけです。
その意見を聞いてサマリオ先生達が決定を下す事になります。
「Aクラスの1班ですか……先ず、何の情報も集めずに闇雲に森の奥に足を踏み入れたのはマイナスです。
しかし、オークの群れに遭遇した際、無理に交戦せずに、すぐ様撤退したのは評価出来るところですね。
そして、皆さんが問題にしている追い詰められた時のランスロットさんの行動ですが……わたしは仕方の無い行動だと考えています」
「え⁉︎では、ユウさんはランスロットの行動は正当な行為であると?」
「いいえ、あのバカはただのクズですよ。
他にやり様はあったはずです。
しかし、自らの命がかかったギリギリの局面での行動です。
そこは酌量の余地があると思います。
それに感情を抜きに考えればランスロットさんの判断は合理的と言えなくも無いです。
あのまま岩の前で何もせずに固まっていた場合、わたしが止めなければ全員オークに殺されていたでしょう。
それを考えれば1人を犠牲に他の4人が逃げる隙を作るのは有効だと言えるかも知れません。
より多くの者を救う為に少数を犠牲にする判断は為政者として見れば正当な事です。
ランスロットさんの行為は間違っていますが、不正解ではないと思います。」
「ではユウさんはランスロットに罰則を与えるべきだと思いますか?」
「罰を与えるのでは無く、次に間違いを犯さない様に導くのが教育では無いでしょうか?
まぁ、わたしならランスロットさんを叩き殺しますけど」
勿論ジョークですよ。
アメリカンなヤツです。
「なるほど、罰するのではなく、導くのが教育ですか……」
わたしの意見を聞いたサマリオ先生が考え込みます。(ジョークはスルーされました)
「ランスロットの処遇に付いて、他に意見のある方はいらっしゃいますか?」
「確かにユウ殿の言うことはわかる。
ここは実社会で正しく生きる事を教える為の場所、間違えたからと言って放り出すのは良くないかも知れませんな」
「しかし、ペナルティは必要では?」
先生達が議論を交わすのをぼーっ静観します。
若者を育てると言うのは大変ですね。
わたしだって教員でなけれはランスロットさんを真っ二つにする所です。
「分かりました。
ランスロットには罰則は与えません。
しかし、厳重に注意、指導を行う事とします」
サマリオ先生の決定に異議を唱える先生は居ませんでした。
良かったですねランスロットさん。
首の皮1枚で繋がりましたよ。
このまま反省して大人しく過ごして欲しいものです。
さて、次はSクラスの評価ですね。




