兄とわたし
「こうして冒険者モモタローは従魔のシャドードッグ、ツリーモンキー、ブルーバードの3体と共にオーガを討伐したのです」
「テイマーって凄いですね!」
「そうでしょう、そうでしょう」
わたしの話にユーリア様のテンションはマックスです。
ちょうど話の区切りが良い所でノックの音が飛び込んできて、ユーリア様の返事を聞いてドアが開きます。
フレイド様とシルバさんです。
「何を話していたんだ?」
「今、ユウ様のお国の冒険譚をお聞きしていたのです」
「ユウ殿の故郷の冒険譚か、私も少し興味があるな」
「旦那様」
「わかっている」
シルバさんに窘められフレイド様は居住まいをただしました。
「ユウ殿。長旅の疲れも取れぬ間に申し訳ないが、先程学院に通っている私の息子が訪れたらしくてな。
ユーリアの治療をしてくれたユウ殿に是非挨拶したいと言っているんだ」
「お兄様が来られているのですか?」
「ああ、お前にも会いたがっていたぞ」
辺境伯家の後継ですか。
フレイド様の息子さんならアホではないでしょう。
「分かりました。
ご挨拶させて頂きます」
「はは、そう畏る事はないぞ。
息子のアルベルトはSクラス、ユウ殿の教え子となるのだからな」
「Sクラスですか、優秀ですね」
「成績はいいんだがな」
フレイド様は苦笑いを浮かべます。
何か含みがある言い方ですね?
「何か問題でもあるのですか?」
「問題と言う程ではないがな。
息子が入学してから2度、大きな事件があったが、両方共息子とクラスメイトが関わっていてな。
1年目には図書館の地下で隠し通路を見つけて邪教徒に操られた亡者を倒し、2年目には邪教徒だった教師と戦ったそうだ」
「大暴れじゃないですか」
予想以上の活躍です。
たしか、学院の教師だった邪教徒は死霊術の禁術でリッチに転生したと聞きました。
リッチを討伐したのはたまたま居合わせたテレサ様とマリルさんだと聞いたのですが、学院生も戦っていたのですか。
「まぁ、クラスメイトを含めて無茶をしている様だからな、是非とも鍛えてやってくれ」
「なるほど、つまり事件に巻き込まれても大丈夫なくらい強くなれば良いと言う事ですね」
「………………程々にな」
フレイド様とシルバさんに案内されてわたしとユーリア様は応接間にやって来ました。
応接間には部屋の端に控えるメイドさんとソファでお茶を飲む青年が居ました。
青年はわたしとユーリア様に気がつくとスッと立ち上がって綺麗な所作で頭を下げます。
「お初にお目にかかります。
私はガスタ辺境伯家の嫡男、アルベルト・フォン・ガスタと申します」
「初めまして、わたしはユウです。
冒険者兼薬師をしています」
「お噂はかねがね。
ユウ殿には妹の命を救って頂きました。
本当にありがとうございました」
アルベルトさんはわたしの両手を取って頭を下げます。
実に妹思いのいい人です。
「お兄様、お久しぶりでございます」
「ユーリア、本当に元気になったんだね」
「はい、最近は魔法も使える様になりました」
「魔法も!凄いじゃないか」
「えへへ」
うんうん、素晴らしい兄妹愛です。
「アル、久しぶりだな」
「お久しぶりです、父上」
ほう、やはり親子ですね。
フレイド様と並ぶとよく似ています。
「随分と無茶をしているらしいな」
「は、はは、まぁ」
アルベルトさんが気まずそうに目をそらします。
「Sクラスにはレオンハルト王太子殿下もいらっしゃるんだぞ。
殿下を危険に巻き込んだらどうする」
王太子殿下ですか、と言う事はテレサ様の弟さんですね。
アルベルトさんはしどろもどろになりながら弁明します。
「い、いや基本的にレオが突っ込んでいって僕は巻き込まれる方だよ?」
「それでもだ、まったく。
お! そうだ。
いい機会だから少しユウ殿に稽古をつけて貰うと良い。
ユウ殿、すこし見てやってくれ」
軽く手合わせって事ですか。
わたしも学院生の強さがどれくらいなのか見たいです。
「分かりました、やりましょう」
「ほ、本気ですか……」
こうしてわたしは苦笑いしているアルベルトさんと手合わせをする事になりました。




