お菓子とわたし
宿を出たわたしは、市場に向かいました。
市場の近くの広場で屋台で買った串焼きを食べて体力を補充したわたしは、早速市場を見て回ります。
殺虫香の材料となるハーブを幾つか買いながら威勢の良い商店の主人達を流し見ます。
「あれはっ!!」
卵を売っているお店を発見しました。
しかし、わたしの目は卵より店の一角を占領している瓶に入った商品に釘付けです!
その黄色いソースはどこからどう見てもマヨネーズです。
間違い有りません!
何故なら木製の看板にマヨネーズと書いてあるからです。
恐らく過去の転移者の努力のお陰だと思います。
大きな街なら卵や砂糖も比較的簡単(それなりのお値段ですが)に手に入ります。
聞けば過去に流通に改革をもたらした人物が居たらしいのです。
市場に来た途端、先輩転移者の影がチラつきますね。
さすがです。
わたしもせっかくですからお菓子でも作りましょうか?
生前?は趣味でよく作っていましたから結構自信があります。
こう見えても料理は得意なんです。
この世界に来てからは全然作っていませんけど。
異世界の料理を楽しみたいのも有りますが、調味料の不足が大きいですね。
日本人として味噌と醤油は必須です。
過去の日本人は味噌と醤油の製法を残していないのでしょうか?
無いのならば、このわたしが作り上げるしか無いですね。
わたし、味噌と醤油の作り方分かるんですよ。
テレビでアイドルグループが作っているのを見て自分でも作ってみた事が有ります。
わたしはお菓子の材料として卵と小麦粉、砂糖、牛乳などを買い求めました。
バニラの匂いがする木の実を見つけたのは心強いです。
異世界に来た日本人が作るお菓子と言えばプリンです。
だいたい10の作品があれば7、8作品はプリンを作ります。(わたし調べ)
プリン率は正に7割を超える勢いなのです!
わたしも諸先輩方に倣いプリンを作りましょう。
あとドーナツとリーフパイも!
たくさん作ってアイテムボックスに入れておけばいつでも出来立てが食べられるのです。
時間停止はチートです。
買い物を済ませると急いで宿に戻りました。
想像していたらお菓子がたべたくなったのです。
宿の裏庭で手早く殺虫香を調合します。
材料となるハーブを魔法で乾燥させて、弱い毒をもつ毒草の煮汁を加え練っていきます。
小さめのお灸の様な形に成型したら完成です。
完成した殺虫香を持ってミオさんを探します。
「ミオさん、殺虫香が完成しました」
「もうできたのですか?」
「はい。このお香に火を付けて部屋に煙を充満させて下さい。人に害は有りませんが煙たいので、10分程外に出てもらった方が良いですよ」
「ありがとうございます。早速使わせていただきます。お代は幾らに成りますか?」
「材料費と手間賃で小銀貨1枚で良いですよ。
あと少し厨房をお借りしても良いですか?」
「厨房ですか?夜の仕込みは終わっていますから営業までの間なら構いませんよ」
ミオさんから小銀貨1枚と厨房の使用許可を貰いました。
それではお菓子作りです。
厨房でトムさんに場所を借りお菓子作りを始めます。
先ずはプリンです。
卵と牛乳を混ぜ合わせ砂糖で味を整えた後、バニラ風の実を少し加えて、器に入れ蒸していきます。
調理していると休憩中のミーナさんがやって来ました。
「ユウさん、何を作っているんですか?」
「プリンと言うお菓子ですよ」
「ユウさん、お菓子も作れるんですか?」
「くっふっふ、お菓子作りは得意ですよ。ミーナさんも食べますか?」
「良いんですか!?」
「勿論良いですよ。ミオさんとトムさんの分も作りましょう」
「わたしもお手伝いします!」
「助かります。
では砂糖を煮詰めてカラメルソースを作って貰えますか?」
わたしとミーナさんはプリン、ドーナツ、リーフパイを完成させました。
では実食と行きましょう。
「おいし~。
こんな美味しいお菓子初めて食べました。
滑らかな食感と卵の風味が良いですね。ほろ苦いソースも良いアクセントに成っていますね」
「このドーナツってのもシンプルだが美味いな。
いろいろバリエーションを作れそうだ」
「このパイもサクサクで美味しいですね。紅茶に合いそうです」
皆さん気に入ってくれた様です。
わたしもアイテムボックスに大量のお菓子を溜め込んでホクホクです。
わたしは紙を取り出すとトムさんに手渡します。
「何だこれは?」
「今日作ったお菓子のレシピです。差し上げます」
「っ何 ⁉︎
おいおいこれは一財産だぞ!王都でもこんな美味い菓子なかなか無いんだぞ」
「良いんですよ。
トムさんが作ってお店に出してくれればわたしが食べたい時にいつでも食べられるじゃないですか」
これも数々の作品で使われるパターンですね。
正直に言うとこのセリフを言ってみたかっただけです。
交渉の結果お店で出した後、わたしは原価で食べられることになりました。
タダで良いと言ってくれましたが流石にそれは悪いです。
ファンタジー作品に憧れてやってみただけなのですが、後にロック鳥のさえずり亭のお菓子は王侯貴族すら絶賛する大人気商品になり、わたしは自分のした事に焦りまくるのですが、この時は全く気にしていませんでした。
これも定番ですね。




