豹変とわたし
わたしとフレイド様は席を立つと入室して来た男性に向き直ります。
短めに整えられた髪に鋭い目、礼服をキリッと着こなした30代くらいのイケメンです。
フレイド様は胸に手を当てる略式の敬礼をとり、わたしもスカートの端を持ち礼をとります。
カーテシーと言うやつです。
「うむ、今日は非公式の場である。
楽にせよ」
国王様の言葉にわたしとフレイド様は礼をやめます。
「お久しぶりでございます、国王陛下」
「ああ、久しいなフレイド卿。して、そちらの御令嬢が件の薬師殿か?」
「はい、彼女が今回、学院の臨時教員を依頼したユウ殿です」
「お初にお目に掛かります、ユウと申します」
「余はミルミット王国、国王フリードリヒ・フォン・ミルミットである。
ユウよ、帝国での活躍は余の耳にも届いておる。
そなたの働きにより、我がミルミット王国とグリント帝国は更に友好を深める事が出来た。大義であった」
流石、国王様です。
強さとはまた違うプレッシャーを感じますね。
「ありがたきお言葉でございます、陛下」
こんな感じで合っているでしょうか?
「さぁ、いつまでも立っている訳にも行かぬだろう、座りなさい」
わたしの言葉にゆっくりと頷くと国王様はわたしとフレイド様にソファを勧めて来ました。
わたしとフレイド様が並んで座り、わたし達の前に国王様が腰を下ろします。
「お前達は退がれ」
国王様がそう言うと部屋の隅で気配を消していたメイドさんやドアの前に仁王立ちしていた騎士さんは退室して行きました。
今は部屋の中にはわたしとフレイド様、国王様の3人だけです。
「フレイド卿、ユウは信頼に足る者なのか?」
「はい、問題有りません。
ユウ殿、今日この部屋での事は他言無用で頼む」
「え? 分かりました」
わたしがそう約束すると国王様が急に脱力した……といいますか?
さっきまでのプレッシャーが嘘の様に搔き消えました。
「あーダル、 ったく、何でこんな回りくどい話し方しなきゃ何ねぇんだっつの」
「君は相変わらずだね、フリード。
国王になってからもその調子だ」
「変わったじゃねぇか。
外ではちゃんと『おー様』やってるぜ」
「程々にな、ユウ殿が驚いている」
フレイド様の指摘で国王様はようやくあまりの変わり様に言葉を失っているわたしに気が付いた様です。
「おっと、わりぃ、驚かせちまったか。
でも俺としてはこっちが地なんだよ。
フレイドが信頼しているみたいだから大丈夫だとは思うが内緒にしてくれよ」
「は、はい」
「それと、ルクスの坊主を助けてくれてありがとな。改めて礼を言うぜ」
「なんだ、お前が礼を言うなんて、雨でも降るのか?」
「降るか! ダチのガキが命を救われたんだ、礼くらい言うさ。
言うだけならタダだしな」
なんだか今日はフレイド様もいつもと雰囲気が違いますね。
「ユウは帝国でサリナにも会ったんだろ?
元気そうだったか?」
「はい、ルクス様を心配されていましたが完治後はとても明るく、わたしにも気さくに話しかけてくださいました」
「そうか、あいつも変わらずにやってるみたいだな」
それからしばらくわたしの旅の話で盛り上がりました。
「では、失礼致します、陛下」
「失礼致します」
「うむ、有意義な時間であった。
ユウよ、学院でのそなたの働きに期待している」
「は、はい」
うーむ、緩急が凄いです。
よくフレイド様と国王様はアレを使い分けられますね?
貴族って怖い。




