争いの火種とわたし
わたしは悩んでいます。
ミルミット王国の王都にある学院の図書館の地下。
アヤト・イシイ博士の第3研究所跡で発見した物の取り扱いに悩んでいるのです。
普通の冒険者なら国に報告して莫大な報奨金を貰う所ですが…………うん、コレはわたしのアイテムボックスに封印しておきましょう。
これが有れば魔族との戦いを有利に進める事が出来ると思いますが、戦争の後、新たな争いの火種になるに違いありません。
平和の為ですよ。
平和の為、わたしは行動するのです。
わたしがそっと触れると巨大な影が一瞬のうちに消え去ります。
今、争いの種が一つ消え去りました。
ところで、もし、わたしが死んだらアイテムボックスの中にある物はどうなるのでしょうか？
今度、神様に聞いてみる事にします。
その後、アレがなくなりだだっ広い部屋になった空間を調べて回ると、いくつかの研究資料とアレについての資料を手に入れました。
これも封印しておきましょう。
粗方、目ぼしい物を回収したわたしは第3研究所跡から撤収する事にしました。
この研究所の事は秘密にしておく事にします。
今まで、ずっと気づく事はなかったのですから、これからもずっと気づかれないでしょう。
数時間ぶりに地上に戻って来たわたしは教職員用の寮に戻る事にしました。
「おい、そこの女！」
学院の敷地を歩いていると何処からともなく『そこの女』を呼び止める声が聞こえて来ました。
「おい！おい！おいと言っているだろう！」
ん？
もしかして『そこの女』とはわたしの事でしょうか？
わたしが振り返ると何人かの学生がニヤニヤとしながら立っています。
「まったく、子爵家後継であるこの俺を無視するとはいい度胸だな」
いきなり見知らぬ貴族の少年に度胸を褒められました。
「まぁいい、女、これから俺達は貴族のOBを招いて食事をする。
お前にはその給仕の仕事をくれてやろう。
ついて来い」
………………お笑い芸人さんでしょうか？
真ん中にいる少年はずっとニヤニヤしているし、左右の2人はと言えば……
「流石、ランスロット様です。
この様な下等な平民の女に貴族の給仕をする栄誉を与えてやるなんて、お優しいです」
「まったく同感です。
それに見ればその女、黒髪に黒い瞳と言う珍しい容姿をしております。
さぞOBの方々も喜ばれる事でしょう」
ただのバカですね。
おそらくわたしが今まで出会ったバカ貴族の中でもぶっちぎりでバカな貴族です。
真ん中のバカを持ち上げる左右のバカの更に横には多くの荷物を持たされている生徒が居ます。
おそらく平民の生徒でしょう。
バカ貴族共が急にわたしに絡んだ為、オロオロしています。
「おい！ 何をしている早く来い！
貴様の様な平民に貴族と出会える場を与えてやるのだ！感謝するがいい！」
「あぁ、お断りします」
「は⁉︎」
「では、わたしはこれで」
「おい、まて！」
バカ貴族が立ち去ろうとしたわたしの腕を掴んで来ました。
面倒ですね。
「いい加減にして下さい」
「「「ヒィッ！」」」
【威圧の魔眼】の効果によって相手の強さを感じ取る事ができないバカ貴族共も震え上がらせる事が出来ます。
ついでに平民のオロオロくん達も震え上がっていますが死ぬ訳ではないですし大丈夫ですよね。
わたしは、腰を抜かしてしまったバカ達を置き去りに夕食を求めて寮に帰るのでした。
